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ナルルは異世界を旅します。ぶい。  作者: 鬼京雅
日本ワールド編です
11/38

妖怪が現れました。やれやれ。

 そして、悲しみとやれやれという混乱を抑えつけて昨日の夜から今までの整理をしました。


(……昨日は少し眠れなくてミルキーの布団に入ってミルキーを抱きながら寝ました。その間も何も周囲で異変は無かったし、魔力の結界に反応はありませんでした。……朝までは何も無かったはずです。いや、朝も何もない。……また猫の鳴き声ですか)


 その時、廊下の方から猫の鳴き声が聞こえました。

 ふと、私の思考にノイズが走ります。


「そういえば寝る前に耳障りな猫の鳴き声がしましたね……まぁ、この件には関係ないでしょうが」

 

 行き場の無い怒りが込み上げ、畳を叩きました。

 メキッ……! と畳が少し歪み、私の拳も傷付きました。

 そしてテ―ブルの上にある手拭いで両手に付いている動物の血を拭い、部屋の外へ出ます。


「ころそ、ころそ、な―にでころそ……」


 また気配が消えていますねこの少女は。


「……貴女は本当に人間ですかリカ?」


「見ての通りの少女だよ? ナールルちゃん」


「私も少女です。それに名前は伸ばさないように」


 廊下を走り回るリカにイラつきました。

 そしてこの旅館の女将に事情を説明します。

 犯人の目的はわかりませんが、ミルキーは無事でしょう。

 あの子を仲間にしたのは頼れる存在、背中を任せられる存在だからです。

 故にそんな簡単に負けるはずがありません。

 負けが許される戦いならまだしも、生き死に関わる戦いならば私とて覚悟がなければ勝てない相手です。それがミルキーという少女の本質の強さ――。


「とりあえず、町の駐在でも呼びますか。ミルキー、必ず犯人は捕まえます。猫でも撫でて元気でいてください。ぶい」


 心の中のミルキーにぶいサインをしました。

 そして、今朝の回想から現在に戻ります。




 私はイクオダ村の長老に話を聞きました。

 村の老人は権限があり、怪しいのがテンプレですからね。

 でもその期待は外れました。

 最近のイクオダ村は殺人事件が多いようです。

 先月も他県からこのイクオダ土地の買収に関与する人間が変死を遂げたようです。

 そして、最近は村の人間も死んでいる。

 それは、村の未来に関する会合に関与してるのが共通点のようです。

 そして私は自分の泊まる部屋の血の反応を発見しました。


「……これは間違いなく、あの部屋の血。この先に手がかりがあるかも知れません。行きましょう」


 微かな血の跡を追っていきます。

 それは誘いの血痕という事に気付いていませんでした。

 猫神社の隣のお寺に入ります。

 特に何も変わった所の無いお寺です。

 猫がやけに多いぐらいですね。


「あそこが猫神社……。でもこの寺の本堂は相当古いですね。大丈夫かな?」


 墓地の中に入った私は少し先に見える寺の崩れそうな本堂を見てそう思いました。

 そして、駐在に渡された地図に従い墓地のなかを進みます。

 すると、名前が墓石に刻まれていない墓石を見つけました。


「何? 名前が無いのに備えられた花や線香の量が違いますね。まさか……」


 刑事の感が走り、私は思考します。

 本当は刑事じゃないのに? というツッコミは無用です。

 今は天才美少女警部・ナルルとしてこのイクオダ村では通っていますから。

 えっへん。

 そんなポーズを決めながら考えます。

 おそらくこの町は日常的に殺人が行われてていて、その犠牲者はこの墓に埋葬されているという事になっている……。実行犯にされた私のような人物達はたまにここの町に来て花を備えて帰るのでしょう。しかし、わざわざ容疑者を作り恩を売る割にはあの片山は何も要求して来ませんでしたね。一体何なんでしょうこの町は?。

