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霞んだ景色の中で  作者: ざっく
霞んだ景色
9/27

完治

 週末、絆創膏が取れた。


 ぐっと指で押せば、鈍い痛みはあるものの、ほとんど分からないほどしかもう、青くはない。

 眼鏡も、新しいものになった。

 そして、コンタクト。

 眼科で、看護婦さんから根気よく練習させてもらった。時間はかかるけれど、自分で着脱できるようになった。


 今日は少しだけ早起きをして、コンタクトを入れた。

 いつも二つに結んだだけの髪も、前髪を編み込みアレンジして、ゆるく、斜めに結んだ。

 鏡に映った千尋は、いつもの3割増しにはかわいいはずだ。

 お礼用にと、クッキーも作った。

 可愛くラッピングして、持って行く準備だけ、万端だ。

 準備だけ、は……。


 「はうぅぅ。どうしよう」

 あの場ですぐに千尋だと分かったということは、千尋が剣道場に通っていたのを知っているということ。

 「人違い」なんて、あんなに確信して・・・というか、疑う余地もなく呼びかけた人間に言って通じる話ではない。失礼にもほどがある。

 でも、いつから知っていたんだろう。

 記憶にある限り、目が合ったりした覚えはない。部活中、ずっと見つめているというのに、だ。

 あ~、だけど、いつからかなんて関係ない。

 1週間あって、近くにもいたのに、お礼さえ言わない女。

 もしかして、そんな印象だろうか。

 あれ、保健室まで運んでもらったときとか、家まで送ってもらったとき、私は挨拶したっけ?

 「ありがとうございます」と、言うのは簡単だけど、千尋自身がしっかりと言ったかどうかが気になった。

 千尋は、全く覚えていない。


 ・・・・・・まいった。


 どうしたらいいとか、最善はなんて全く分からないけれど、お礼はしなければならない。

 逃げた理由だとか、1週間こそこそしてた訳とか、お礼がこんなに遅くなった言い訳とか、あちこちに置きっぱなしにして、お礼はする。これしかない!

 後は、後になって考えることにしようと思う。

 そう決意して、この玄関で待っている。

 部活が終わるのを、剣道場の遠くから眺めていた。

 薄暗くなって、剣道部が終わり、部員が本校舎へ向かって行く中に、西田先輩はいた。

 荒垣君はダッシュしていた。……元気だ。

 それを嬉しげに追いかける女子も元気だ。そうして、荒垣君は、女子たちとかくれんぼをしながら帰るらしい。さすが、体力が違う。

 そんなことを横目に見ながら、生徒昇降口で息を整えている。


 まずは、お礼だ。まずも何も、お礼しかないのだが。

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