第十七話 君が帰る場所
眼下の暗闇から黒い靄が浮かんでくるのを、祐一はじっと見つめていた。ようやく泣き止んだ信彦も、そこから視線をはずさない。
やがて靄は階段の上に到達し、ゆっくりと人の形をとった。
「遅かったね、冬馬」
信彦は、男に向かってそう言った。男はそれに促されるように、静かに口を開いた。
「熱のせいでぐっすり眠れずにいたんだ。医者から体質に合わない睡眠薬を注射されてね。どうやら事前に、ペンに仕込んだ導入剤も使ったみたいだけど、僕は眠るどころか燃え上がりそうに発熱していただけだ。彼女が歌い始めなければ、まだ眠ることはできなかったと思う」
目の前の男は、祐一が知っている冬馬ではない。顔も声もまるで違う。でも彼の雰囲気や言葉の選び方は、他の誰でもない、冬馬を思い出させた。
「……本当に……冬馬なんだね……」
祐一のためらいがちな言葉に、彫刻刀で掘ったように切れ長の目が見つめ返してくる。あまりなじみはない目だが、そこに宿る光を、祐一は確かに知っていた。
「そうだよ。これが本当の僕だ」
冬馬は、少し投げやりな口調でそう言った。
「僕は信彦の体を乗っ取って、好き勝手に使っていたんだ。そうして君をだまし、加奈をだまし、二人とも自分のものにしようとした……なんて最低なんだろうね」
しかし、並べられた彼の罪状は、祐一の感情を上滑りしていった。祐一の知っている冬馬には、何一つ悪の要素がなかった。冬馬という存在と数々の悪行は、いくらかき混ぜても混ざり合わない。
「……冬馬。俺はお前を、ここから連れ出す。ここは信彦の世界で、お前がいるべき場所じゃないんだ」
祐一は、今日ここに来た目的を口にした。きっとそれが唯一の解決策だ。でも冬馬は、それを聞くといきなりその場で仰向けに身を横たえた。
「冬馬の中に入る前、僕は精神と肉体を引きはがす実験の道具だった。またあの日々に戻れっていうのか?それは無理な相談だ。そんなことをするくらいなら、今ここで信彦に刺された方がいいよ。ねえ、信彦。君はずっとそうしたかったんだろ?さあ、今すぐやってくれ」
しかし信彦は、かすかに眉を寄せて冬馬の顔をにらみつけた。
「確かに僕は、君をずたずたに切り裂いてやりたいと思った。僕がつらい目にあった分、痛みを感じて欲しかったから。でも、君に命令されてそうするのは嫌だ。意地でも刺したくなくなるよ」
「わかった。じゃあ、これで……」
冬馬は起き上がり、今度は床に両手をついた。
「頼む。僕を刺してくれ。もう、生きていても仕方がないんだ」
「どうして君の頼みを僕が聞かなきゃならないわけ?君の願いなんて、絶対聞かない」
信彦は冬馬に対して、まるで取り付く島がなかった。
「その武器を僕に貸してくれと言っても……」
「いやだよ。君のお願いなんて聞かないって言っただろ?」
途方に暮れている冬馬に、祐一が静かに歩み寄った。
「帰ろう。お前の本当の体にね。それが一番いいんだ。もちろん、非人道的な実験は俺がなんとしてもやめさせる。お前がこれ以上痛い目に合わないように、俺が守るから」
「なんで!!」
冬馬は怒りに頬を赤らめながら、体を震わせた。
「僕は、君の親友をひどい目に合わせた。君のことだってだましたんだよ。それなのに、どうしてそんなことが言えるんだ?『俺が守る』なんて……。もし同情ならいらないよ。僕のやったことは、同情の許容範囲のはるかに外だ」
「同情なんてする気はないよ。でも、俺にとって『水瀬冬馬』は友達以外の何者でもないんだよ。冬馬は、俺がつらい時に支えてくれた。それは事実だ。そんな友達を、見殺しになんてできないだろ」
