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♪1.前奏

「悠聖。明日、引っ越すから」

これを言われたのはつい三日前のことだ。

「はぁ? 何処にだよ?」

そう問いかければ、父さんは少し間をおいてから答えた。

「母さんのこと、覚えてるか」

「……覚えてるけど」

「母さんと一緒に住むんだ。別れる前、住んでいた家で」

「…………」

なぜそうなったのかは粗方予想がついた。

「……わかった」

俺はそれだけ言って父さんに背を向ける。

「ダンボール、父さんの部屋にあるから。必要な分だけ取っていきなさい」

その言葉通り、俺は父さんの部屋からダンボールを何枚か取って自分の部屋へと入った。



 部屋に入って、一番に目についたのは写真。俺が持っている唯一の家族写真だ。そこに写る幸せそうに笑う四人の姿を、俺はただ見つめた。父さんがいて、母さんがいて、俺がいて――そして、兄がいた。

 俺とあいつは双子の兄弟だった。瓜二つの兄弟。そんな俺たちの唯一の違いは髪の色。兄は母さん譲りの栗色の髪。俺は父さん譲りの黒髪だった。でもその違いは自分たちにしかわからないみたいで、近所の人達にはよく間違われていた。

 でも、よく似ていたのは見た目だけ。

 俺たちは中身が明らかに違っていた。あいつは明るくて優しくて、それに何でもできて、誰からも好かれる性格だった。でも俺は、その真逆。とても明るいとは言えない性格で、基本一人を好み、そして決して優しくない、嫌われ者だった。兄に憧れていた。そしてそれと同時に、羨んでもいた。俺にはないものを、全て持っていたから。――持っているような、気がしていたから。


「…………」

俺は昔を思い出しながら、荷物を整理し始めた。引っ越すということは、転校もするのだろう

……と思った矢先。

「悠聖、これ。転校先の制服とバッグ」

そう言って、父さんが真新しい紺色のブレザーとお揃いのバッグを持ってきた。

(……随分と準備がよろしいことで)

俺は無言でそれを受け取り、ダンボールの中へとつめる。

 その制服は、兄が通っていた学校の制服と同じだった。

 

 両親は俺達が中1の時、離婚した。自然と兄とも別れることになり、あいつは母さんの、俺は父さんのもとで暮らすことになった。

 俺たちは仲が悪いわけではなく、どちらかというと良い方だった。だから離れても携帯で連絡を取り合っていた。ほとんどあいつが一方的に連絡してきていたようにも思えるが、それでも俺的には楽しんでいたんだ。わざわざ写真を送ってきたりして、思わず笑ってしまう時も多々あった。

 そんなある日のこと。あれは確か、中2の夏だった。

『彼女、できましたーっ!!』

そんな陽気なメールが写真付きで送られてきた。そこに写るのは、今まで見たことがないくらい幸せそうに笑う兄と、その隣で恥ずかしそうに微笑む女の人だった。少し茶色がかった黒髪のセミロングで、お淑やかで優しそうなイメージだったのを覚えている。名前は──


「…………」

ふと、彼女もあの高校に通っていることを思い出した。確か同い年だったはずだ。……一瞬、手が止まる。

「……気にすること、ないか」

(同じクラスになるとは限らないし)

そう思うことにし、俺は荷造りを再開した。



 そして、登校初日、恐れていたことが起きる。


「──九条くじょう 楓桜ふうかです。よろしくお願いします」



 ──彼女と、出逢ってしまった。




 

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