表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Come&See My Wolrd

作者: 春猫

「今のゲーム機でもキツイのにVRとか制作費採算ベースに合わないんじゃね?」という思い付きから出来た作品です

 第二次大戦中の機械的義肢研究から始まったサイバトロニクス、無人兵器へのアプローチの意味合いも兼ねたテレイグジスタンス、湾岸戦争、その後の巡航ミサイル等とも関連して発達した地形データの3Dデータ化、核戦争に備えた情報研究機関の分散とその情報的統合から発達したワールドワイドウェブ、人工知能、知性の研究から大脳生理学側からのアプローチも加わりムーアの法則によるコンピュータ性能の乗数的発達に後押しされた非ノイマン型コンピュータの発達、パソコン通信から始まり、ネット掲示板、メタバース等インターネットとパソコンの発達、そしてモバイルツールの普及に影響されて人々のライフスタイルすら変化させたデジタルコミュニケーション、コンピュータの平和的利用という観点から始められ、旧来のエンタテインメントを押しのけ、コミュニケーションツールとしての意味合いさえ持つに至ったテレビゲーム・・・こうした様々なテクノロジーの果てに人類が生み出した新たな世界、それがVRMMMOをはじめとする仮想現実世界である。


 当初は視覚、聴覚のみ先行し、他の感覚については置き去りにされてきたVRだが、テレイグジスタンス及びサイバネティクス研究から触覚の脳へのフィードバックが確立し、医療及び防災、スマートファーム等の研究から嗅覚のデジタル化が進み、最終的にスマート家電とネットレシピサイト、スーパー等の生鮮小売の連携による半自動調理器関連で味覚までデジタル化され、人間の感覚器官すべてを電子的に記録、再現する事が可能になった。


 当初は記録機器も大型のものしかなく、研究室ベースでしか実験検証が行われなかったが、記録機器の小型化により、まずは登山、スカイダイビング、スキンダイビング等の各種スポーツ、世界遺産、国立・国定公園等の自然データが記録され、その後、腰に大昔のカセットウォークマンサイズの記録機器をぶら下げ、バイザー、ヘッドフォン、脳波感知センサー等が一体化したヘルメットを被り、指定された場所を指定された条件で歩き回るアルバイト等と言うものすら生まれた。

 当初は大学等の研究機関による検証用のアルバイトであったものが、VRソフトの開発において、そうした些細な日常的データでも「金になる」事が判明し、企業が参加。企業の社会貢献イメージの向上狙いでVRのリアルへのフィードバックで視覚や聴覚に先天的に障害を負った人でも、一定の訓練で電子機器の補助を借りれば他の人たちと同様に社会生活を送れる様になったり、初めて行く場所でもナビゲートで迷わず到達出来る上に、歩いている途上で見たり聞いたりした事を検索したり、或いは共用サイトにアップロード出来るパーソナルナビゲーター「パソナビ」が日常に取り込まれたりと人々のライフスタイルにも変化が見られる様になった。


 さて、こうしたリアルとの相互関係を構築出来る分野はともかく、そうでないエンタテインメント系の世界では、そうしたリアルデータが電子化されている事が逆にネックとなっていった。リアルが電子化されている為に、全くの創作であるSFやファンタジー、メルヘン等の世界の違和感が視覚・聴覚のみであった時代に比べると著しく増大したのだ。


 この違和感を無くす為には、膨大な時間と膨大な資金が必要となった。

 つまりは企業採算ベースに合わなくなったのだ。

 それ以前から制作費の高騰にあえいでいた業界にとって、技術の進歩は重すぎるものとなった。

 それでも餓えた雛鳥の様な、新作を求める声は止まない。

 各種スポーツや現実の地形・軍事等のデータを流用出来るFPSは、VRならではのクオリティで多くの顧客を満足させたが、架空世界を舞台にしたRPGや、FPSでも異星や宇宙空間を舞台にするSF系などは、逆に作り込みの足りなさが目立ってしまい、RPGはその歴史を繰り返す形でダンジョンメインのものを作らざるを得ない状況になってしまったのだ。


 架空のフィールドを作ろうとした某社人気RPGのVR版は、発売未定のまま製作中止となった。



 こうした中、地方の建設業界向けVRCADソフトを作っていた中規模ソフト会社が一本のソフトを出した。


 『My World』というシンプルな埋没必至のソフト。


 しかしながら、このソフトがVRエンタテインメントの世界を救う事になる。


 

 元々、宅地造成とそれに伴う地形変化を盛り込んだVRCADソフトを作っていたこの会社は、そうしたデータを既に自前でかなり抱えており、VRCADの売りの一つがそのデータを生かしたシミュレート機能であったのだが、データ利用シミュレート機能はそのままに、架空のデータをゼロから構築出来る様にした事、及びかなり思い切った手段としてこのソフトに関連するデータの権利をオープンなものにした事が成功の要因として上げられる。

 簡単に言えば、このソフトで作ったデータで商売しても構わないという事だ。


 当初は市町村レベルでしか作れなかったソフト。

 それでも一部のマニアが寝る時間すら忘れて架空の町を作り、VRSNSで交流をして互いに自慢したり批評したり、別のゲームシステムを持ち込んだりして遊んだりと密かな盛り上がりを見せていた。