「なにを言ってるんだ……真実を知っても、まだ僕を友達だって言うのか」
「やっぱり、祐ちゃんは強いねえ」
突然信彦が、二人の会話に入ってきた。
「祐ちゃんは、子供の頃からずっとそうなんだ。他人がなんて言おうと、結局自分が信じた道を突き進む。まあそのくらい、強くて大きいってことなんだけどね。いいんじゃない?祐ちゃんが許すって言うなら、それに甘えても」
「…………」
「ほら、ここまできてもたもたしない」
信彦が槍を握りしめ、目を閉じる。槍はたちまち大ぶりのバンダナに変わった。
「二人とも手を出して」
信彦はそれで、祐一の左手と冬馬の右手をぎゅっと結んだ。
「これで自分の体に行きつくまで、祐一から離れられない。万が一、途中で逃げ出そうと思ったってできないからね」
「信彦……これでいいのか?あんなに長い槍を作り出すほど、君は僕に対する怒りであふれてたんだろ」
戸惑う冬馬に対して、信彦は少し冷たい口調で諭すように言った。
「僕は祐ちゃんの意思を尊重する。それに、僕はもともと人殺しができる性格じゃないしね。でも、覚えておいて。祐ちゃんが君を許しても、僕は違う。簡単に許したりなんかしないよ」
「……わかった」
「さあ、祐ちゃん」
信彦に促され、祐一は小さくうなずいた。
「行ってくるよ、信彦」
信彦は一瞬泣きそうな顔になって、それから笑って見せた。
「うん。気をつけて」
祐一は信彦の言葉を胸に抱いて、そっと懐中時計に手を伸ばした。
◇◇
「今すぐ警備に連絡をしなければ」
片山は自分を跳ね飛ばしたベッドを押しのけると、すぐに壁の受話器を取った。それは警備員の詰め所に繋がっていて、必要に応じて彼らが出動する手はずになっている。
マリカが潜入し、北見祐一が敵の手に落ちた。これ以上傷が広がる前に、元凶を絶たねばならない。
しかし、コールが何回続いても、それに応じる声は帰ってこなかった。24時間対応できるように作ったシステムが、こんな時に限って働いていない。
「警備の連中は何をやっているんだ!!」
片山が、受話器を壁に投げつける。受話器はぶらぶらと頼りなく壁にぶら下がった。
「もう、こんなことはやめにしませんか」
義弘は、覚悟を決めて片山の前に立った。
「人の精神と肉体は、生まれ落ちた瞬間から一つのものだということを、俺は身に染みて知りました。それを分けようとしても悲劇を生むだけだ、ということもね」
「悲劇だって?何を馬鹿な……」
義弘の言葉を、片山はせせら笑った。
「一つの物事を『悲劇』と取るか『喜劇』と取るかは、人間の主観の問題でしょう。そんな不確かなものに気を取られている暇はありません。あなたの仕事は、冷静に人の精神と肉体を分離し、そこへのアクセス方法を確立することです。それがやがて世界を変えていくことになるのですから」
「『世界を変えていく』など、絵空事でしかありませんよ」
「どうしてですか」
「分離した精神が抱える闇は、一握りの人間の手には余るからです」
片山の顔に、あからさまな怒りが浮かぶ。しかし彼が反論を始めるより早く、誠一郎が二人の間に入った。
「義弘、もうやめろ」
「父さん、俺はこんなことを終わらせなければと思っています。実際、加奈にも被害が……」
「もうやめろと言っている」
誠一郎は、威圧的な態度で義弘の言葉を止めた。
