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悪役令嬢、お手紙を書く。

「こ、こらご主人! またフルパワーで力を注ぐ気か!!」

 じたばたともがく魔王系マスコットに、「ゴメンゴメン」 と加減した力を注いで、わたしは息をつく。


 自室の長椅子でのんびりしつつ、わたしは重いため息を吐く。

「明日からは、お茶会の準備か。憂鬱だなぁ」


 ここ一年程、「傷心のため」 と言い訳して、大きな催しには出ないでいたから、正直社交界の復帰には不安しかない。

 ……もう、あれから一年かぁ。彼の事を思えば、まだ胸は痛むけど、当初の頃よりは、大分前向きになれてると思う。

「お母様にしては珍しく、ずいぶんと長く休ませてくれたよね……」


「む、どうしたのだご主人、ため息など吐いて」

「うーん、わたしが主催者でやる、お茶会があってね……」


 わたしはプリティに、今の状況を説明する。


「……ふむ。つまりご主人は、成人貴族の勤めとして、女性貴族に己の実力を示す為、茶会を催せ、と母御に言われたのか」

「そうなの。一階の庭向きの部屋に、わたし用のサロンルームまで用意してさ、そうとう入れ込んでるみたいで……。お母様は社交界では一級の人だから、有名なご婦人もくるだろうし」

「ふむ」

「この茶会の出来で、わたしのセンスが問われちゃうんだよね。もう憂鬱だよ……」


 もふもふと、プリティのまんまるぬいぐるみボディを撫でて癒しを貰いつつ、わたしは明日からの試練を思う。

 ……すごく、すごーく憂鬱だけど、貴族の娘として、避けて通れないのも確かだ。

 いつかは、婿を貰って家長としてこの家をもり立てないといけないし。一人娘だしね。


 そんなわけで、マスコットのパワーアップ計画は地道に続けていくことにして。

 わたしは貴族として、課題に取り組むのだった。



 お茶会の準備。

 これも貴族女性としては重要なお仕事なの。

 女性は昼間の茶会、男性は夜会に、どれだけのお客様を招けるかが、その家の家格を量る目安とされているのよね。

 そして、そういう評判が、婿取りにも影響してくるわけで。


 綺麗な透かしの入った、わたし用にあつらえたばかりの、紋章入り便箋。

 これは御用商人を呼んで、何百もの紙から選び出したオリジナル。淡いクリーム色で手触りもいい品を、選び出したのは一年以上前。

 ……本当はこれで、わたしの結婚式の招待状を、書くはずだったんだよね……。


 っと、いけないいけない。今はそれどころじゃないよ!


 書斎用の小部屋で、ドローイングテーブルの前に座り。

 用意した便箋に、何度も何度も書き直し、お母様の指導も受けた、洒落た文章の招待文を書きます。

 女性らしい気品と、柔らかさのある字で。

 インクも、今流行りの色を取り入れて、と。


 丁寧に一通ずつ、お相手の趣味に合わせて一文添えながら書いては、お母様の秘書役である古参の侍女にチェックして貰い。


 ……成る程、貴族のサインが上手くなる訳ねと、古風な白のドローイングテーブルで、疲れた手を休めながらしみじみ思う。

 自分の名前をこんなに書いた事なんて、前世のエントリーシート量産中でもなかったわよ。


「はあ、貴族の一員って本当に大変……」

 羽ペンを握り続けて、変に痛くなった手を揉みながら、わたしは小さくつぶやく。


 それを聞きつけたか、招待文のチェックしていた古参の侍女が、わたしにストップを掛ける。

「お嬢様、本日はここまでに致しましょう。根を詰めても、文字が乱れるばかりでしょうし」

 ……つまり、最後の方は字が乱れはじめてたって事ね。


 シニョンの結い髪に渋い緑のドレスを着た彼女は、雑用担当のメイド達に筆記具などを片づけさせる。わたしの専用用紙は、彼女が預かるみたい。


「ええ、わざわざ指導ありがとう、ビネー婦人」

「労いの言葉、有り難く存じます」

 高級使用人の彼女は、美しい貴婦人の礼をしてお母様の下へと向かう。今日の娘の出来具合を報告しに。


「はあ、緊張した……」

 お母様ったら、今回の茶会にどれだけ入れ込んでるんだろ。

 古参のエリート使用人を側から外しててまで、サポートに寄越すなんて。


 現場監督人のビネー婦人が部屋を出てから、しばし。

 気が抜けて、椅子の背もたれにぐったりと背を預けたわたしに、メイド達が声を掛ける。

「お嬢様……。お疲れでしょう、お気に入りの銘柄のお茶を煎れました。焼き菓子もお好みのものをそろえましたので、少しお休み下さい」

 専属メイドと助っ人に来たメイドが、ティーテーブルに好物を並べてくれる。


「ありがとう、皆の気遣いでわたくしの気持ちも晴れました。とても美味しそうね。リサはまたお茶の腕が上がったようね、いい香りよ」

「恐れ入ります」

 書斎の入り口に並び立ち、静かに主人の命令を待つ少女たちの姿を見て、わたしは知らずしかめ面をしていた顔を緩める。

 彼女らにも支えて貰ってるもんね、魔法少女としてだけじゃなく、貴族としても頑張らないと。




 ただ、内心……。

 茶会を楽しめるとは思えないわ。

 わたしって世間的には傷モノだしね。

 失礼だけど、貴族女性って噂好きだから。


 特に、お母様ぐらいの年齢になると、娘達が良家の令息の妻の座を競い合わせる。

 少しでも隙があれば突っつかれるし、悪い噂は尾鰭を付けて広げて下さろうとするの。

 迷惑きわまりないけど、まあ、わたしも覚悟の上での婚約破棄だったし……。

 甘んじて悪評は受けるわ。


 けど、傷つかずにはいられないでしょうね。


 部屋の片隅、ぬいぐるみのふりして大人しく座ってるプリティが、そんなわたしをじっと見ていた。


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