赤髪魔法少女ミルキーが現れました。やれやれ。
閻魔大王の間で直接この地獄の状況を聞きます。
その子供である閻魔ジュニアはおどおどしてます。
あまり似てませんね、この親子。
「さて、閻魔大王。貴方がこの地獄の管理をほぼ放棄して猫とばかり戯れているのは何故ですか? 部下の鬼達も悪人を裁けなくて困っていますよ」
「地獄だからといって殺伐としてる世界になるのはもう嫌なのだ。ワシは優しい地獄を目指したい。すでに死んだ人間を裁いても仕方あるまい? こうやって猫と戯れていれば、悪人も次第に善人になるのだ。わっはっは!」
「では閻魔大王。赤鬼や青鬼には好きに仕事をしろと命じて下さい。人の歴史をご存知ならばお分かりのはずです。人は過去の過ちから学ぶ事はありません」
「あの部下達も乱暴者ばかりだから猫の世話を中心に仕事をすればいい。あまり派手に裁かれる者の身にもなってみろ。痛いのや苦しいのは辛いのだ。なぁ、みゃー子?」
みゃーとその猫は鳴いています。
この人と話してもどうにもなりませんね。
猫と遊ぶオジサンになってます。
「閻魔大王。謎の魔法少女の居場所を教えてもらえないでしょうか? この屋敷にはいなかったので」
「それは教えられないな。あの魔法少女とは居場所を教えない約束で猫を貸してもらってるからな。残念だが諦めるがいい」
「……居場所は教えてくれませんか。なら、自分で探すまでです」
すると、私の影に隠れるジュニアが小声で言います。
「おいナルル。早く出よう。もう親父はダメだから俺達だけで解決しよう」
「もっと声を上げなさいジュニア。いずれ地獄を統治する器になりたければ過去の閻魔大王を思い出しましょう。腑抜けの閻魔大王にビビってるようでは世継ぎにはなれませんよ」
小声で言うジュニアに私は冷たく言いました。
この閻魔一族に生まれた以上、地獄を統治する定めからは逃げられません。
嫌でも、辛くてもやらねばならないのです。
運命に反抗するならば、運命を受け入れてからではないといけません。
このジュニアには行動力はあります。
反骨心もあります。
後は度胸です。
何事にもチャレンジし、巨大で偉大な人物だろうと何万の大群だろうと向かって行ける度胸がこのジュニアを大きく変えるでしょう。
私がその手伝いをするかは知りませんが、私の目的を達成するまでめげなければ成長するでしょう。
「最後に閻魔大王。この地獄に増えている猫。その一番多い場所はどこですか?」
「ワシの別荘だ。そこに大量の猫がいる。もう猫屋敷だな。わっはっは!」
「そうですか。ありがとう」
そして、私は閻魔大王の間を出ました。
これでこの地獄を変化させた謎の魔法少女の居場所は特定されました。
敵は本来地獄に生息しない猫を飼っており、おそらく猫の住む場所を欲しています。
それだけならとっとと解決させてしまいましょう。
「行きますよジュニア。謎の魔法少女を倒しに」
「え? 何で親父の別荘にいるってわかるの? まさかエスパーなの? すげー!」
「魔法使いですが、エスパーではありません。猫好きならば一番猫がいる場所に居るでしょう。そこが別荘ならば隠れ家として自分も住めて一石二鳥。灯台下暗しというやつです」
「灯台下暗し? 難しい事を言うなナルルは。別荘は近いよ。俺も怖くて偉大な親父の世継ぎとして認められたいから頑張る!」
「そう、その気概ですよジュニア。それでは決戦の地へレッツらゴー」
「よっしゃ! レッツゴー!」
「コラ。私の締めの言葉があったんだから言わないで下さい。では、もう一度。レッツらゴー」
「気合いが足りないんだよナルルは。鼻くそほじるパワーじゃなくてウンコするパワーで言えよ。こんな感じで……」
「あまり下品な事は言わないように」
ビリビリと私はジュニアに電撃魔法をかましました。
決めセリフを言われるのは許しません。
だって私、少女ですから。
地獄を元の地獄として機能させるという目的の為に、私はジュニアと共に閻魔大王の別荘へと向かいます。
「レッツらゴー」
※
決戦の地に向かう私はジュニアの言葉を流しつつ思います。
戦いや戦争を終わらせるにはいち早く相手の弱点を知り心を折る事です。
敵が相手の大地を必要としてる戦いならその国は最強の一人の存在をぶつければいい。
自然や都市を残したい敵はどうにも物量でものを言う決戦には持ち込めませんから。
精鋭を小出し、小出しにして他国と戦わねばなりません。