「お前ほどの者が、そんな愚かな思考に走るとは思わなかった。……少し働きすぎたのかもしれないな。しばらくゆっくり休んでいろ。そうすれば、心も落ち着く」
そして誠一郎の腕がゆっくりと持ち上げられる。そこにどろりとした液体の入った注射器を見つけて、義弘は目を見張った。
「父さん、それはまさか……」
「働きすぎた時は、眠るのが一番だよ。お前は二、三日ではなく、もっと長く眠るべきだ」
「そんな、いつ目が覚めるともわからない薬を打つんですか?自分の息子に……。父さん、あなたはそんな人じゃなかったはずだ……」
「わたしは変わったんだよ」
誠一郎は注射器を持ち上げながら、遠くに視線を向けた。
「母さんを失ってからわかったんだ。自分の味方はしょせん自分だけだ。自分の理解者も自分だけ。だから、自分の行う研究と、その結果だけがわたしのすべてだ」
「父さん……」
後ずさりし始めた体を、いつの間にか後ろに回っていた片山に抑えられる。抵抗する義弘の脳裏を、加奈の笑顔がよぎった。
一……俺はもう、お前のその顔を見ることができないのか……。
「……うっ……」
その時、耳元で小さなうめき声が聞こえ、同時に背後の拘束が外れる。義弘は目を開き、慌てて体を反転させた。すぐ目の前に迫っていた注射針は、すっと空を切った。
「君、何をしている?」
誠一郎の責めるような声に、片山はうめくように答えた。
「……蛇が……」
振り向いた義弘の目に、片山の手首から這い出して来る蛇が映った。蛇は小さく真っ白で、どこか神々しくさえ見えた。
一どうして蛇が……。
片山は蛇を捕まえようと躍起になっていたが、蛇は片山の手よりもはるかに早く動き回り、やがて反動をつけて飛ぶと、誠一郎の腕に着地した。
「なっ……」
誠一郎が腕を振っても、蛇は離れるどころか彼の腕に巻き付いていく。やがて蛇は誠一郎の手に這い上り、そのまま注射器に巻き付いた。
「何をしている。やめろ」
誠一郎の言葉は、蛇には届かなかったようだ。注射器はパリンという音を立てて割れ、暗褐色の液体が床に散った。
「なんてことを……」
『院長。院長はいらっしゃいますか』
その時、ぶら下がったままの受話器から突然声が聞こえた。その声に緊迫したものを感じたのだろう、誠一郎は蛇から視線をはずし、受話器を拾い上げた。
『どうした』
『いま、新しい経営母体の代表が、そちらに向かっていらっしゃいます。すべての施設を点検し、問題が見受けられた場合はその活動を凍結すると……』
『何を言っている?そんな話は聞いていない。だいたい、この病院の経営母体は、わたしの親戚筋が……』
誠一郎の声をかき消すようにドアが開いた。部外者が入らないように施したセキュリティーは、なんの効果も発揮できないようになっているのかもしれない。
ドアから入ってきたのは、数十人に及ぶ集団だった。その中には、ついさっきまで誠一郎の支配下にあった警備員や医者も含まれている。
「これはどういうことだ」
片山の怒声が響き渡る。それに答えるように、集団の最後尾から一人の老人が前に進み出てきた。
「仕事中失礼するよ。ここで非人道的な活動が行われていた節がある。徹底的にチェックさせてもらわなければならない」
「……うそだろ……なんであんたが……」
片山の目が見開かれ、その体が震え始める。義弘もまた、その老人の顔を凝視した。この病院の関係者ではない。知らない男だ。
それにもかかわらず、義弘はその男の顔をどこかで見たことがあるような気がした。記憶をたどると、その顔にある旋律が重なった。
一…ショパンのノクターン……?
