8/22
妄想パラノイア
物語はこうして始まるのだろう。
これは妄想じゃない。
個人的にはもう少し落ち着いた子の方が好みだが、大した問題ではない。
煙草の似合うロックな美人。
素敵じゃないか。
自らの美学に反するようだが、立ち去ることを止めたのなら振り返っても良いだろう。
此処は微塵も浮かれた様子を顔に出してはいけないと、自然と緩まる頬を締めるように軽く唇を噛む。
多少あざといかも知れないが、引き留められて若干不機嫌そうな表情を作る。
やたらとスローに感じる時間。
その体感に合わせるかのように、ゆっくりと振り返る。
決して急いではならない。
振り返るとそこには座ったまま、上目遣いで此方を見上げる彼女。
......良いじゃないか。
やれやれと言った様子で嘆息をつき、不機嫌な表情を保ったまま口を開く。
「なに?俺もう行かないと」
はっきりと此方の顔を見れないのか、視線は少し落ちていた。
白い手が此方を指す。
紅が引かれた形の良い唇がゆっくりと開く。
「ライター返して」




