ミルキーと共に村の闇に迫ります。
ガ―ドレ―ルの下の崖のコンクリートのくぼみにつかまる私は助けを求めました。
ハッ! とその声に反応するミルキーは私を引き上げました。
「アタシは県警の警部補・ミドミルキーです」
そう挨拶を受けた私はそれを全てスル―し、
「本庁で警部をしている美少女警部ナルルです。ぶい」
互いに挨拶をした二人は、崖の下に降りて広行の遺体を確認しました。
「助さんこりゃ完全に誰だかわからんですな」
「私は助さんじゃないミルキーさん」
「じゃあ角さん?」
「ナルルです」
イラつく私をよそ目にミルキーはしゃがんで石化した遺体を見ます。
「こりゃ完全に誰だかわからんね。一体何でこうなったのかな?」
「この遺体はイクオダ村の住職見習いの広行という人の遺体です。石化した原因はこの村に隠れ住む妖怪の仕業でしょう。二人で探しますよ」
「か―っ、このミドミルキーもびっくりの一大事だね!」
唇をつきだしたミルキーは驚きます。
広行の遺体がくるまれるブルーシ―トの端に手をかける私は、
「とりあえずこの遺体だけでも村に運びますよ。手伝いなさい」
「え? ちょっと待って! 何で駐在呼ばないの?」
「さっき言った内容でわかるでしょう? 妖怪が関与してる以上、一般人では手に負えません。なので私達、刑事コンビでカタをつけます」
「そうね……久しぶりにまともな事件を捜査出来そうだわ」
真剣な顔でミルキーは言いました。
どこまでも刑事である設定を崩しません。
蹴りたいです。
「とてもまともな事件ですからね。村の旅館に泊まって捜査しましょう。私達で事件を解決しますよ」
「あいよ助さん! ……旅館かぁ。入浴シ―ンという事ね? お金さんだね? 任せなさい!」
「ミドミルキーがお金をやるのですか? 貧乳なのに? キャラがぶれてますよ。それと助さんはやめて下さい」
「アンタだって貧乳でしょうが! ニャー!」
とりあえず蹴りを入れました。
そしてミドミルキーは元気に言います。
「妖怪退治には警察でいた方がいいよ。まずは格好からね!」
それだけの為にあの夜に消えたのですか?
何て自由行動な子なのでしょう。
先が思いやられます。
広行の遺体を巻いたブルーシ―トを上下で持つ二人は、あ―だこ―だと言い合いながら赤い車へ向かいます。
そして二人は遺体を車に乗せてイクオダ村に向かいました。
※
村に戻った私は広行の遺体を猫神寺に運びました。
住職は多少取り乱しながらも広行の死を受け入れ、土葬する事にしました。
住職への報告が終わった二人は駐在所に行きます。
そこには片山はおらず、黒いボス猫が机の上で寝ているだけでした。
ミルキーは軽くねっとりと黒猫を撫でつつ、机のイスに座る私は鼻を鳴らしクンクンと嗅ぎました。
「何か臭いですね。イカクサ―」
「これの匂い?」
棚の中にあるするめイカを勝手につまむミルキーは言います。
しかし、私はブンブンと首を振り、
「違います。もっと性的な……何故かコンド―ムあるし」
「! 片山の奴め!」
ガラガラッと机の引き出しを開けると残り少ないコンド―ムの箱が出てきました。
更にミルキーは机の引き出しの奥を見ようとすると、片山が駐在所に戻って来ました。
タイミングがいいですね。
「何、机の中開けてるんですか! やめてくださいよ!」
「片足巡査、仕事場にコンド―ムはいらないですよね? 捨てましょう」
「……わかりましたよ。って、この人誰ですかナルルさん?」
私が言葉を発する前に、ミルキーは警察手帳を印籠のように突きだし言います。
面倒ですね……。
「警部補、ミドミルキーよ! 頭が高い、控えよ―!」
『ははぁ―』
私と片山の背後にいた少女は平伏しました。
「リカちゃん! ……ははぁ―」
勢いのまま仕方なく片山も平伏しました。
ミルキーと片山が互いに挨拶をし、会話するのを見つつ私は思います。
リカはいつの間にか消えていました。
気配が無いですね。
私の魔力反応でも感知しないなんてまるで妖怪です。
妖怪ですね。