 これが一般にまで名を知られる様になったのは、一人の定年を迎えたサラリーマンが関わっている。


 定年間近に連れ合いを亡くし、離れて暮らす息子が遠回しの自殺ではないかと心配する程この『My World』にのめり込んだ彼が作った一つの町。


 それは、再開発と市町村統合で完全に失われた、子供時代に彼が過ごした町であった。

 

 空気の匂いから地べたの感覚まで、緻密に再現された町は現実をデータ採取して再現された現代のVRの町並みと比較しても色褪せない程の現実味を帯びていたのだ。


 彼と同年輩以上の人間を中心に口コミで広がり、多くの人々が懐かしさに涙を流し、その時代を知らない人々すら惹き付けて、数多くのゲームや企業研究機関、最先端の大学と並んで最も多くの人々が訪れたVR世界トップ100に入るという快挙を見せた。中にゲームシステムがある訳でも、何かの体験が出来る訳でも無い、単に中に入って見て回るだけのVR世界がここまで人を集めたのは過去にもこれから先にも無かった。


 多くの企業等から買収の交渉などもあったが、彼はこれを故郷が統合された地方自治体に寄付。

 その後は自分はVRを体験する側に回って、二度と何かを作る事は無かった。


 

 『My World』の名も世界に広がった。

 それ以前からこのソフトで作品を作っていた者たちの世界も注目を集めたが、中には公開を禁止されてしまうものもあった。

 某恐怖小説家の作品に出てくる沈んだ都市を再現したその世界。

 訪れた人間の中で精神に異常をきたす者が出てしまったのである。

 視覚と反響音と重力、風の流れと触覚など、五感をわざと統合されない様に計算して作りこまれたその都市は、精神異常までは行かなくても訪れる者に何らかのダメージを与えるものであった為、これをきっかけにVRの法整備も進んで行く事になる。


 制作費高騰にあえぐVRエンタテインメント業界にとっては、このソフトにのめり込む素人とその世界は福音であった。


 素人でものめり込めば比較的簡単に異世界が作れるインターフェイスを持ったソフト。関わる人間が増え、公表されるデータが増えれば商業製品にそのまま利用出来るものや、権利者との交渉で一定の改変を加えて利用出来るものが増えてくる。


 ゲーム系のVR企業が賞金をかけたコンテストを開き、VR世界を公開する為の共有サイトが出来ると、純粋に趣味でのめり込む者だけでなく、一攫千金を夢見る者まで作り手に加わり加熱、特にデジタルコミュニケーションの発達に伴い、逆にリアルコミュニケーションを不得意とする者が増えた若年層、定年が延びたとはいえ医療の高度化で余命と余暇の増えた高齢者が、妄想の限りを尽くしたり、盆栽の様にチマチマと手を加えたりして、何年もかけて世界を作っていった。


 ソフト開発企業に対しても各種の要望と、資金提供、技術協力の申し込みが殺到し、その調整だけで通常業務に支障が生じるレベルとなった。


 最初のソフト発表から3年、そうした様々な声に対応し『My World2』が発売。


 この期間のパソコンの進化等にも支えられ、従来の市町村レベルから、国家、大陸、惑星レベルでの開発が可能となり、また協力作成モードというネット回線を通じた協力製作も可能となり、モードのデモとして開発企業本社周辺のみ存在し、後は真っ白な地球という世界が公開された。


 これはソフト購入者なら誰でもアクセス、改変が可能な世界であったが、某国の人間が自分の国を大きくしてみたり、逆に日本のデータを改悪したり等した為、公開2ヶ月で閉鎖された(逆襲として有志により、その某国のデータ部分だけ排泄物の塊にして、その部分だけ改変出来無くした流用データ地球というものも作られたが、インパクトが有り過ぎて逆にアクセスする人間がいなくなり、公開が停止された)。


 そんなトラブルを抱えつつも『MW2』は全世界に向けて発売され、記録的な売り上げを達成、外見上引き篭もりニートと変わらない世界製作者が多数生まれる事となった。



 10年という期間をかけて作られたリアルなファンタジー世界は、五千万ドルという価格でハリウッド系エンタテインメント企業に買収された。


 三国志の時代の地形を様々な資料から再現、建築物を再現するグループと共に作り上げられた古代中国は公開と同時に中国が権利を主張するという災難に見舞われた。


 結果としてこれ以降、中国を舞台とするエンタテインメントは中国自前のものしか作られなくなっていき、大幅に衰退し主流から外れていく事になった。



 素人に負けてたまるかと、建設会社は月面都市、スペースコロニー、未来都市、海底都市などを作成。


 それに対抗してまた素人が作品を発表、刺激を受けて作る側に回る者だけでなく、人の作った世界の粗探しに夢中になり、度を越えた攻撃で作り手のやる気を殺ぐ事に命をかける非生産的な人間も出た。



 それでも、今日も人々は世界を作り続ける。


 そして世界のどこかで叫ぶのだ。



 「俺の世界を見に来てくれ~!!!」と・・・・・・。





本当は、このツールで異世界作ってる人メインの連作or長編を書きたかったのですが、他に抱えてるものもあるんで、導入部分に手を加えて短篇化しました^^;

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