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悪役令嬢、茶会の主催……挨拶から波乱。

 今日は、お茶会当日です。


 正直……胃が痛いです。


 夜会疲れの奥様達が多い為、茶会は昼過ぎに行うのだけれど……。

 わたしは朝からそわそわ。


「お嬢様。お嬢様は主催として笑顔で立っているのが仕事だと、奥方様が仰っていたではないですか」

「そうですよ、お嬢様。いつもの通り堂々となさっていればいいのです。それだけで、我が伯爵家の誇りでらっしゃるのですから」

 落ち着かないわたしに、お茶を淹れる専属メイドと支度係りとして応援に来た年かさのメイドが、励ましてくれる。

 二人とも、代々我が家に勤めてくれている家の者だ。身内枠と言ってもいい。


 その二人の言う事だし、信頼していいと思うけど……。

 ど、堂々と……? いつそんな事してたのかな。


 昼食はサンドイッチを軽く摘み、すぐに支度に入ります。

 二人がかりで髪を複雑に結い、化粧をし。

 その横では、ドレスの最終点検とアイロンがけをするメイドがいます。

 わたしはただ彼女らの言う通りに、口を引き結んだり、目を閉じたりしてるだけ。

 ドレスって後ろ空きでボタン留め、しかもきれいな形で着る為にワンサイズぐらい小さいのを作るものだから、胴を細く、胸を豊かにする為にコルセットでがちがちに締めるのね。

 その、コルセットが難敵で。


「お嬢様、いきますよ!」

 はあーっと大きく息を吐いたその瞬間!

 ギリギリギリ!! っと、気合いを入れて二人のメイドが胴を締める。

 うわーん、苦しいよー。


「お嬢様は無駄なお肉が少ないですから、ぜんぜん緩めですよ」

 ぜいぜい言ってるわたしに、年かさのメイドが言うけど、ぜんぜん慰めになんかならないって。




 そんな風に、大仕事でドレスを着て、今はお客様待ち。

 最初のおつとめだからか、お母様も監督役として付いてきます。

 ……相変わらず、迫力の悪役美魔女系なお母様だけど、今日はその姿すら心強いや。


 今日は、襟が詰まった爽やかなミントグリーンの昼用ドレス。

 ペチコートで膨らませ、わたし好みにシンプルデザインな仕上がりを誤魔化すよう、年かさのメイドが花やレースが縫いつけられた華やかなオーバースカートで覆って更なるボリュームを添えたのが、今日の装いだ。

 ……うん、まあ、わたしの好みってごくごくシンプルだしね、しょうがないね。

「昼ですからそのお色でも許しますけれど、夜は許しませんからね、バーバラさん」

「ハイ、ヨクワカッテマス」

 ……そして、今日も素敵に原色な母に、色をダメだしされると。




 やや間があって、お客様達が入ってくる。

 両開きのドアの脇には見目の良い使用人が控え。彼ら美しい所作でお客をもてなす。


 ……おお、何とも華やかな一団だ。鮮やかなドレスを着こなした貴婦人達の群にくらっとくる。

 一年、社交界から遠ざかってたからなぁ、迫力ある奥様軍団にひるんでしまうよ。


 わたしはそんな内面を悟られぬよう、にこやかな笑顔でお客様を接待する。

 貴族名鑑も覚え直したから、死角はないよ……多分。




「あら、この天使像はどこの工房かしら? 見ないものね」

「随分と若々しいロマンチックなお部屋ですこと」

 ゆっくりと優雅に席に着くお客様の群れ。お茶の給仕に回るメイド達は忙しそうだ。

 席次はちゃんと、ライバル関係の人は近所に置かないように考えたし、おかしな攻撃が飛んでこないような位置になってるはず。

 わたしの周りは、上級貴族の友人達で固めたしね! チキンと言われようと、わたしは自分の身がかわいいのだ。




 主催者としてご挨拶を入れるので、数十人規模でも、入場が終わるまでにはそれなりの時間が掛かる。

 わたしはお客様全員に声がけしなければならない。心が重い。


「まあ、ご立派なお嬢様だこと。お部屋も可愛らしくて素敵ね。わたくし、時代の社交の華、バーバラ様とお話出来るのを楽しみにしていましたのよ」

「わたくしこそ、お会いしたかったですわ、フィーナ婦人」

 こんな風に、半数程度には好意的な言葉も掛けられるけど。


 わたしの笑顔は、既にひきつっている。


「あらあら、傷心と聞きましたが、随分お元気でいらっしゃるのねえ。わたくしいらぬ心配を致しました」

 見るからに可愛らしい、育ちのよさそうな娘さんを連れた奥様達。


「このようにご立派に勤められるのですものね? お独りでも寂しくないなんて、本当にご立派ね!」

 オホホと高く笑うご婦人の隣では、気の強そうなお嬢様がわたしをにらんでる。な、何で?


「ええ、こんなご立派なお嬢様では、若手などでは霞んでしまいますわ。ですから、長年奥方を選ばれなかった”成り上がり将軍”ハイン様などがよろしいでしょうね!! ……ヒッ」

 平民上がりのモテナイおじさん(48歳) が、フラレ女には相応しいって、そりゃすごい皮肉だ。



 いきなり牽制の一撃をスクラム組んでかましてくる年頃の令嬢持ちのご婦人達。

 とりあえず、わたしは笑顔を返すしかないが。挨拶でかますかぁ。

 これは自分達の狙っている令息を取るなよ、という圧力だろうね。


「まあ、わざわざのご推薦、有り難く存じますわ。でも、お父様が決める事ですもの、わたくしが決める事ではありませんし」

 お母様譲りの迫力笑顔で返してやったら悲鳴上げられた。おかしいな?

「それに、わたくしのような世間知らずには勿体ないような申し出を頂いているそうで、お父様も悩んでいますの。もう少し、わたくしの婿取りは遅れそうです」


 うん、我が家は婿取りなんだよ。それを忘れて貰っちゃならないな。

 相手方の身分は高ければ高い方がいいの。別に平民がどうの、とは言わないけど、我が家へ貢献してくれるぐらいの家格は確実に必要でね。

 おじさんは、バックボーンが貧弱過ぎて完璧アウトなのだ。


 ……はあ、しかし、まだ茶会が始まったばかりなのに、こんな調子でわたし、生き残れるだろうか。




 だが、この人たちはまだ可愛いものであったことを。

 その時、胃をキリキリさせながら聞いていたわたしは、知らなかった。

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