メイズとサクテルが襲撃してきて疲れます。
オタエ姫は服装もそうですが精神的にも格式が高いようですね。
話し方や雰囲気が穏やかで、争いのある国の姫とは思えません。
すると、前に出るクンカが改まって言います。
「オタエ姫。メイズが来る前に逃げましょう」
「そうですね。助けに来てくれたなら脱出せねばなりません。クンカ、案内を頼みますよ」
「承知」
オタエ姫を救出した私達はクンカを先頭にデスピエロゾーンから脱出します。
サクテルも追撃してきます。
怖いですね。
ワナにかけても、かけても這い上がって来ます。
正に看守の鏡ですね。
でもサクテルに鏡を渡すとオデコに反射してしまうのでやめときます。
「また罠か……じゃあまた来るわ! 何度でもね!」
穴に落ちるサクテルにオタエ姫が言います。
「あのサクテルさん面白いですね。今度は私がワナを仕掛けますよ」
「いや、バナナの皮はベタすぎ……」
「いえ、こういう方がああゆう方にはきくのです。クンカですらベタなワナはききましたから」
「オタエ姫! 余計な事を!」
クンカは赤面します。
というか、オタエ姫の中ではクンカは同列ですか?
クンカは気付いてません。やれやれ。
そして監獄デッドエンドの精鋭モンスターが現れます。
クンカは黄色い閃光として動きます。
デッドエンドのモンスター百は十秒で倒れました。
武器と体術だけでここまでやるとは……和の国の忍は凄いです。
そして怪盗メイズの現実世界から隔離された隠し部屋につきました。
「……」
どうやらここがメイズの隠れ家のようです。
意外とメルヘンチックですね。
謎のゴシックな人形の群れや、犬のぬいぐるみ。
アンティークなベッド。
フリフリがついた洋服の数々――。
「……何かイラつきます」
少し壊しておきましょう。えい。
とりあえず変な柄のカーテンは破いておきます。
すると何故か笑顔になるオタエ姫が言います。
「あれ? ナルルさん、ここは壊していい部屋ですか?」
「少しならいいでしょう。メイズにも混乱を与えるのは必要です」
「そうですか! ならおてんばしちゃいますよ。それー!」
ズガガガッ! とゴシックな人形達は無残に破壊されます。
随分と派手にやりますねと思っていると、クンカは私の服を軽く引っ張り言います。
「……ナルル。大変な事をしたでごさるな。オタエ姫はわっちの忍者無双を昔見てから、暴れる時は徹底的に! という事を念頭に暴れるでごさる。なので、オタエ姫が暴れた後には何も残らないでごさる」
「それは困りましたね。では、範囲を決めましょう。オタエ姫はそっち半分だけお願いします」
その私の声にオタエ姫は手を上げて答えました。
そして、私は冷蔵庫の中にあるカルピスを飲み干してしまおうと考えました。
カルピスを愛飲してるのは好感触ですね。
暴れるオタエ姫を横目に、クンカは本棚の前で立ち尽くししています。
「マンガがあるでござる。ナルル、オススメはどれでごさるか?」
「そうですね……マンガは詳しくないのでアレですが、これならどどうでしょう?」
「彼氏彼女の愛憎劇? 随分とストレートなタイトルでごさるな。とても高校生ものとは思えないでごさる」
「その話はちょっとエッチなシーンが多いですよ。案外恋する乙女のようですねメイズは」
よく本棚を見ると、恋愛物の少女マンガばかりあるのでメイズは休みの時は家でゴロゴロするタイプなのでしょう。
「ここは現実から隔離された空間だか、ゴロゴロしやすいのですね」
「確かにそうでごさるな。わっちはマンガに読むのに集中したいからマキビシを仕掛けておくでござる。やはり男女の愛憎劇は恐ろしいでごさるよ……わっちも今まで様々な愛憎劇を任務で見てきたけど、家の問題や金の問題が絡まない愛憎劇というものはエグいでごさるな……胃にくるで……んんっ!」
「吐かないで下さいよクンカ。吐くなら便所にお願いします」
「……了解でごさる」
脇役の女の子がナイフを持つシーンにクンカは鼻を鳴らし興奮しています。
そして、やけに大人しくなるオタエ確認します。
「どうされましたオタエ姫。疲れたのですか?」
「いえ、ここのお便所が面白いのです。監獄では和の国と同じボットンでしたから」
「ボットン? 和の国は不思議な文化ですね。不便さを美徳とするのでしょうか?」
「お便所が水洗式とは、異世界は進んでますねぇ」
ザッバー! ザッバー! とひたすらに水洗便所の水を流します。
私とクンカはじーっとオタエ姫の不思議な行動を観察します。
オタエ姫、そんなに流したら壊れますよ? と思っていると、ツムジにコイン型のハゲがある干からびた怪盗が叫んで現れました。
「くおらぁ! これじゃ私が混乱すらじゃないのメ・メ・メ・メーイズ!」
緑を基調にした魔法少女服は自然の緑と似ていて心が和みますが、あの人の性格からして緑の安らぎは無いと思います。急いで脱出しようとする私達の前に深緑の旅人が同じ叫びと共に立ちはだかります。
「呼ばれて飛び出てメ・メ・メ・メーイズ!」
「なんですかそれは? ギャグ? 笑えません」
ズズズ……とデッドエンドにいるモンスターが現れます。
おそらくメイズがオタエ姫の匂いをモンスターに認識させたようです。
旅人ならどっかへ旅に行って欲しいものです。
その緑の髪の怪盗は言います。
「そう簡単には逃がさないわよ。ここでは過去にサクテルの姉とも戦ったからここでの戦いは私に有利」
「やはり、貴女がサクテルの姉を倒したのですか。また彼女は来るでしょう」
この怪盗メイズがサクテルの姉を倒したようです。
これを聞いたらサクテルは更なるパワーを発揮するでしょう。
なんてったってアイド……ではなく、なんてったって馬並みなので。
『……』
互いに相手の出方を伺うように黙ります。
クンカはオタエ姫を背後にし、メイズに一撃を入れようと隙を伺います。
ここはあえてメイズの隙を作る必要がありますね……一気に行きますか
「あれ?」
「ごめんなさいナルルさん」
オタエ姫は私の手を払いました。
呆気に取られる私とクンカを残し、オタエ姫はメイズに捕まります。
オタエ姫の顔に悲壮感はありません。
おそらく、何かこのメイズの上を行く策があるのでしょう。
そのまま私はオタエ姫をメイズに渡しました。
メイズのゲートの中にオタエ姫は入ります。
「くそっ! このままでは姫が! 今行くでござる!」
「いえ、このままでいいのですクンカ」
「!?」
弾丸のように突撃しようとするクンカを止めます。
しかしクンカもゲートに入ってしまいました。
……やれやれ。
そして、私は深緑の旅人・怪盗メイズと対峙します。




