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ナルルは異世界を旅します。ぶい。  作者: 鬼京雅
仮面ワールド編です。
29/38

仮面の国へ来ました。

 今回の話は仮面の国。

 この国は仮面をつける事が義務づけられているそうです。

 国や性別、肌の色も容赦の良し悪しも全て仮面が隠し、この国の女王が唱える平和――という世界はこの仮面より保たれています。

 仮面の国の広場にいる私は演説する女王の姿を見つめます。


「……どうやら、女王がこの仮面の国を生み出した元凶のようですね」


 私は人々が一切の本音を話す事も無く、笑わず、怒る事さえない喜怒哀楽の感情も無い仮面の国に仕立て上げた張本人を見ます。

 腰まで届く黒く長い髪。

 白い般若の仮面。

 彼女もまた心に幾億の仮面をかぶっているのでしょう。

 その心の仮面を取り払うには容易ではなさそうです。


「ミルキーは後で来ますから私は宿屋に行きましょう。クンカは温泉マンと温泉発掘してるのでお休みですし」


 宿泊する部屋で私は変なメイド服のおかっぱ幼女を見つけました。

 仮面をつけいますが、背丈と容姿でまだ12歳ぐらいのようです。

 背中にホウキを装備し、自分の掃除した部屋をウットリと頷き眺めています。


「あの、私はナルルです。今からこの部屋は私が宿泊する部屋なんですがどいてもらっていいですか?」


「ンゴンゴ」


 そうだ、そうだという意味みたいです。

 納得するのにンゴンゴとは方言とも思えません。

 他の人が使ってないから造語でしょう。

 ニッ……と笑ったような雰囲気をかもちだすそのおかっぱメイドに問います。


「随分若いメイドみたいですが、年はいくつですか?」


「十二だよ」


「私も千と十四なのでほぼ一緒ですね。それにしても貴女はその若さでこの大きな旅館を掃除してるのですか? 一人で」


「そだよ。この国は節約、節約であまりお金が無いからね。外の国の人もほとんど来ないし、食べ物とかのゆにゅーというのをしてないから貧しい国なんだ」


 その言葉で理解しました。

 この子が十二にしては随分背が低い事と、あまり知能が発達していない事に。


「それでは掃除の仕事が終わった後は何をしてるのです? 食料があまりないなら自給自足でもしてるのですか? 畑とか……」


「あんまし食べ物無いから畑とか耕すよ。きほんてきにはお芋とか食べるの。茹でても焼いても美味しいから! わたし大食いだし!」


「そう、ですか。ならば一緒に夕食をとりましょう。私もこの国に来てわからない事が多いですから」


「あ! ごめんね! この国のほーりつであまり他の国の人と話しちゃいけないんだ。まぁ、この国の人ともなんどけどね」


 シュタタ! とメイド幼女は逃げるように去りました。


「仮面をしていてもあの子だけは自分のままですね。まずはあの子から攻めてみましょう。ほぼ同年代だし」


 そして私は夕食を済ませて、こっそりと旅館から出ました。

 月明かりが、この仮面の国の狭い世界を見下すように見つめています。





「ぶい」


「ンゴンゴ!?」


 私は幼女メイドの四畳半の私室に侵入しました。

 何やら手入れの行き届いている狭い室内は所々補修されていますが、随分とキレイな場所であるのは確かです。

 ヨダレを垂らして寝ていたパジャマ姿のメイドは起き上がり様言います。


「何でシズカの部屋にいるの? か、仮面を!」


「素顔でいいじゃないですか。素顔じゃないと互いの感情が理解出来ませんよ」


「ぬおー! わたしの仮面を返せー!」


「うるさいです」


 少しうるさいので魔法で声量をボリュームダウンさせました。

 ついでに鼻をつまみます。

 ふがふが! と苦しくなったメイドは降参したと言いまさした。

 うん、それでいいのです。

 すると、メイド幼女は話し出します。


「わたしはシズカ。仮面王国のお掃除メイドで年は十二だよ」


「それは聞きましたね。ではシズカ。この国の内情を話して下さい」


「え?」


「お願いします。お芋をあげますので」


「うん……ちょっとだけよ?」


 そして私は仮面王国の話を聞きます。

 仮面女王は女王陛下として舞踏会という名の武道会を開いているようです。

 その武道会は女王自らが剣を取り、戦う。

 女王は国王が生きていた時は剣など手に取る人間では無かったようですが、戦争が終結し死んだ国王に変わり国を立て直す上で変わってしまったようです。

 そして私はシズカに眠る才能を発見します。


(このシズカは魔法の素質がありますね。鍛錬すればホウキで空も飛べるでしょう。いや、大魔導師レベルまで簡単になれるかもしれません。この子の才能は未知数です)


 そして、私とシズカも武道大会に参加する事にしました。




 翌日――。

 武道大会の割には静かな会場で観客達は仮面をしたまま武舞台を見つめます。

 これだけの客がいて静かだと不気味ですね。

 武道大会の初戦は女王です。

 この大会を盛り上げる為のデモンストレーションでもあり、女王の負けず嫌いの性格を現すものでしょう。

 会場に女王が現れ、武舞台の中央に歩きます。

 仮面をつける観客は息を呑み、誰も声を発しません。


『……』


 そして武舞台の中央に立つ女王は剣を抜きました。

 すると、反対の入口から審判であるイシコがロープで繋がれた手錠をかけられた罪人を連れて来ました。その男はまだ元気なようで、不敵な笑みを会場の方へ向かってなげかけます。


「……同胞共よ! 俺はまだ生きているぞ! 俺と共にこの仮面王国を元の姿に戻すんだ! 決起する時は今だ!」


 罪人は叫びます。

 仮面無き世界に皆で戻そうという事を――。

 だけど、誰も反応しません。

 それはこの国の女王が目の前にいるからです。

 その女王は剣を高々と掲げ言います。


「我が仮面王国のルールを破りしこの不届き者に断罪を加える!」


 そして、罪人は誰の声援を受ける事も無く倒れました。

 血に染まる剣をイシコは手に取り、一瞬で拭い鞘も受けとります。

 仮面をしていますが、会場内の人間の気持ちは手に取るようにわかります。

 この国はこの仮面女王こそがルールなのでしょう。

 この初戦と銘打ったデモンストレーションのような行いはこの国の人間の心を拘束する非常な手段のようです。

 これにより、人々が仮面を外す希望は断たれました。反逆する意思を持つ者を失った子羊達に、何かを出来る手立てはありません。

 ここで一気に女王を倒して、この国を変えてしまえばいいのに……と邪道な事を考えるは私の悪い所かもしれません。


「やれやれ……この国の人間の感情はだいぶ奥に追いやられてるようですね。まぁ、頑張りますよ」


 そして女王は言います。


「これより、仮面武道会を開催する!」


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