クンカの過去話です。番外編ですね。
わっちはクンカ。
和の国の忍でござる。
最強の忍であるわっちの話をするには今の主人との話をするのがいいですな。
わっちの生まれはよくわからない。
物心ついた時から発達した嗅覚で敵を嗅ぎ分け手裏剣を投げ、森や川を駆けて敵を倒していた。
親の顔も名も知らず、和の国を守る忍としてわっちは日の当たらない闇を駆けて散りゆく仲間を横目で笑いながら強くなった。
里の人間は強くなるわっちについていけず追い出し、わっちは抜け忍となった。
本来なら抜け忍は里の秘密を持ってる以上許されない存在であるが、わっちの場合は里を出なければ里が安定しなくなってしまうほどの状況だったでござる。
そして、和の国を中心に古今東西全ての人間に鳴り響いたわっちの実力は引っ切り無しに任務の依頼が来たでござる。
そして、魔人のように進化するわっちは百や千の精鋭ですら勝てない最強の忍として恐れられた。
同時に、わっちの心には悪に対する憎しみが増し過ぎていた。
それは依頼主の悪行さえ許さない行動さえとるようなったのでごさる。
人の言葉の伝わりは早いもので、依頼主殺しの噂が広がり次第に仕事の案件が減っていた。
悪を捌きすぎたのでごさる。
依頼主に対してもそういう姿勢で依頼を受けるわっちにどの国も恐怖し、誰も近寄らなくなった。
鋭い嗅覚がわっちに否応無く悪を知らせてくれる事が仇になってしまったでごさる。
そんなわっちは隠れ里でゆっくりと寝ていた。
「仕事が無いと暇でごさる。金があっても衣食住さえどうにかなればいいし、やる事が無いのは苦痛だ……?」
わっちはクンカ隠れ里に依頼密書を届けるカラスがくわえているものを見た。
久しぶりの仕事は、変な仕事だった。
和の国の姫と遊ぶだけの依頼が来たでござる
「暇だし行くでござるか。行きたくはないけど……」
つまらない依頼だなと思いながら和の国の姫の元へ向かったでござる。
※
「クンクン。わっちが最強の忍クンカでござる」
「はじめまして。私は和の国の姫。オタエ姫です」
そんなこんなで、わっちは和の国の姫の元へ依頼を受けに行ったでごさる。
今回の依頼はオタエ姫の遊び相手。
姫の命を狙う敵を倒すわけでも無く、他の勢力を蹂躙するわけでもない拍子抜けの依頼でござった。
その和の国の姫・オタエ姫は言う。
「遊び相手でもいいじゃない。私は忍者が好きなのだから」
「わっちは勝ち負けのある、生死が絡んだ依頼しか引き受けた事が無いでござる。よって、この依頼は引き受ける事は……」
実際和の国の姫に会ってみて愕然としたでござる。
ただ良家に生まれただけで姫ともてはやされ、家臣達の働きだけで暮らすのほほんとした姫の遊び相手などまっぴらごめん。
わっちは戦いたいでござる。
それこそがわっちを高める――。
「ん?」
気付くと、オタエ姫のか細い手がわっちの首筋にあったでござる。
いくら最近実戦から遠ざかっているとはいえ、わっちにこうも接近出来るのは只者ではないでござるよ。
「……私が本気になれば貴女は怪我をしてましたね。首は人体において急所の一つ。これで一つ負けですねクンカ」
「これは負けではないでござる。勝ち負けは戦場にしかないでござるからな」
「じゃあ、負けを認めたら私の友達になって下さいね」
「友達……でござるか?」
わっちは焦った。
まさかこの姫は友達を欲しているのか? わっちは戦場から戦場を一人で駆け回っていた為に友達などおらんでござる。周囲の全ては敵である状況しか知らぬわっちは友達などは知らない――けど、
「全てにおいて、わっちが負ける事はないでござるよ」
わっちはオタエ姫の依頼を受けた。
未知の戦いに臨むわっちの心は新しい炎が灯ったでござる。
そして微笑むオタエ姫は言うでござる。
「随分な自信ね」
「幸せな箱庭にしかいない姫に、殺戮の中で最強になったわっちが全てにおいて優ってるのは明らかでござる」
「人の価値は力だけが全てじゃないわ」
一つの依頼と一つの約束を元に、わっちとオタエ姫の生活は始まったでござる。
色々な遊びでわっちはオタエ姫と遊んだ。
家臣達は心配していたが、家臣達もわっちの実力を知ってる為に何もしてこないでござる。
あぁ、やはり退屈だな……けど、何か心が安らぐでござる。
その時、わっちは空の青さを知った。
空気の美味しさを知った。
「どうしたのクンカ?」
「何でもないでござる」
それからわっちは人と関わる喜びを知り、変化したでござる。
勝負事に関してはわっちが勝利し続けた。
だいたいわっちには勝てるわけが無いのでござる。
しかし、わっちは井の中の蛙であったでござった――。
ある日、鷹に荒らされる雀の巣を見つけたでごさる。
それを見たオタエ姫は瀕死の雀を手にとった。
そして胸の宝玉が輝き、魔力を使ったでござる。
(この姫は……魔力が使えるでござるか)
ここでわっちはまた一つ学んだ。
力とは助け合い。
知力や腕力の得意な者はそれぞれに互いを助けあう。
「これで雀は大丈夫……うっ!」
「オタエ姫!」
魔力を使うとオタエ姫は相手の傷を自分に受けてしまうでござる。
力とは他者より上に立つ為に自分を誇示するものであった。
しかし、膨大な魔力を持つこの姫はそれをしない――。
「……この勝負はわっちの負けでござるな」
「え? それは私の友達になってくれるの?」
「一応……そういう事になるでござる」
わっちは負けた。
負けを認めざるを得なかった。
負けたのに心が晴れやかなのは、わっちも成長してるからなのだろうか?
そして、わっちはこの主人を信用したでござる。
このオタエ姫だけに仕えるはずのわっちの心はとある白髪の少女によって揺らぎ、その人をもう一人の主人として仕えようと思うのはそう遠くない未来だったでござる。
人の未来とは、わからぬものでござるな。




