待ち伏せ
後は、ミーティングをして解散になるらしい。
周りにいた女生徒達も散会していった。
『しっかりとフラれてこい』
由美の声が響いた。フラれるのはとても怖い。だけど、本当にこのままでは、ぐじぐじし続けるだろうと千尋は思った。
幸いにして、西田先輩とは、千尋が近づかない限り、全く接点がない。
だから、フラれた後に気まずい思いをするということもない。
できるだけ、前向きになれることを頭の中で考えて、考えて、考えて・・・。
「ううぅ、やっぱり無理だよお」
千尋は、西田先輩を待とうと昇降口にいたが、さっきから昇降口から陰になる植込みのそばでしゃがみこんで頭を抱えた。
フラれることが大前提だけど、実際にフラれて、その場で泣きださないなんてことは、絶対にない。
泣く。言っている最中に泣くかもしれない。
恥ずかしい。
もう、いい。告白なんてしなくても引きずらない。というか、告白しても引きずると思うんですけど!
やっぱり、やめよう。帰ろう。
そう思って、千尋が立ち上がろうとした瞬間、
「相川・・・っ」
西田先輩の声がすぐ近くで響いて、千尋はこけた。
「ひゃ・・・っ!は、はい!?・・・・・・なんで分かったんですか~」
植込みの陰で手をついて座り込んでいる千尋を見て、驚いたように西田先輩が目を瞬かせていた。
「……何してるんだ、そんなとこで」
「ま、待ち伏せ・・・・・・?」
本人相手に待ち伏せを白状するなんて、実際やっていることなのに、なんて羞恥プレイ。
目を泳がせる千尋をしばし眺めてから、さらに酷なことを聞いてくる。
「誰を」
「うう~~~」
分かっているくせに酷なことを聞いてくる西田先輩を、思わず恨めしげに見上げてしまった。
「……そうか」
ううっ。ため息を吐かれてしまった。
そりゃ、今週初めに「迷惑」ときっぱり告げた相手が、また同じことをしていたら、ため息も吐きたくなりますよね。でもでも、今回で終わりにするからっ・・・!
と、頑張って千尋が口を開こうとしたときに、
「荷物取ってくるから待ってて。一緒に帰ろう」
くるりと、西田先輩は校舎の中へ走って行ってしまった。
一緒に帰ろう・・・って、言った?
え、なんで?なんで?待っててって、言ったよね!?本当に?冗談じゃなく?
うわ、うわ、うわあ~。
頭で意味を捉えて、しばらくしてから、段々と顔に集まってくる熱に、このままじゃ、先輩が戻ってきたときにはゆでだこ状態だと、どうにか顔の熱を引かそうと、ばたばたと体を動かしているときに、またもや声がかかった。
「何してるんだ?」
早い!
「えっ!?いえっ、何も」
不思議そうに千尋を見てから、西田先輩が、最初の時のように、自転車置き場の方へと行こうとした。
「西田!?」
その声に振り返れば、剣道部のメンバーが驚いた顔でこちらを見ていた。
「お、お前・・・!こっ、こんな・・・・・・」
『こんな』という言葉に、またも千尋落ち込みそうになった。
どうして、この人はそんなに私のことが嫌いなのだろう。
やっと、西田先輩とゆっくり話せる時間がありそうだったのに…西田先輩は、もしかしたら、この中で私と帰ることを嫌がってしまうかもしれない。
「相川、どうした?」
沈んで俯いてしまった千尋を、長身をかがめて西田先輩が覗き込んだ。
「ふえっ・・・!?」
突然、視界に入ってきた西田先輩の顔に驚いてのけぞれば、ぐらりと体が傾ぐが、難なく西田先輩に腕を取られてこけずにすんだ。
そのまま、腕を取られたままになって、初めて会ったときみたいだと、落ち込んだことで引いた顔の熱がまた集まって来た。




