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蛆の王  作者: 多田野 盆蔵
救いの声と救われない声
17/22

晴天ストローム


頭痛がする。

今日は悪夢から始まり、ろくでもない一日だとわかっていた。

しかし、まだ今日は終わっていなかった。


「えっと、なんで絵里さんが番号知ってるの、ですか」


「どうでも良いけど、アンタ私のこと苦手でしょ。長政クンに番号聞いたの」


まるで隠しきれていない。

自覚はあったが、わざわざそれを本人に言う人間は極めて珍しいだろう。


「えー、いや、別に。しっかし、なんで電話を?」


「今ね、長政クンと綾子と飲んでるの。秀悟クンもおいでよ」


「いや、俺はそれどころじゃないんで、スミマセン」


仮に財布があったとしても、酒が飲みたくて仕方なかったとしても、この面子で飲むことは断っただろう。

しかし、財布がないのは事実。

本当にそれどころじゃない。


「んー、でも、本人がいないのに、本人のお金で飲むの、悪いし」


「は?」


「秀悟クン、さっきさー、カフェでーー」




走った。

なりふり構わず走った。

夕方とは言え、まだまだ気温は高く走れば汗をかくだろうが、構わずに。

どうしてこうなったんだろうか。

暑さで回らない頭で自問したところで、答えはでない。

尤も、禅寺で座禅を組んで考えたとて同じだろうが。

あの悪魔共め!



「秀悟クン、さっきさー、カフェで財布から小銭出してさ、小銭をしまって、財布を置いて行っちゃうんだもん。声をかけたのに無視して行っちゃうし」


「は?」


「ってことで、カフェの向かいにある居酒屋にいるから、早くおいでよ。君の財布は預かってるぞ!あ、あと、先に行っとくわね、ごちそうさま!」



居酒屋についた頃には、額から汗が流れる程だった。

三人組の連れがいる旨を伝えると、店員に案内される。

さっさと人質を奪還して家に帰ろうと、心に決めると中を仕切る引き戸を開けた。


「よーっす、秀悟さん、何々めっちゃ汗かいてんじゃん」


既に酔っているのか、汗だくの自分を見て爆笑する長政。

こいつに限ってはいつものことだが。


「うわ、暑そ。大丈夫?」


と、その隣に座る絵里。

人の財布をひらひらとさせる。

向かいに一人で座る綾子は目が合うと薄く笑みを浮かべて会釈をした。


「財布、教えてくれてありがとう。それじゃ、俺は帰るから」


本能が全力で告げる。

此処にいてはいけない、と。

三度みたび言うが、美人が嫌いだと言えば嘘になる。

寧ろ、美人は好きだ。

美人が嫌いな男などいないだろう。

美人最高!


......とにかく、美人は好きだが、この姉妹(+アホ)の組み合わせはいけない。


用事を済ませるべく絵里の方へ手を出すが、財布を持った手を引っ込められる。

此方が怪訝な目で見ていると、絵里が口を開く。


「バイト、嘘なんでしょ?バイトならすぐに来れないもんねぇ?」


忘れていた。

そんなことを言った気がする。


「いや、まあ、それは、まあ」


言い訳が下手すぎる。

と言うか思い付きもしなかった。

それを見て長政がまた爆笑していた。


「財布、返してあげるから、取り敢えず座りなさいな。嘘ついた罰に少し付き合っていきなさい」


反論を許さない口調だった。

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