第十三話
「さっき別れたばかりだというのに、また戻ってきやがって。どうにも、今度はお前のせいではないようだったが……。
とにかくだ。言われた所でお前、いや、“わたし”か? “わたし”のおかげで、“俺”の力は落ちてしまっているとさっき言ったはずだ」
騒がしさにあのストロベリーブロンドの髪の少女の声が混ざったと思った所で、再び私の意識は遠退いて行ったのだった。
そこでまた“わたし”は少年の姿の“俺”に再開し、“わたし”は“俺”に訴えた。
この環境になれているのは、“わたし”ではなく“俺”なのだから、“俺”が体を受け持って欲しい、と。
「“俺”が好きに出来るのなら、最初からそうしている。さっきも言ったが、確かに任せるには不安だ。
だから、助言はしてやる。この体は“わたし”だが、やはり“俺”でもあるからな」
“俺”の返答は期待に沿うものでは無かった。だが――。
「仕方ない……のでしょうね。では、是非とも助言を。彼らとの正しい接し方を“わたし”に教えて欲しいのですが。
その……今、彼らと上手く接する事が出来ているとは、あまり思えないので」
「それなら“わたし”だって出来るはずだ。最初にこの体に入った時の事を忘れたのか?」
最初? どうだったか?
わたしが悩む様に首を傾げると、“俺”が回答を渡してくれる。
「“俺”がこの体を演じた様に、最初はちゃんと“わたし”も演じていただろう? 父ちゃ~んってな。
今の奴らに対してはやり過ぎかもしれないが、子供は子供らしくしていれば問題無い」
「あれは、演技にしろ“俺”の名残がまだ強く出ていたからだと“わたし”は思う」
つまり、もう一度やれと言われても厳しいのだと主張する。
「それでも一度やれたなら、二度目もあるもんだ。何とかなるさ。何より、あのキャラ付けはここじゃ意味が無いからな。
人の世という点で俺はこの世界の住人だったが、ここに“俺”を知っている奴は居ない。やり易い様にやればいいさ」
言い切ると、“俺”から伝わる雰囲気が変わった。
「それよりも、“わたし”をこっちに押し込んだ何かが気になる。
何も無いといいんだがな」
“俺”は不機嫌そうに唸る。
「“わたし”を、押し込んだ?」
「ああ。何処から、誰が、どんな方法で、それは判別がつかないが、確かに“わたし”はここに押し込まれて来た。
その点で先の邂逅と同じではないな。いや、俺が引っ張ってきたから同じか?」
疑問する“わたし”に“俺”が答えた。
「でも、何でそれを――」
「知っているのかって?」
“わたし”の言葉を引き継いだ“俺”が、言ってなかったか、と呟き説明をしてくれた。
「“わたし”は前に、とんでもない泳ぎを実践したな? あれは“わたし”が培ってきたものだ。 それは“わたし”という存在に刻みこまれている。陸を走るのが苦になる程に。
そして“俺”という存在は感じ取る術に長ける。特に敵意、害意には敏感だ。
“わたし”の真っ赤なボディを掴む時にも敵意も害意もビンビンに感じていた。可愛げのある抵抗だけかと思ったら、想定外のとんでもないしっぺ返しも食らったがな」
「まあ、あの美しく艶めく深紅のボディにこだわりがあったのですが、命には勝りませんでした」
「じゃあ、その内お気に召す深紅の艶めきに出会ったら、“俺”にこの体を開け渡してくれ」
そこで、ああ、と“俺”が何か思い出した様に呟いた。
「話が逸れているじゃないか。“わたし”にアプローチをしてきた何かの話だな。
害意、敵意はあまり感じない。ただ、身の毛もよだつ程に、興味を持たれているな、これは」
「では、どうしたら?」
「目的、手段が不明で、加えて、害意も薄い。何がしたいのやら、だな。
はっきり言って、出来る事は無いな。あの親子やクラスメイトと適当に過ごして、相手さんの今後の出方を窺おう」
最後に、まあ頑張れ、と付け足した所で、タイミング良く体の意識が覚醒を始める。
離れる前に、色々と話してくれた事に礼を告げる。
“俺”は、軽く手を上げてぶっきらぼうに答えてくれた。
話が進まなかった上に良く分からない設定を追加してしまいました。
続きをどなたか、よろしくお願いします。
“父ちゃ~ん、続きは~?”