妄想パラノイア
酸素と共に体にとって害となる物質を肺の奥へと流し込んだ。
人工的なフレーバーと心地よい気怠さに満足感を覚える。
二十歳になって覚えたそれはすっかりと生活の一部として浸入していた。
「随分美味しそうに吸うね」
火を貸してくれた女性は、隣に座り同様に煙で税金を納めつつ観察するように此方を眺めて一言。
それに習う訳ではないが、此方もぼんやりと返答しつつ彼女を眺める。
「そうかな。まあ、美味しいよね」
綺麗な女性であると思う。
妙な表現だが、別段それだけの綺麗な女性。
アウトローさが感じられ煙草がやたらと似合う、前髪を切り詰めたボブカットに耳にはピアス。
不健康そうな白い肌と対照的な紅い口紅。
すらりとした脚の先には短い革のスカートと、退廃的なデザインのTシャツ。
目立たない格好ではないが、大学では然程珍しいという程のものではなかった。
洋画に出てくるコールガールのような格好をした女性も、アウトローぶった人間も、それがたまたま美人であったとしても珍しくはないだろう。
美人に興味がないと言えば嘘になるが、たまたま火を貸してくれた相手が美人だというだけで妄想を膨らますパラノイアではない。
「それじゃ、どーも。また」
吸い終えた煙草を灰皿に捩じ込んで、短く礼を告げて立ち上がる。
立ち去る際には視線は向けない。
どうでもよい美学だ。
自ら定めた美学に従い視線は向けず、鞄を片手にテラスを出る。
出る。
彼女が自分の服を掴んでいなければ。




