第三話
わたしの名は
タコ
そう、青くゆらめく海の中を自由自在な動きでたゆたう、あのタコ。
そのわたしが今居るのは皿の上。
「さあ、お届けだ!」
その男は父親で、わたしを釣り上げ網焼きにした張本人。
わたしはなめらかな海の中から、風の吹きすさぶ乾いた地上へと釣り上げられ、哀れ焼きダコとなり、皿に盛られる運命となったのだった…
「フンフンフーン」
父親は鼻歌混じりに皿に乗ったわたしを運んだ。
そのうしろを、物欲しげに採れたて焼きたてのタコを見つめ、ついていくのは父親の息子。
わたしが変幻自在に泳げるのは海だけではなく、この現世、魂の世界もそうだったようで、焼かれて死んだタコの形から抜け出したわたしの魂は、吸盤で吸い尽くようにその息子の体にからみついていたのだった。
そうしてわたしは見守る。
わたしのあの神から与えられた美しくしなやかな肢体、焼きダコの姿となりはてたものがどこへ行き着くのか…
「お持ちしましたー!」
父親は皿を掲げ持ち、膝をついて平伏した。
白くさらさらの砂浜に立てられたパラソル。
その下のデッキチェアに横たわる相手が、この父親の征服者であり、わたしが捧げられた人物であるようだ。
わたしは少年の体に、平凡な者には見えない8本の足を絡ませ、そのパラソルの下にいる人物を見た。
白いデッキチェアにのばされ組まれた足は…ヒゲの生えた極太大根!(形いびつ)
スカートはひらひらで、やたら黄色い!
樹齢100年はゆうに超えた丸太のような腰、そしてそこへ被せるように3段乗った腹!
もう巨乳というか乳というか脂肪の塊というか、形容しがたい白い固まりが2つ外向きにさらに重なり!
最後に絞り出したようにアゴ下がだるだるした顔のてっぺんには、もじゃもじゃした毛がまとわりついていた。
「あら、おいしそう」
低くハスキーな声を、ぬらぬらした赤い少しつきだしたような唇が発した。
青く血色の悪いまぶたが重いまつげをバサバサゆらし、小さく上向きの鼻がピコピコ息を吹く。
「わたしが食べちゃっていいの?」
デッキチェアに寝そべった、黄色いワンピースの巨大なデブ女がそう笑った。
なんというムチムチバディ…
わたしの体はこれから彼女の腹に収まるというのか?!
「お醤油がいいかしら、お塩がいいかしら?」
彼女が重い体を持ち上げた。
つづけて