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霞んだ景色の中で  作者: ざっく
西田浩一の視界
20/27

嫉妬

 金曜日、あの後は、相川は練習を見に来なかった。

 土日も、相川はいなかった。

 休日に来るほど好きではないということか?

 そんな小さなことで安心しそうになる自分が嫌だ。

 ・・・安心ってなんだ。不安に思っているのか?

 ああ、もう分からない。分からなくて、イライラしていた。


 月曜日、武道場に相川の姿を見つけられなかった。

 絆創膏がなくなってしまっていたら、あの大勢の中から見つけられていないだけかもしれない。

 そう考えると、土日もか?

 もやもやしたものを抱えながら、部活を終えた。


 「お疲れ~」

 部室で日誌をつけていると、さっさと他の部員は帰っていく。

片付けの確認が終わって、日誌書いて、週末の練習試合の準備をして・・・副部長、すげえな。あの大川部長とペア久組まされて、よく1年間も我慢したなと思う。

 この雑務の多さは、絶対に無理だ。

 強張った方を人回ししてから、部室に鍵を閉めて、校舎へ向かった。


 一人だからか、ぺったんぺったんと足音が良く響く。

 昇降口に、女子が一人立っていた。

 柔らかそうな髪を、一つにして、肩に垂らしていた。小さいなと思ってみていると、その女子がくるっとこちらを向いた。

 途端、見開かれる瞳。

 同時に、浩一も驚いていた。

 相川だった。

 眼鏡も絆創膏もない顔で、いつもと違う髪型をして昇降口で人を待っているように見える。


 はっきり言って、かわいかった。


 何をしているのか聞こうとして・・・・・・相川が、手に持っていた包みを体の後ろに隠すように動かしたのが見えた。

 瞬間、悟ってしまった。

 何をしているのかなんて、聞かなくてもわかっているじゃないか。

 あの位置からこちらを視認できたようだから、コンタクトでも入れているのだろう。普段とは違うおしゃれをして、誰かに渡すような包みを持って昇降口で立っているだなんて。

 荒垣は、今日は時間差で帰るらしく、まだ校舎内にいるだろう。

 「女子怖い」と言っていた荒垣に同情はするが、何故だか、その荒垣へのいら立ちが湧き上がってきて、その不快さに顔をしかめた。

 荒垣はよくできた後輩だ。本人が望んでもいないことだ。

 だから、一人でも多くの追っかけを追い払った方がいい―――。

 自分でも、言い訳だと気がついていた。

 「待ち伏せか?しかも・・・差し入れという名の、気を引くためのプレゼントか」

 靴を履き替えて、相川に視線を向けると、泣きそうな顔で微動だにしていなかった。

 ショックだということを隠そうともしない表情に、胸が痛んだ。

 だけど、嫉妬心に煽られた口が止まらなかった。


 「迷惑だ」


 最低だ。

 浩一が言うべき言葉ではない。浩一に言われる必要なんかない言葉だ。

 足早に相川に背を向けて、校舎を出た。

 自己嫌悪で泣きそうだ。でかい図体をして何をしているんだか。


 すでに後悔だらけだが、今戻れば、もしかしたら、荒垣と顔を合わせるかもしれない。

 最悪、相川が荒垣に包みを渡しているところを目撃するかもしれない。

 そうなったら、泣く。失恋して男泣き―――絶対に嫌だ。


 今は、ちょっと心の整理を付けたい。

 昇降口で相川を見た瞬間からはっきりした想いと、同時に理解したいきなりの失恋に、浩一は打ちひしがれながら帰った。

 明日、謝ろうと思いながら、とぼとぼと浩一は帰途についた。


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