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片翼の纏輪(旧作)  作者: 物語あにま
神の息吹を越えて
31/34

第31翼 神の息吹を越えて9

いつもお読みいただきありがとうございます。

VSツバサです。

なおこの両生類の戦闘観に、だらだら戦い続けさせるといったものは入っておりません。いつだって勝負は一瞬で決まる、です。

 時が弄られているなどと露知らず、レイたちは惨劇の広場を目指した。

 懐かしの《SPCTRaS》静岡支部だ。


「アレは……!?」

「フブキ支部長とハガネ支部長が戦ってる……!」


 支部前の環状交差点の中心。そこでフブキとハガネが死闘を演じている。

 旧友としての、組織のトップを務める者としての戦いを。


「それだけじゃねえ、ビンゴだ。ツバサもいる!」

「でもこれは酷い、です」


 最後の一人とおぼしき支部長格が倒れている。

 全員、命は繋ぎ止めていそうではあるが、血を流している者もいる。猶予は無いと考えた方がいい。


「懲りずに来たか、カタバネと羽虫ども」


 息を上げながら、背の金色翼を広げるツバサ。

 支部長格四人を相手に呼吸を荒げるだけで済ませる彼女は、一体どれだけの強さなのか。


「貴様らがそっちから来たということは、第二師団がミスをしたか。まあ、私は寛大だからな。叱らず、貴様らの相手をするまでだ」

「おい、見逃した奴を叱るってよ。もう勝った気でいやがる所が気に食わねえな」

「何度も言わせるな、貴様らに負ける私ではない。それにマイロードの御目汚しも避けたいからな」


 ふふん、とクロは笑う。


「ならすぐに終わらせて、ついでにフブキの野郎の目に付かねえところにもご招待だ……!」


 クロはいの一番に《纏輪》を開放する。《天絶(あまだち)》として金色輪、金色翼が漆黒に染まっていく。


「解放したか……聞いているぞ、斬るしか能のない力だと」

「そいつは過小評価をどうもォ、絶ち切れ《天絶》」


 クロの《天絶》は、斬るのではなく絶つ。

 今まで剣態と複合してしか使ってこなかった、《天絶》を空間を絶ち切ることに注ぐ。

 これぞ、クロの奥の手。

 四方を黒色の壁に囲まれたこの異空間は、外と断絶された完全孤立の場所。もはや場所という概念があるかすら怪しい。

 その証拠に、指揮者の通信が受信されていないのだ。


「おう、テメエの力が空間を繋ぐなら、俺はそれを絶ち切ってやらあ……分かんねえようなら、これだけ覚えとけ。このクロ様と《天絶》に絶てねえもんはねえってな!」


 口癖のソレを言い放ち、クロはカラスの翅のような色合いの纏輪刀をぎらつかせた。


「なんだったら、お仲間に助けてーって言って見ろよ。ご自慢の《天継あまつぎ》でさ」

「フ、フフ。羽虫が粋がるじゃないか。精々驕れ、貴様らの相手が暮色翼だと言うことをその身に刻んでくれる」


プライドの高いツバサが格下相手に煽られれば、こう返答することは見えていた。


「その慢心と共に沈め、輪開三十光」

「げ!?」

「させないよ」


 とんでもない数の輪開光。

 捌くことはとてもできそうにないと思ったレイは、金色翼を最大にまで広げる。

 全員を十分に覆うレイの翼に、三十本の光柱が吸い込まれた。


「あっつ……」

「ほう、そこまで使いこなすようになったか、カタバネ」

「……ツバサの動きは色々参考になったし、僕だって長野で何も学ばなかったわけじゃない!」


 片翼を伸縮自在に扱えるのが《降臨型》のハイスペックな所である。通常の《纏輪》で広範囲を防御したり、自分たちを包み込むことは不可能なのだ。


「ほほう、ならば殴るまで!」

「来ます、備えてっ!」


 《纏輪開放》したクロを軸に、陣形を整えつつツバサへの対処。

 接敵したのは、先頭で楯のように位置取るレイ。繰り出された拳を受け止める。


「重っ……!」

「軽い」


 手の骨が砕けそうなほどの威力に、足が数歩下がる。

 ツバサが腰をかがめ、レイの重心の真下に入ろうとした。


「がら空きぃ!」

「侮ってくれるな、羽虫」