決戦とは恐ろしいものです。
窮鼠猫を噛む――という言葉の通りになると残されるのは虐殺のみです。
それは互いの勢力の全てが消えないと終わらない戦いとも呼べない地獄そのもの。
それが酷くなると世界から輪廻転生の法則から外れた惑星が生まれ、世界全体の危機になるのです。
なので私ナルルがどうにかします。
ですが、今回は……。
そう、土地が欲しいと言ってもこの地獄全てで無くていいのです。
おそらく猫の住処さえ確保出来ればいい。
当人にはそれを納得してもらい、無理なら最悪排除させてもらいます。
そして閻魔大王の別荘にたどり着きました。
二階建てのそこは猫にまみれた猫屋敷と化してます。
ニャー! ニャー! と無数の猫が発情期のように暴れています。
「猫だ!」
と、ジュニアは猫と戯れようと走ります。
父親の閻魔大王と似てますね。
どうやら周囲が綺麗な事から糞尿などのしつけはなっているようですが、正直五月蝿いので眠ってもらいます。ジュニアの阿呆がつられて発情しだしてるのでついでに魔力の範囲に収めてしまいましょう。
「ささやかな眠りに沈みなさい。スリーピングシープ」
睡眠魔法でゆっくり眠ってもらいます。
ん? 猫と戯れていた阿呆も完全に眠ってしまいました。
軽い魔法でも効果てきめんとはやれやれです。
つねりましょう。
「えい」
「痛いっ!」
「どうしましたジュニア?」
「いや、何か眠くなったと思ったら顔がつねられたように痛くて……」
「おそらく謎の赤髪少女の攻撃です。この猫達を眠らさた腹いせでしょう。これは怒る場面ですよジュニア」
「くそー! 赤髪魔法少女め! 絶対倒してやる! 美少女だったから加減するけど!」
美少女ならば加減する?
これはお仕置きですね。
ぶいサインをわからないようにして、鼻の頭を燃やします。
「熱い! 熱いって!」
「手加減無用との敵からのメッセージです。偉大な男と戦いたいようですよジュニア」
「くっそー! やってやるぜ! 赤髪魔法少女の野郎!」
「そう。その調子です」
「やべっ! スゲーの来たよ!」
スッとジュニアは私の影に隠れます。
コラコラ……と思ってると魔力で作られた猫の怪獣が出現します。
一気に始末しましょう。
「えいええい、やーやーやー、とーとーとー、ちっちっち」
私は美少女無双をして敵を倒しました。
無双っていいです。
んっ……とくる爽快感がありますから。
んっ……と力まないと気持ち良く無いですからね。
別にトイレの話をしてるわけではありませんし、私は痔ではありません。
「ん? この魔力は……」
すると、別荘の屋根の上に異様な魔力のオーラを感じます。
赤く、とても攻撃的なオーラを――。
とうとう閻魔大王を籠絡したボスが現れました。
ボスというには可憐な美少女です。
派手な赤を基調とした魔法少女チックな衣装に、鋭い眼光。
猫の髪飾りをしてストレートの赤髪。
赤の魔力少女服。
黒のニーソにハイヒール。
赤い髪のロングの先端は触覚のように動いています。
あら、怖い。
そして高い場所から猫のプリントがされたパンツ丸出しで私に魔法ステッキを指しながら鼻で笑うように見つめています。そして火炎魔法で地面を焼きました。暑い……。
「ビビった? ビビるでしょうね。魔法少女ミルキーのパワーは凄いんだからね!」
「……」
うーん、典型的な自分大好き人間で女王様気取りの少女ですね。
子供の時は可愛いと勘違いした人が誰もが通る道です。
え? 私もその一人?
違います。
私は勘違いではなく正真正銘の美少女ですからお忘れ無く。
そのミルキーは言います。
「アンタ、ぶいをしてる時に魔法を使ってるわね。その何気ない仕草で攻撃をしてるはバレバレよ。時の美少女魔女であるこの私にはまるっとお見通し!」
「自分で美少女と言って恥ずかしくありません?」
「うっさいわね! 貴女はどうなのよ」
「私は自他共に認める美少女ですからいいのです」
「……ぐぬぬ! 黙れ貧乳が!」
そこで私は怒りを覚えます。
感情が……怒りの感情が久しぶりに湧きました。
やったー。
ミルキーに感謝します。
「ちゅ」
とキスをほっぺにしました。
ミルキーは驚いて飛び下がります。
「な、何なのこの女! 変態! 輪廻を司る者がこんな事をしていていいの?」
「いいんです。私、少女ですから」
私は何でも有りという決めセリフを使いました。
これを使うとだいたい許されます。
許さない人は……私が許しません。