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蛆の王  作者: 多田野 盆蔵
救いの声と救われない声
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妄想パラノイア



通いなれた学食へと足を向けたが、流石にこの時間では準備中で入れずに、喫煙所も兼ねたテラスで時間を潰すことにした。

今朝の夢のせいか頭にもやがかかったような思考の中、座り心地の悪い長椅子に腰を掛けポケットから煙草を取り出すと、慣れた手付きで口にくわえライターを擦る。

しかし、幾度擦れども火花が散るばかりで火が灯る様子はない。

苛立ちは募る一方、役に立たないライターをポケットにしまうと煙草をくわえたまま瞼を伏せる。



意識が闇に落ちそうになった瞬間、びくりと体を揺らし顔を上げる。

寝不足の為か夏の陽気にうとうととしてしまっていたらしい。

足元に落としてしまっていた煙草のフィルターに息を吹き掛けてくわえ直し、再度ライターを取り出して試行するも火がつく様子はない。

生協に行けばライターを入手することは容易いが、どうにも面倒くささが頭をもたげる。

しかし、喫煙者の悲しい性か、欲求には抗えずにライターを買いに行こうと立ち上がり掛けた刹那、不意に後ろから声がかかる。


「えっと、良かったら使う?」


自分がうとうとしている間に来たのだろうか。

いるとは思っていなかった他人から声をかけられ、くわえていた煙草を落としかける。

差し出されたライターの持ち主を追うように、視線を這わせていくと覚えのない女性が立っていた。


恐らくこの学校の学生であることには間違いはないのだろうから、何処かで会っていてもおかしくないが記憶にはない。

つまり、知り合いではないのだろう。


「ん、ありがとうございます」


知り合いであるかどうかとライターの用途はまるで関係はない。

軽く会釈をして相手の手の中からライターを借り受けると、念願の煙草に火を灯すことに成功した。




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