 風が出てきて目を細める私は墓地から振り返り町の全景を見ました。

 すると、キツネのようなシルエットが左目の横を抜けて行きます――。


「? あれ?」


 すると、私の魔法少女服の袖が切れました。

 突風のような風が通り過ぎただけで――。


「風魔法……けど、魔力の反応が無いですね。一体これは……」


 明らかに敵の攻撃です。

 魔力の反応が無いのが不思議ですが、これで私に警告としての攻撃をしたという事はこの先にこられては困るという事ですね。

 ぷぷぷ。

 案外敵は単純です。

 なわけでレッツらゴー。

 すると墓地を徘徊する猫売りじいさんを発見しました。

 じいさんは相変わらず猫を全身に纏わせ猫売りの口上を述べながらゆっくりと歩いてます。

 暇ですね。


「猫は……」


「猫はいりません。猫女ミルキーは必要ですが」


 鋭くいい放ち、私は猫売りじいさんとすれ違います。

 そのまま寺の境内に入り本堂に向かいました。


「ニャ―オ」


 と黒いボス猫が鳴くと、他の猫は一斉に墓石の周囲にある花を食べました。

 黒いボス猫は沈む夕陽を眺めながら猫売りじいさんの肩で鳴いていました。





 崩れかけの寺の本堂は内部に入ると今にも崩れそうな様子を感じでした。


「おーい。誰かいますかー? ナルル警部ですよー。美少女ですよー。ぶい」


 声をかけても誰も反応しない為、私は容赦なく内部を進みます。

 本堂にある仏像や色々な小物、畳までも埃がたまっていて清掃されていない事が伺えますが、そんな事には興味を示さず薄暗い廊下を進みます。

 それにしても人気が無いですね。寺の住職はいないのでしょうか?

 無用心ですねぇ。

 そう思いながら歩く私の足が止まります。

 台所を見つけ、そこの冷蔵庫を勝手に開けました。

 内部にはろくな食べ物は入っておらず、スカスカです。


「漬物に漬物にカップの日本酒ですか。人はいるが、人数は一人二人ですね。炊飯器も……二合しか炊いてない」


 炊飯器も勝手に開け、中のご飯の量を見ながら冷蔵庫の中からつまんだ沢庵を食べます。

 おいしい……?

 すると、背後に気配を感じました。


「客人とは珍しいのぅ」


「私は美少女警部・ナルル。警察のものです。ちょっと話を聞きたいのです」


 振り返った私は沢庵をむしゃむしゃと食べつつ、警察手帳を住職らしき袈裟を着た老人に見せました。


「警察か。町の駐在のあほう以外の警察を見るのは久しぶりじゃわい。何でも答えてやるぞ。わしの部屋に来い」


 老人はスタスタと廊下を歩いて行きます。

 言われるまま、私は老人の部屋へ入りました。




 その六畳一間の和室は他の場所とは違い、きれいに掃除されていました。

 室内を視線を動かし観察する私は丸い木のテ―ブルの前に座ります。

 老人はポットから湯を注ぎ湯飲みに茶を注いでいました。

 向かい合わせで座る二人の間に二つの湯飲みの湯気が上がります。


「ワシはこの寺、猫神寺の住職じゃ。お前さんは?」


「警視庁のナルルです。休暇で景色が良い所を見たいと思ってこの辺に来たら、ちょっと長居しすぎて昨日の雨にやられましてね。暗くて視界が悪いんでこの村の民宿に泊まる事にしたんですよ。そこの国道はガドレ―ルが破損している所が何ヵ所かありましたから、夜間の運転は危ないと感じましてね」


「そうそう、あの国道は整備がされとらんから。危ない箇所が何ヵ所からあるのう……買い物に行かしたうちの若いのも昨日から帰ってこんし。そういえば車が調子悪いとか言っとったのう。大丈夫だろうか……」


