こんな?
その姿を見て、部長は叫ぶ。
「こんなっ!こんなかわいい子が何でお前なんだ~~!」
「―――うるさいですよ!お先に失礼します!」
最後の部長の言葉に思考が止まったまま、千尋は、西田先輩に引きずられるままに自転車置き場に着いた。
「相川、どうした。歩いて帰るか?」
手を離された時のまま、じっとして、自転車を出してきた西田先輩に近づかない千尋に心配そうな声がかかった。
「か、かわいいと言われました・・・!」
幼児の時ならいざ知らず、高校生になって可愛いというお褒めの言葉をいただいたことは無かった。
言われるのは、チビか、サルだった悪口とは一味も二味も違う!
こんな、の後に、褒める言葉がつく場合もあるのだなと、初めて気がついた。
「ああ、かわいいよ。帰ろうか?」
まるで、そんなことに感動を受けていることが不思議なことであるように、軽く西田先輩が同じことを口にした。
千尋にとって、それが口から心臓が飛び出しそうなほど驚くことであったにもかかわらず。
自転車を押しながら、先に歩き出した西田先輩を追いかけるように走って、千尋は必死で問いかける。
「かわいい?かわいいですか、私?」
「ああ。・・・そう聞かれて頷くのは結構てれるんだが」
苦笑いする西田先輩を見ながら、千尋はすごく嬉しくなる。
「気持ち悪がられているかと思っていました」
「は?」
自転車の横を歩きながら、千尋は、びっくりした顔をする西田先輩を見上げた。
「迷惑って言われたし、その前に、部長さん?から、『こんなの』って言われていたので、『こんなの』から、手作りのもの貰うなんて気持ち悪いかもしれないと思ってて」
「あー・・・、あの時のことは悪かった。…公園寄っていいか?ちょっと、話さないか?」
少し向こうに見える公園・・・といっても、小さな滑り台と、ベンチがあるだけの小さな公園だが。それを指さした西田先輩に、頷きを返しつつ、話さないかと言われて、千尋に急激に緊張が戻ってくる。
そうだ、告白・・・・・・!
「私も、話したいことが・・・」
と、言いかけて、止まった。
あれ、玉砕前提で告白しようとしていたけれど、覚悟しなくても良さそうじゃない?と思った。
というか、このまま、先輩後輩関係をもう少し長く続けて、好きになってもらうか、もしくは、お付き合いしてもいいかなくらいに親しくなってから告白という道もあるんじゃない?
まだまだ私を知ってもらっていないのに、フラれるとか、もったいなくない?
「え、いや、ちょっと待ってください。どうしようかな…」
「用事でもあるのか?」
「あ、西田先輩のお話聞くのは大丈夫です。私の話をするかどうか検討中で」
「そうなのか?それは気になるな」
笑いながらしゃべるから、少しかすれた感じで聞こえた美声に、ひさしぶりに胸が高鳴った。
ううう。やっぱり格好いい。
悩みながら歩くと、いつの間にか公園についていた。
西田先輩は、自転車を隅に停めて、千尋をベンチへ座らせた。
座らせる際に触られた手とか、肩とかがじんじんするような気がする。
それ以上に顔が熱くて、恥ずかしい。




