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霞んだ景色の中で  作者: ざっく
霞んだ景色
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どうすべき?

 西田先輩がコンビニを通り過ぎたなど言いながら自転車をこぎ、千尋は一生懸命記憶を探って家の場所を告げる。

 慣れすぎた街並みは無意識に歩いているせいで、ポストがどこにあって、どの家が白かったかなんてよく覚えていない。

 それでも、のんびりと進む自転車と、言葉少なにゆっくり話しかけてくれる声が、とても安心できた。


 ようやく家の前まで来たところで、驚いたような声がかかった。

 「千尋!?あんた彼氏いたの!」

 ……姉の千秋だ。

 「違うよ。こけちゃって、送ってもらったの」

 千秋の声を聞いて止まった自転車からゆっくりと降りて、千尋は声のほうに顔を向けた。瞬間。

 「何その顔っ!?ここは笑うところ!?」

 「なんでよ!かわいそうって言うところよ!」

 そう言いながらも、千秋はすでに笑っている。ひどい。

 顔もずきずき痛むので、絶対に傷はできているのだろう。どんなふうになっているのか、よく見えないのだ。

 姉妹の漫才を少し眺めた後、西田先輩が声をかけた。

 「じゃあ、オレは帰るから」

 「あっ、はい。本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げる千尋を笑いながら見て、そのまま自転車で帰って行った。

 やはり、千尋が自転車から降りれば、あっという間にスピードが上がり、すぐに見えなくなってしまった。

 「はあ~、大きな子ね。千尋はああいうのが好み?」

 「いや、顔知らない。こけて眼鏡が割れたところを助けてくれたの」

 「はあ~、妹が馬鹿だわ」

 反論はできない。

 呆れながらも、早めに仕事が終わった姉が病院まで車を出してくれた。


 そうして、外科とメガネショップを梯子した後。

 千尋のオデコには、でっかい絆創膏が付いた。

 しかも、千尋の視力に合うメガネのレンズの在庫が無く、スペア眼鏡で過ごすことになった。

 どうして、こんな親父眼鏡をスペアとして良しとしたのか、これを置いておいた自分に数時間に渡って説教をしたい。

 茶色の大きすぎる四角い眼鏡。

 スペアだから、かけることもあるのだと想像できなかった自分が残念でならない。

 横で大笑いしている千秋を蹴り飛ばしてもいいだろうか。


 父母にも笑われ…ひどい…夕食後、千尋は、母にクッキーを作ってもいいかと聞いた。

 「いいけど、明日持っていくの?」

 「うん。今日助けてもらったお礼に…」

 「その顔で持っていく気!?」

 その顔って…そりゃ、でっかい絆創膏がついているうえに、おかしな眼鏡もかけているけれど、お礼をしないということはないだろう。

 そして、顔はこれ一つしか持っていない。

 「いい?人の印象っていうものは、三度で確定するものなの。第一印象ではまず見た目ね。二回目では、内面と外見の再評価。そして、三度目で今までの再確認。このまま会えば、あんたは顔面傷だらけ女よ!」


 ―――それは嫌だ。


 「せめてメガネが新しくなるまで待ちなさいよ。コンタクトも作ったしね?」

 うひひといやらしい笑い方をする千秋の言葉に、嫌々ながらも頷いた。


 だって、やっぱり、絆創膏に親父眼鏡は恥ずかしかった。

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