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ナルルは異世界を旅します。ぶい。  作者: 鬼京雅
仮面ワールド編です。
34/38

決勝戦です。

 決勝戦は私、ナルル対仮面女王です。


「それでは仮面武道会決勝戦を開始します」


 イシコの声と共に決勝戦は開始されました。

 素早くイシコは武舞台から降りて、場外に設けられたテントに向かおうとしますがこけます。

 ですが、何もなかったように駆け出します。流石はイシコ。

 石の仮面を付けているだけありますね。

 と、そんな場合ではありません。

 その最中にも、私と女王の激しい剣の攻防が起きます。


「えいえい」


「はああああああっ!」


「あーこの仮面は邪魔です。外しますよ」


 そして、私は面を外しました。

 もういらないので燃やしてしまいます。えいえい。

 完全に仮面は燃え尽きました。

 明らかに殺気が変わる女王に私は言います。


「流石は女王。素晴らしい剣さばきです。とても過去の弱々しい女王とは比べものにならない力を持っていますね」


「……何が言いたい?」


「さぁ? 貴女はわかってるんじゃないですか?」


 私は所々破れている魔法少女服を魔法で生み出したミラーでチェックします。


「結構痛んでますね。これはもう捨てるしかありませんね。試合が終わったら」


「鏡ばかり見てないで面を付けなさい。この国のルールです」


「この国のルールは今日で変わります。その変化したルールでは仮面は必要無いので私はつけません……んー、やっぱ私は美少女ですね。ぶい」


「ナルシストが……」


「ナルシストですよ。だって少女ですから。ねぇ、皆さん?」


 と、観客全員にも問いかけます。

 多少のざわめきが空間を包みますが、女王の剣の一閃で静まり返ります。

 が、もう全ては動き出しています。

 閉じた感情はいくら塞き止めても溢れる濁流の如く全てを呑み込み流れ続けるだけです。

 それが女王であっても流されるのは道理――。

 そして女王は言います。


「自慢の魔法を使ったらどうなの? 剣だけでは私には勝てないわよ!」


「そうですね。では、遠慮無く」


「えいえい、やーやー」


 火炎魔法で牽制して水流魔法で女王の足元を滑らせ、そこに突きを繰り出します。

 腰をひねりギリギリで回避した女王はヒザ蹴りを仕掛けてきますが、それを爆撃魔法で受け止め後方に飛びました。


「……手加減したのナルル? 魔法耐性のある私にはチャチな威力じゃ効かないわよ」


「えぇ、そうでしたね。あまり心の仮面を剥がさないなら次は本当に足を吹っ飛ばすかもしれないので覚悟して下さい」


 そして振り返る私は言います。


「ミルキー、会場に何か飛んだら身体を張って受け止めて下さい」


「いやいや、魔法で何とかするから!」


「私の愛ですよ?」


「いや、愛じゃないでしょ!?」


「頼みましたよ」


 強制的にミルキーに会場の警護を任せました。

 私のサポートは彼女にしか出来ないので、任せます。

 じゃないと試合に集中出来ないので。

 それでは試合再開です。


「ていやー」


「はあぁぁ!」


 数度の激突を繰り返しますが、女王は中々真意を話しません。

 というか、会話をしなくなりました。

 困りますねぇ……。

 このままでは時間の無駄ですね。

 嫌な手段ですが、心の仮面を取り払うにはこれしかないかな……。

 剣技と魔法の力押しだけでは女王の心の仮面に決定打を与えられないと悟ります。

 なので、私は精神的に揺さぶる事にしました。


「一つ質問です。貴女、本当に女王ですか?」


「……どういう意味だ!」


「戦争を望まない女王が戦争によって家族を無くし豹変するのはわかります。ですが、さほど魔力の補正も無くその体術を繰り出すのは不可能ですよ。別人でもなければ」


「私を愚弄するのか!」


 鋭い突きを受け、私のツインテールの左のゴムが弾けました。

 今までのどの一撃よりも凄いですが、荒さが目立ちますね。

 でなければ、私の髪を少し切らずにゴムを弾けさせられたはずですから。

 あれ、髪が切れてる? 最悪です……。


「……心の乱れがありますね女王。何か不都合な事を言いましたか?」


「黙れ。試合中だ」


「試合とは肉体的な戦いであり、己の内面をさらけ出す言葉の戦いでもあります。なので会話は必須です。ぶい」


 言いつつ、左の髪にゴムをとめます。


「何がぶい……だ。魔女が」


 静かな怒りを女王を見せます。

 その女王は自分の中にある感情で意識が朦朧としています。

 この隙をつき催眠魔法で話させてしまいましょう。


「さいみんさいさーい」


 なわけで私は女王の過去を知ります。

 前の戦争が終わった後に女王は戦争をしない為にある策をとりました。

 外交を止めあえて荒んだ国を疲弊させ、その感情を利用して二度と国民が戦争を望まない事を実感させ誓わせる。

 それがいつの間にかこの状況に慣れてしまった。

 そしてその中で体調を崩していた女王が死に、今の女王である娘になってからルーチンワークになり、本来の目的も忘れてしまった。そして、武道大会での優勝者こそがこの国の行く末を決める王となる戦いになったようです。

 国をどうにも出来ない娘の苦悩がこの現状を招いたようですね。

 そう、女王とは少女でした。

 本当の女王はすでに亡くなっていて、それを隠し王国を維持する為にー自分の悲しみを隠す為にリルアは仮面制度を作り上げたのです。

 全てを単一化し、他人と自分を人形とする為に。


「……ですが、王女を継いだなら国を変えるのは当たり前です。出来ないなら民から新たなる王を選定するか、臣下に意見を聞くべきだった。でも、それをしない」


「……」


 私はすでに女王リルアも気付いている確信を言います。


「貴女は戦闘に快感を感じる存在だったからです」


「私は……戦いしかないのだ! 戦いで支配するしかないのだ!」


 あれ? 私が催眠魔法を解除する前に私の魔法を解除した?

 なので女王の仮面を飛ばします。

 必死に顔を隠す女王に私は言います。


「貴女に必要なのはその素顔でしょう。そして、この国も素顔を晒さなければならない」


 もう、全ては動きだしました。

 この国の平和という無の世界は終わりです。

 貧困と節約で心を殺し、他国と交わらず暮らす生活は本当の平和ではありません。

 いずれ業を煮やす外の国はまた襲撃してくるでしょう。

 平和とは笑顔の象徴。

 だからこの仮面の国の仮面はもう、捨てる時なのです。


「リルア女王。もう休みましょう。そして動き出すのです」


「……そうだな。もう疲れたよ。父と母のフリをするのは……」


「ではこの勝負は私の勝ちですね。ぶい」


 と、会場にも平穏が戻る時に一人の少女の叫び声が聞こえました。

 ミルキーの隣にいるメイド娘が叫んでいます。


「ンゴンゴーーーー!!!」


 決勝戦での私の魔力に影響を受けたシズカのパワーが目覚めてしまったようです。

 魔力大覚醒の始まりですね。

 このままでは仮面王国は消えるでしょう。

 なので止めます。


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