第十六話
巨大なタコと化した"私"は、眼の前で震えている巨体女を睨みつけ、唸り声を上げる。
その声は立ちはだかる者達のちっぽけなプライドをへし折り、肝を潰し、心をかき乱す。
綾香を捉えていた男達は、泣きながらその場から逃げ出し、置いて行かれた綾香は、怯えた眼で“私“を見上げた。
綾香は“私“が守る!!
そう決意した“私“は、その巨大なタコ足を巨体女に降り上げる。
そのフルスイングは巨体女を吹き飛びし、身体を壁にめり込ませる……、はずだった。
巨体女は“私“の足を片手で受け止めていた。
突然、巨体女の腕が、筋肉が膨張し、だんだんと黒い毛に覆われて行く。
「『巨獣化』ができるのは、あんた達、憑神だけの特権じゃないのよ!!」
巨体女がそう叫んだ刹那、巨体女の身体が同じように膨れ上がり、巨大なサルへと変貌した。
「人工巨獣化!!ジャイアントコング!!」
巨大なサルと化した巨体女は“私“の足を一本引き千切り、それで“私“を殴り飛ばした。
壁に叩きつけられた“私“は、どうにか七本の足で体制を立て直す。
「まだまだァ!!」
巨大ザルは今度は“私“に馬乗りになり何発も何発も殴り続ける。
必死にタコ足でガードしようと足を伸ばすが、ガードはすぐに弾かれ、まるで意味をなさない。
このまま、“私“は死んでしまうのか……、
大事な人も護れずに......
“私“は死を覚悟し、最後に一目焼き付けようと、綾香の方へと眼を向ける。
綾香もこちらを見ており、その小さな身体を震わせていた。
綾香と眼が会う、綾香は精一杯口を動かし、唇を震わす。
頑張って、
少なくとも“私“にはその言葉だけで十分だった。
“私“は最後の力を振り絞り、タコ足を巨大ザルの全身に絡め、締め付ける。
「な、何をする!やめろ!離せ!」
その雄叫びも聞こえないくらいに、“私“は巨大ザルの肋骨を、頚動脈を、締め上げる。
そして巨大ザルは大量の血反吐を吐き、絶命した。
“私“は巨獣化とやらを解き、綾香の下に歩む。
しかしすぐに倒れ、動けなくなってしまった。
意識が遠のく。
綾香が何かを叫ぶのが見え、視界が闇に包まれた。
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「あ〜あ、殺られちゃった。ま、レベル1程度じゃ、こんなもんか」
女はそう言って、小型の機械の電源を切った。
そして、精神を集中させ、あのお方の顔を思い浮かべる。
「こちら『キャシー』応答願います」
「こちら『サルコ』どうした?」
「標的の捕獲に向かっていたレベル1巨獣が殺害され、捕獲が失敗しました」
「そうか、……ヤツは巨獣化をしたのか?」
「はい、」
「そうか。……それで、次はどうするつもりだ?『キャシー』よ」
「次は私が捕獲に向かいます。私はレベル4ですから、失敗は有り得ません」
「そうか、期待しているぞ」
「ハッ!クロノスに栄光あれ!」
女、キャシーは通信を切り、また夜空を見上げる。
「また、楽しくなりそうね…」
キャシーは、その蛇のような舌で、唇を舐めた。
結構伏線貼りまくりました、お茶目な雨月アナ君です。
次の人、頑張って!