「やめろ」「やめてくれ」
老人に縋りつこうとした誠一郎や片山が、警備員たちに取り押さえられている。義弘はその様子を見つめながら、天を仰いだ。
一もしかしたら、この美しい曲に乗せて、神が使者を遣わしたのかもしれない。大いなる罰を下すために。
義弘は目を閉じて、頭の中を流れるその曲にじっと聞き入っていた。
◇◇
扉を小さくノックする音が聞こえて、加奈はびくりとして顔を上げた。
「……誰……兄さん……?」
しかし部屋の中に入ってきたのは、看護師の服を来た若い女だった。と言っても、女の顔にはまるで見覚えがない。だいたい、髪を真っ赤に染めた看護師は、この病院にいない。
少し前、この部屋に入ってきた男の記憶がよみがえった。加奈は信彦をかばうようにして、女をにらんだ。
「信彦には指一本触れさせません。帰ってください!」
「あら、嫌われちゃったみたいね」
女はそう言ってひどく残念そうな顔をした。そうしていると、まるでどこにでもいる普通の女に見えた。
「まあ、仕方がないか。加奈ちゃん、ずいぶんとひどい目にあったみたいだし。でも、ひとつだけお願いを聞いてくれないかな。冬馬が自分の体に戻ってきた時、渡して欲しいものがあるのよ」
「冬馬に?」
「そう。これよ」
女が差し出したのは、小さな星の飾りのついたキーホルダーだった。星は透明に近く、光を含んできらきら光った。
「あの子の母親の形見よ。まあ、わたしの母親の形見でもあるんだけど、ここはかわいい弟に譲ってあげる。知らなかったこととは言え、あの子にはかわいそうなことをしてしまったしね……」
女はその顔に浮かんでいた笑みを消し、両膝をついて信彦の顔を覗き込んだ。
「冬馬はまだこの人の中にいるのよね……。ごめんね、冬馬。わたしを引き取った父さんがちっとも働かなくって、わたしは貧乏から抜け出すために必死だった。そして気が付いたら、平気でこんなことをする人間になっていて……って、単なる言い訳よね。結果、弟を殺しかけるなんて……。もう、最悪」
彼女はどうやら、信彦たちに危害を加えた側の人間であるようだった。でも、加奈は彼女を責める気にはなれなかった。彼女のそのきれいな頬には、くっきりと深い後悔が刻まれていた。
「じゃあ、お願いね、加奈ちゃん」
女は立ち上がって、そのまま部屋を出ていこうとした。加奈は慌てて声を掛けた。
「あの……」
「なに?」
「冬馬に会っていかないんですか」
「無理よ、そんなの」
女はそう言って頭を振った。
「こんな姉が現れたら、あの子混乱するだけよ。わたしはあの子の前から、煙のように消えるの。それが一番」
女はにっこりとほほ笑んで、それから片手を振った。
「さよなら、加奈ちゃん。さよなら、冬馬。……さよなら、祐一」
「え……?」
加奈の目の前で、ゆっくりと扉が閉まっていく。加奈は手に持っていたキーホルダーを、いつの間にかぎゅっと握りしめていた。
◇◇
右手にはずっとぬくもりがあった。長い間接していたので、それはまるで自分の体の一部のようになっていた。でもその瞬間から、冬馬は左手に暖かさを感じた。誰かが左手を握りしめている。そのぬくもりに接して初めて気づいた。自分の左手は、氷のように冷え切っていたことに。
「……冬馬」
懐かしい声に目を開ける。そこには、泣きながら手を握っている水瀬の顔があった。
「……父さん……?」
「冬馬、わたしを許してくれ。お前の手を放してしまったわたしを……どうか……」
一これは夢かもしれない……。
水瀬の手を握り返しながら、冬馬はそう思っていた。どこまでが夢でどこからが現実か、境目がはっきりしない。
一……そう……確か、螺旋階段に祐一が来て、自分を連れ出そうとしてくれた……。じゃあ、祐一は今どこに……?いや、それが現実だなんて保証はないんだ。僕はまだ信彦の中にいて……えっ……?