 後ろに回り込んだクロが黒染めの纏輪刀を振り下すが、下からうねって飛び出す金色翼に殴られる。

 キッチリ、《天絶》の力を帯びた纏輪刀を避けていた。

 ツバサの金色翼は、まるで仮初の命を与えられているように動く。


「が!?」

「《候空》、行きますよ」

「またそれか。流石にその力との合わせは厄介だ……解放、《天継》」


 これでこの場で《纏輪解放》できる全員が本気になった。

 クロやフタバが後悔していない技があるように、ツバサとて切り札の一つや二つ隠し持っている。

 だれも想定できないような異常を起こす、奇跡の力を振るうのだ。

 

「貴様らに見せてやろう、私が……真の(、、)纏輪(、、)使い(、、)だ」


 ――右手の甲。


「……です?」


 ――左肩から上腕まで。


「おい、おいおいおい!?」


 ――両くるぶし。


「まさか……繋げたというのですか、無理矢理」


 ――最後に、背に二重の金色輪。


「僕の、《纏輪》も……」


 レイたちの《纏輪》と全く同じ個所から、生成される新たなるツバサの《纏輪》たち。

 それら全ての金色翼が堕天したように黒く在った。

 ツバサは鈍痛の走る頭を押さえ、熱の篭った大笑いをしている。

 

「は、ハハ、ははは! 素晴らしい、これぞ……これぞ大天使をも超える領域だ!」

「気違いが……!」

「ありえない、です」


 三対六枚の翼を持つ天使、熾天使ルシファー。

 堕天使へと身をやつした彼女の姿は、その体こそ燃え盛っておらずとも、悪魔の王と呼ばれるに相応しい。


「この素晴らしい力、振るわずにはいられないな!」


 ツバサの《纏輪》たちが一糸乱れず銃態となった。

 レイの顔面から血の気が引いていく。


(マズい、さっきのが三十……今度は!?)


輪開五十光クイン・ディカプルレイ、発射」

「五十だと……!?」

「《燦燦たる御身》!」


 レイに何度も負担をかけてはダメだ。そう判断したフタバは、一人動く。

 この黒い空間(ブラックボックス)の中では、天候の変化が無い。ならば、フタバ自身が晴れ(、、)となればいい。

 熱さのコントロールをし、周囲に自然発火を起こす。天候を司る彼女は、即席のファイアウォールを作り上げた。


「やるな、双翼の小娘……ん、どこへ!?」

「《建御雷の雨雲クラウダ・サンダーストーム》」


 フタバの手数は天候の種類だけある。

 サンバーストによって起こした水蒸気をそのまま転用すれば、ツバサの背後を取ることなど容易。

 雷雲になった身で、ツバサに触れる。


「悪しき想いに雷の裁きを」

「ぐ、ぎゃァァ………!? この、輪開全光(フルバーストレイ)!」


 全方向に輪開光を射出する姿は、災害にも等しい。制御は全くなされていないが、百条近くの光が迸る。

 それは天使に後光が差したようだった。ただし、あらゆる金色の光は、黒く変わり果てている。


「う……くぅ!?」


 がむしゃらな攻撃を避け切ること叶わず、ホトリが足をやられた。輪開光に片方の太腿を打ち抜かれては、満足に動けないだろう。

 事実上の戦闘不能だ。

 解放済みの二人が猛反撃に移る中、レイは援護に入った。


「ホトリちゃん!」

「大丈夫、です。私だって……この隊の一員です。最後まで、戦い通して、そしたら、フタバ先輩とフタヨ先輩に内緒で膝枕してあげるですぅ」

「……わかった、無理はしないでよ」


(ホトリちゃんがこんなに強気なんだ、僕だって……)


 レイは集中力を極限まで高める。

 肩甲骨付近の筋肉が痙攣を始めるまで、あと何秒かかるだろうか。


「羽虫が! 一矢報いて良い気分か!?」

「タフだな、流石《降臨型》!」

「良い気分も何も、貴方たちのせいでぶち壊しです!」


 三人が闘い続ける中、ツバサだけを輪開光で撃ち抜く。

 指揮者の存在がない今、フタバたち二人と息を合わせるのは難しい。激しい戦闘の最中に、レイの言葉を聞き取る余裕はない。

 安易に耳を傾ければ、作戦を実行する前に仕留められてしまう。


(くっ、二人が離れない。なら輪開光攻撃は止めだ。僕の剣態でどうにか潰せれば……!)