そして、片山に県警から依頼を受けたミルキーと共に、広行の石化死の真相を捜査する事と広行の遺体を猫神寺に運んだ事を伝えました。
嫌な顔をする片山は、
「捜査しても無駄ですよ。おそらく住職が土葬したという広行の遺体も消えてますね。遅くとも明日の朝には消える。この村は前に言った通り、不思議な村なんです。二人供無駄足を踏むだけですよ?」
「現場百遍。捜査に無駄足は無わ」
言うなり、ミルキーは駐在所を出ました。
溜め息をつく片山の肩を叩く私は、
「という事でしばらくこの村をミルキーと捜査しますから。この事件以外の色々と余計な事を掘り起こす事になるかもだけど覚悟しといて下さい」
「……調べても何も出ませんよ。どうせ広行の遺体も消えて証拠は何も無くなる。たまにちょっとした事件で県警の人来てもすぐ帰りますよ? 証拠が消えては事件にならないって言って。だから……」
「私、警部ですから」
グシャ! と片山の机の引き出しにあったコンド―ムの箱を握り潰し、片山に向けて投げました。
それをよろけながら受け取る片山は私の背中を見つめ、駐在所の中に戻ります。
煙草を吹かしながら片山はするめイカをつまんだのを、猫売りじいさんは黒い手を伸ばし奪い取りムシャムシャと食べているのを私は知りませんでした。
旅館に戻ると私は再度、宿泊手続きを済ませてミルキーの部屋に泊まっていました。
夕食を食べた二人は部屋で話します。
「……というわけで墓地にある猫神の社に埋められた広行の遺体は消えました」
「え? マジで?」
「とりあえず、あのリカが妖怪なのは確かです。片山もこの事件に関与してる可能性は高いというか共犯だと思うので夜にでも調査しますよ」
「そうね。アタシも色々とこの村について調べたけど、この村は普通の村よ。おかしいのは他人の死に関する感覚だけ」
「そうですね。主に怪しいのはリカとこの村の駐在の片山。それと猫売りじいさんです」
「私も同意見ね。村の住人の聞き込みから、片山は女を連れ込む事が多く、猫売りじいさんってのは山で生活する物請いみたいよ。物請いで十年以上過ごすのも有り得ないけどね」
畳の上に座るミルキーはテ―ブルの上にある私が買ってきた焼き芋を素手で食べます。
そんな私は皿の上にに焼き芋を乗せ、フォークとナイフで食べます。
ミルキーの野生的な所は少し憧れますね。
そしてミルキーはバサッ! と浴衣を脱ぎ下着姿になりました。
そして私の手を取り、
「やるわよ助さん!」
「何をです? ん?」
勢いのまま私は浴衣を脱がされて下着姿になります。
「あーれー」
と、手を引かれてドアの前まで連れていかれつつ問います。
「どこで何をするのです?」
「だから入浴よ! 私はコーモン様であり、お金なのよ! 行くわよ―っ!」
「コーモン? コーモンに入れて欲しいのですか? えいえい」
よくわからないので肛門に炎を生み出しました。
「うきょあ!」
とミルキーは絶叫し、ゲンコツをくらいました。
痛いです。
「お金はミド・コーモンのセクシー担当よ。覚えておいてねナルル」
「何とか記憶しましょう。 ……?」
ミルキーに引っ張られて行く私を、リカは廊下で笑いながら見つめていました。
※
「この紋所が目に入らぬかーっ!」
そんなミルキーの叫ぶ声を横目に私達は村を散策します。
途中、猫売りじいさんとすれ違い猫売りの口上を言われますが、いらないという事を告げて素通りしました。
(怪しいけどこのじいさんを尋問しても無駄ですね。こういう人は、現行犯で証拠を掴むしかないです)
そう思いながら私達は駐在所の近くに来ました。
片山のいない駐在所の付近には、リカが周囲を監視するように遊んでいました。
「いましたね妖怪少女」
サッと私達は物陰に身を隠しました。
そして、駐在所の後ろの崖の下を流れる川を見ます。
そこは片山の前任の田口という巡査が小橋から落下して死んだ場所でした。
そして、一つの殺気が私に向けられている事に気付きます。
「キツネ……っ!」
キツネの容姿のカマイタチがいました。
妖怪達との戦争になりそうです。