かすかな違和感が冬馬を襲った。手足を動かす感じ、息をする感じ……すべてが微妙に違っている。冬馬は、水瀬とは反対の方に顔を向けた。そこには棚に取り付けられた小さな鏡があって、冬馬の顔をはっきりと映し出していた。
「うわあ」
冬馬は水瀬の手を振り切って、頭から毛布をかぶった。この顔は『水瀬冬馬』の顔ではない。『藤田冬馬』の顔だ。自分の精神はこの体に戻ってきてしまった。もう、おしまいだ。
「冬馬。大丈夫だよ。大丈夫だから」
毛布の上に手が置かれたのだろう、体の上にかすかな重みが加わった。
「もう、お前を苦しめていた実験は終わったんだ。わたしはお前を、あいつらから取り戻した。お前は自分の心と体だけを持って、わたしのところに戻ってくれればいい。……それとも……わたしと暮らすのはもう嫌になったか……?確かに、わたしはもう年だ。刺激的な生活を与えてやることはできないが……」
冬馬は、かぶっていた毛布をそろそろと下した。水瀬の顔は、さっきまでと同じ近さで冬馬の上にあった。
「……父さんは……僕がこの顔でも構わないの……?」
「これがお前の本当の姿なら、拒否する理由は何もない」
「でも、父さんの本当の息子は……」
「あれは戸籍上の息子だ。本当の息子はお前だよ。わたしはそんなことにも気づけないほど、愚か者だった」
「父さん……」
冬馬は、おずおずと手を伸ばして水瀬の腕を取った。そしてそれをゆっくりと揺らす。水瀬は、まだ涙で濡れた顔でにっこりとほほ笑んだ。
「どうした、冬馬?」
「家に帰ったら、またピアノを弾いてくれる?ショパンのノクターン」
「いいとも。お前が望むなら、いくらでも弾いてやろう」
「……ありがとう」
『これが幸せなのだ』冬馬はそう思った。もし今、舞い落ちる桜の花びらと戯れる少年がいたとしても、彼になりたいとは決して思わないだろう。
◇◇
「おーい……祐ちゃん……」
叫びながら走ってくる信彦を見つけて、祐一はベンチから立ち上がった。
あれから一か月が過ぎ、しばらくは体調を崩していた信彦が、外出できるまでに回復した。今日は二人で映画を見に行く約束をして、ショッピングモールの中央広場で待ち合わせをしていた。
「ごめん、待った?」
「たいして待ってない。俺も遅れたし」
「さすが、祐ちゃん。セリフが男前だね」
信彦はそう言うと、祐一の手をつかんでいきなり走り出した。信彦の背負っていた小さなリュックが、信彦の動きに合わせて上下に揺れている。
「ちょっと、信彦。走るなよ、危ないだろ」
「だって、走りたくなったんだから、仕方ないじゃん……あっ、大丈夫だった?ごめん、ごめん」
小さな子どもにぶつかりそうになって、信彦はやっと走るのをやめた。
「だから言っただろ」
「うん、そうだね。祐ちゃんの言う通り。久しぶりでうれしくなっちゃったんだよね」
信彦は祐一の手を放し、それから祐一の隣をゆっくりと歩き始めた。
「ねえ、祐ちゃん」
「なに?」
「今度、冬馬も映画に誘ってやってよ」
「え……?」
祐一は、信彦が冬馬を話題にしたことに驚いた。彼はこの世界に戻ってから、一度も冬馬の名前を口にしたことはなかったのだ。
「どうして……?」
「一度、祐ちゃんは冬馬と映画館に来たことがあったよね?あの時、冬馬の心が弾んでいたのがよく分かった。あいつは、祐ちゃんと映画館で映画を見ることが、すごく楽しみだったんだ。きっと、今の僕みたいにさ」
「そうか……」
信彦は祐一の幼馴染で、冬馬は祐一を救ってくれた友人だ。でも信彦と冬馬は、ずいぶんと長い間同じ体の中にいた。考えてみれば、冬馬と信彦こそ深い部分で繋がり合っていたのかもしれない。
一……三人はいつか、親友になれるんだろうか……。
そこに至るまで、何年かかるかわからない。でも、いつかそうなればいいなと思う。春の雪のように、すべてのわだかまりが溶けてしまう、その時にきっと。
「うん。今度冬馬を誘ってみるよ」
「よかった。ちょっと安心した。……ねえ、祐ちゃん。今日はどの映画見る?僕の希望としては……」
「めちゃくちゃ三流映画……だろ?」
「そうそう。さすが祐ちゃん、僕の好み、よくわかってるねえ」
やっと映画館の入り口が見えてきた。もう二度と信彦と映画に行くことはないかもしれない、何度そう思ったっことだろう。
「祐ちゃん、ちょっと急ぎすぎだよ」
気が付けば、信彦の声が後ろから聞こえる。振り向くと、信彦が笑顔で追いついてきた。
「祐ちゃんだって楽しみだったんでしょ?僕は知ってるよ」
扉を開けた瞬間、甘いポップコーンの香りが立ち込める。祐一はそれを、胸いっぱいに吸い込んだ。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
悩みながらも楽しく書けました。
主人公の三人は、みんなきっと幸せになったんだ……と思います(汗)
これからまた新しい作品を書いていきます。
よろしくお願いします。