 レイは蓄積した力をどうやってツバサに当てる物かと考える。

 自分一人では到底できそうにはないが……。

 二人の闘いに自分だけで参入しても、足元でうろちょろする虫のような物だ。


「レイさん」

「ホトリちゃん?」

「狙撃なら、私に任せるです。動き、止めて見せるですよ」


 そうである、レイたちの中で狙撃が一番うまいのはホトリ。

 レイは無意識に、彼女は戦闘続行不可能だと決めつけていたのだ。これは余りに礼を欠いていた。

 その埋め合わせには信頼で応えるべきだ。

 

「ごめん、頼める?」

「どんとこいです。その代わり、時間は稼いでもらうです」


 ホトリの輪開光狙撃の精密さは、狙いをつける時間があってこそ。

 そのくらい持たせられなくては、レイにも頑張り甲斐がないというもの。


「一分、です。私が発射できる最大の輪開光をお見せするです」

「分かった」

「あうっ」


 レイは、そのブルーハワイ色の頭頂に手を置いて、くしゃりと撫でた。


「期待してるっ」

「ばっちこい、です」


 向き直るとクロが殴り飛ばされているところだった。近接戦でクロが押されているのに、レイに何ができよう。

 

「上等だよ、僕だってやる時はやるんだ」


 レイは、ブーツの踵に思い切り力を込める。低いヒールに掛かった圧力が爆ぜ、人一人をはじく。


「うああああああ!」

「カタバネ、今更お前が出てくるかっ!」

「レイ君――くっ!?」


 フタバが声を上げながら蹴りを喰らい、壁の端まですっ飛んでいく。

 そして、動かなくなった。気絶してしまったようだ。

 ツバサとて《建御雷の雷雲》のカウンターを受けるはずなのに、相当なりふり構わず闘っているのかもしれない。


「フタバ!? 巨翼鎚(ウィングハンマ)!」

「ハッ、自力勝負と行こうかァ!」  


 縦に伸ばした巨翼を二枚の黒い翼が十字に受け、黒い床が軋む。


「くああああ!」

「おおッ! たった二ヶ月でよくぞここまで成長したものだ!」

「あぁ! 少しでもツバサたちの次元に追いつきたくて……毎日、必死だった!」

「ぬっ……」


 更にレイの金色翼が押し込む。それでもツバサは余裕を失わない。

 《纏輪解放》によって上がった能力、そして《天継》が生んだレイの纏輪のレプリカ。

 どちらも強い。

 加えてクロとホトリのレプリカ金色輪がレイを狙い定める。


「部分的に、銃態……!」

輪開十光(ディカプルレイ)!」

「ぐあ!?」


 何もかも違い過ぎる。力も手数も、実力も。

 腹部と肩に良いのを三発ほど受け、レイが押し敗れる。

 力を入れていたために貫通は避けたが、骨は無事では済まなかった。

 

(あばらが凹んでるみたいに痛い、だけどまだ三十秒残ってる!)


 痛めたことを表に出したら挫ける気がした。

 レイの金色翼を引っ込め、円環の縁から八条の光を放出する。


「チッ」 

「負けない!」

「良い根性だぜっ、《纏輪刀一式・(すい)》!」


 ツバサが両くるぶしの《纏輪》で輪開光をガードし、視界を塞いだところをクロが撫で斬る。

 摩擦力を最大に使った、流れるような二連切り。

 模造品の《双纏輪》、その双翼が切り落とされる。

 《降臨型》の高防御力をもってしても、《天絶》の絶対切断能力には抗えない。


「がアアアアア!?」


 いくらレプリカの金色翼とはいえ、痛みはあるのだろう。

 ツバサは、苦痛に顔を歪めて後退する。


 しかし、


「にがさない、デース」


 金色輪を目一杯の直径まで展開した、ホトリがこの機を狙っていた。

 輪開光数の合計二十、時間を掛ければ誰でもできると思うなかれ。

 ツバサの輪開三十光がおかしいだけであって、実際の戦闘で十を超える数は使わない。

 常識的なサイズの《纏輪》ならなおさらだ。


「チッ!」


 ガード体勢に入ったツバサの周りに、一瞬だけ出来た金色の檻。

 ここでツバサが無理にでも突破していれば、また少し結果は変わっただろう。



「無視するたあどういうことァ? 《雨天の滴り(ウォルタボディ)》」

「ガボッ!?」


 液状へと身体を変質させた少女が、ツバサの身体を包む。

 ツバサは何故動けると言った表情をしていた。


(まさか……フタヨ!?)


