既視感スパイラル
話の続きを待つかのように此方に視線を向けていた長政が、不意に掌を上に向け握り拳で叩いて音を鳴らした。
「ほわほわほわほわ~」
夏の暑さでおかしくなったのかと思い怪訝そうな視線を向けながら、ほうれん草を奥歯で磨り潰す。
口の中に広がった苦味をコーヒーで流し込んで、溜め息と共に反応を待つ犬のような相手におざなりの疑問をぶつけた。
「それは一体何の音?」
「回想が始まる音」
尋ねた自分が馬鹿だったと後悔を抱きつつ、相手が期待する回想は開始させずに、昼食を食べ終えたトレイを手にとって立ち上がる。
元より本末を長政に話すつもりはなかったが、相手の性格を再認識をすると尚更話せる訳がなかった。
「ちょっとちょっと!そこまで話しておいて続きはお預けかよ!」
「お預けも何も、それで終わり。財布忘れて届けてくれて、さようなら。で、終わり」
しれっとした顔で嘘を吐いて背中を向ける。
話せないことならば何故少しでも話したのか。恐らくは、どっかの誰かが話してしまう前に、「何もなかった」と、先手を打っておきたかったのだろう。
背中から苦情の声を聞いた気がするが、聞かなかったことにして食後の一服を嗜むべく喫煙の出来るテラスへと向かった。