 ズズ―と住職は茶を飲み、私はせんべいをバリバリと食べました。

 これは白い砂糖が斑点のようについていて、多少の塩も効いていておいしいですね。


「流石に事故にあったら連絡が来るでしょう。で、本題に入りますがこのイクオダ村には若い駐在がいますが、前任の駐在は退職されたんですか?」


「いや、事故で死んでおる。駐在所近くの小さな橋があるじゃろ? あの橋から川へ真っ逆さまに落ちて即死じゃ。葬儀はここでやったわい。その奴とはよく遊んでたが、今の駐在は気に食わん。ワシが仲良くしてた旅館の榎戸夫妻の娘、リカを自分の子供のようにして遊んどるからの。ちっとは村の見回りでもせぇ」


 独り言のように言う住職に私は、


「榎戸旅館の娘リカは変わった少女ですが、もっと変わった猫売りじいさんという老人がいますよね? あれは一体何ですか?」


「猫じいは十年くらい前にフラッと現れた害の無いじいさんじゃ。この猫神寺の墓地の上の山の一角に猫神を奉る墓がある。自分はその墓守だと言い、ずっとこの村を猫を売りながらさ迷っている。基本的に猫じいは山の墓の前にある小さな洞窟をねぐらにしておる。奴は害は無いから安心せぇ、ワシが保証する」


 うんうんと自分でうなづく住職は自分の湯飲みに茶を継ぎ足します。

 そして私の湯飲みにも継ぎ足しました。

 頭を下げた私は茶をすすり、この村の全容の輪郭が見えてきた事に少し満足しました。

 しかし、片山との約束があるため迂闊には動けません。


(……この村は狭い。いくらこの住職が片山を嫌っていても、私がチョロチョロしてれば村の住民は確実に怪しむ……片山と仲の良いリカはすぐに片山に告げ口するだろうし。それに猫売りじいさんなど使えるわけもないし……)


 バリッとせんべいを噛む音が、私を思考世界から呼び戻します。

 バリバリッと年の割には歯がまだ元気に生えている住職は一枚のせんべいをたいらげました。

 そして、じっと美少女の私を探るように見つめました。


「それはそうと刑事さん、この村で事件かえ?」


「いや、違いますよ」


「隠さんでもえぇ。本庁の刑事が仲間も連れず一人でこんな田舎に景色だけを見に来たなんて信じられん。今の駐在は役に立たんだろうがこき使ってやってくれ」


「そうですね……?」


 その部屋の障子に影が写り、私は警戒しました。

 猫の鳴き声がし、障子が開きます。


「住職、只今戻りました」


「おう、広行。やけに遅かったな」


「あの雨の影響で車がエンストしましてね。車は町の修理屋に預けてます。今は車屋のバイクを借りて帰って来ました」


 広行という若い作業務を着た坊主頭の男は室内に入り、正座をして私に頭を下げました。


「初めまして。この猫神寺の住職見習いをしております沢田広行と申します」


「初めまして。昨日の雨で足止めをくらいこの村に泊まっている警視庁警部のナルルです」


 やけに若い住職見習いだなと思いつつ私も広行に挨拶をしました。

 そして、広行は立ち上がり部屋を出ていきます。


「広行、飯は炊けてる。おかずだけ作ってくれ」


「かしこまりました」


 ササッと広行は台所に向かいました。

 ふと、国道の情報を広行に聞こうと思った私は、トイレに行くついでに台所に立ち寄りました。

 ふと立ち止まり、背後の影に言います。


「もうバレてますよ広行さん。いえ、猫の妖怪でしょうか?」


「猫では無いが妖怪というのは当たりだ。良くわかったな女……」


 ズウウ……と人間の姿が変化してキツネの妖怪が現れました。

 白い毛並みに鋭い目。

 周囲には風を纏うように空気が揺らめいています。

 どうやらミルキーが追いかけてる犯人の一人でしょう。

 もしかしてやられた?


「このカマイタチ様に勝てると思うのか! 散れ!」


 そのキツネは疾風魔法を使うようで……?


「あれれ? 魔法じゃない?」


 私の魔法防壁を突破し、服が破れてしまいました。

 ズルッとスカートが落ち、赤いリボンが着いた白のパンツが丸出しになります。

 いやん。


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