「アネキをヒデエ目合わせやがって、ぶっ殺すぞ」


 なんともRPGのスライムを彷彿とさせる姿。だが、恐ろしいのは常軌を超える拘束力と窒息死を狙える水の体積だ。

 身体の体積を全て水に変えて、人間を易々と包み込む。

 どれほどもがけども、今のフタヨに物理攻撃はほぼ意味が無い。


「斬れ、クロ助ェ!」

「おう、ナイスだフタヨ。んで、覚悟しろよツバサ」


 クロは《大纏輪刀・黒漆剣(くろうるしのつるぎ)》を発動させていた。

 鈍く見えるその刀身は、万物を切らんとする絶刀である。


「《纏輪刀二式・水蓮(すいれん)》」


 クロは、敵をフタヨごと連続で斬る。

 残る右手の甲、左肩、最後の砦である一対の《降臨型纏輪》の悉くを根元から寸断した。

 ツバサ本体を切らなかったのは、殺しては何もならないと判断してだろう。

 一連の驚愕行動に、レイは唖然とするもすぐに立ち直る。


(クロは、そんなことも分からずに仲間に刃を向けない! なら、フタヨは無事……!)


 その証拠に《候空》が消えていない。

 レイは金色翼を広げ、巨翼鎚の体勢に入る。

 目標は……痛みに呻きながら、水泡に囚われたツバサだ。


「巨、翼鎚ァァ!」

「…………!」


 その時、ツバサはなんと叫んだのだろうか。大きく口を開けた彼女が言った言葉は、きっとフタヨにしか聞こえていない。

 だとしても多分、ツバサはレイを呼んだのだと思う。

 レイが同じ立場なら、そう叫ぶだろうから。


「ごめん、目が覚めたら……」


 話そう、と言う前にレイの金色翼はフタヨ諸共、ツバサを叩き潰した。


「……これフタバとフタヨ、大丈夫だよね?」

「問題ねえ、水になってるからな。斬っても突いても殴っても、この状態に何かできる奴なんてフブキの野郎ぐらいじゃねえのか? 他を知らんからどうとも言えないけどさ」

「おーいつつ、ったく蹴られたところが痛いぜ」

「フタヨ!」


 飛び散った液体が身体を求めて彷徨っていると思ったら、見る間に人間の形を取る。

 我らが部隊長、フタバとその妹、フタヨだ。

 今は、気絶した姉に代わり、妹が身体を取り扱っている。


「あ、おい、レイ!?……抱き着くな、ハズイだろうが」

「あ、ごめん……ん?」


 赤面したフタヨから離れると横から視線を感じた。


「へー……」

「ふうん、です」


 さながら浮気現場を目撃されたようである。事実は異なるのに。


「「ち、違う。これは」」 

「いーよ、いーよ。どんどん、やってくれ。見て見ぬ振りするから」

「寝取られた、です?」


(ああ、酷い……そしてホトリちゃんはどこでそんな言葉を覚えたの) 


「一先ず、この空間を解除するぜ。そこで伸びてるツバサの腕は拘束したし、俺たちは退却だ、良いな? 途中で俺たちの《纏輪解放》は切れるから、一時間の休憩を入れるぞ」

「おい、リーダーは俺だぞ」


 フタヨに発言を任せないのは……クロの優しさなのだろう。ぽりぽりと頭を描いて、至極真っ当なことを言う。 

 話題が逸れたのはいいことだが、悶々とした気分はぬぐえないレイだった。


「じゃあ、解除」

「ん……」


 突然、光量が増えたと思うと、昼間の市街地が姿を現す。


 そして、


「……ハガネ……支部長?」


 同じく数秒とせず瞳に映るのは、満身創痍のフブキの身体にもたれ掛かる男の姿。

 長野支部長、斥蔵鋼の全身はズタボロだった。  

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こちらリメイク版及び第一部の続きとなります→片翼の纏輪~片翼の天使たちが羽を休めるその時まで~http://ncode.syosetu.com/n5651dj/
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