うつくしいもの
目覚めた。
目覚まし時計が鳴っている。
手を伸ばすと――
腕が、<羽根>になっている事に気がついた。
先端で、ボタンを押す。
起き上がり、鏡を見る。
自分の顔――鳥のカラダ。
嬉しかった――「これで空が飛べるのだ」
親が来た――変な顔をした。
喋ると――話は通じた。
友達がやってきた――ライトノベルが好きなのに、冷たかった。
しかし、関係がない――「これで空が飛べるのだ」
やってみた。
風に乗る――羽根の様に軽く。
「ばたつかせる必要なんて無い」
しかし
――やはり、
自分のカラダが重い事に気付く。
休んだ。
「隣人がどう見るかなんて関係ない!」――鳥ではなかった時と、同じなのだから。
ニートだから、親に頼んで、食糧をカバンに詰めてもらった。
肩から下げて――出発。
駅に行く――歩いて。
人間の身体より疲れやすいのが難点だ。
"駅員"さんは優しい――鳥のカラダだからといって、
「乗ってはいけない!!」
とは言わなかったから……
――地獄だろうが
――改札だろうが
沙汰は金次第なのだろう。
島の最北端に着いた
――目の前は宏大な海。
食糧が尽きていた。
すると、ヒトが来た
――その頭は、鳥だった。
くちばしに咥えていた食糧を投げてくれた。
食べた――
相手の<親切>だけ。
もちろん、腹は、ふくれない。
あとは飛び上がるだけ。
「なんて難しいのだろう……」――垂直に飛ぶ事。
それでも風を使って――「もっと高く!!!」
もっと、高く!!!!
そして青空の中、
<雲>をその鉤爪で掴み――
疲れ切っていた。
落ちて行く――
見下ろすと、島はない。
パーチする枝もない――電線もない。
藍。
そしてカラダを折り畳む
――<カノピック>の様に。
それを海辺で、悪魔が見ていた
――双眼鏡を、その目に当てて。
悪魔はひとり、鳴いていた
――ないていた。
それは、もちろん、鳥の声。
跳ぶ――着地。
跳ぶ――着地。
"蚊人間"の背中は、"摂"氏が跳びながら前進する度に、大きくなります。
"摂"氏 がジャンプする度に、喉が
「カラカラ」
皮膚は
「ばりばり」
そして繰り返し――最後に、ゾンビの様に肩を落として只歩く"蚊人間"の真後ろに着地して、次のジャンプでは追い越そうと思ったその時!!!
「うぉこー!!!」
という声が、雷鳴の様に轟いて――"摂"氏は着地しませんでした。
そして、掌と足の裏が地面か砂利に接しないまま、"摂"氏は、世界が<暗転>している事に気がつくのです。
砂利で出来た一本道と、それを挟む大地、そして青空は、かけらも見えません――どこなのか、見当もつきません。
真暗の中――それでも風の、顔への打ち方から、前に進んでいる様に思われます。
それがしばらく続いて――とつぜん!!!
「チン!!!」
とマイクロウェーブの終了音に似たモノが頭上から聞こえ、
「さ!!!」
と、周囲が開けました――まるで、テーブルクロスを引き抜く手品の様に、窓を覆ったカーテンを下から強く引き、レールの上の金具を千切って、向こう側を明らかにするかの様に。
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