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颪吹く。

作者: 涼風霽朋
掲載日:2026/06/16

次の方は読まないでください


漢字を多用する作家が嫌いな人

素敵なキャラクターを読みたくて読んでいる人

その他、私の作風好まない人(初作品なのにね)

あ、あとネットをリビングだと思ってる人







夏なのに、その日は颪が吹き下ろしたのであった。







 空を見上ぐ私の目には青空と少しの雲。

後ろから私を呼ぶように仄かに風が吹いて、スカートが揺れる。

その風に誘われて振り向けば、すでに太陽を隠した真っ黒な雲が私の背中を見つめていた。




 行ってきます、と母に告げて幅広い大通りを歩き続けてかれこれ三十分ほど。その間に何台もの車が私を過ぎ、追い越す。時計は最寄り駅のM駅に乗るべき電車が到着する時刻を指していた。下を向きながら大きくため息を付いて、今度は顔を上げて。

目についた看板は語る。



「M駅近く 〇〇歯科 Uターンして140メートル」



 夏休み前までに進路を決めておきなさい。

先週の三者面談のあと、母に言われたその言葉を何度も反芻しながら重いリュックを背負って彷徨う。将来の夢なんて無いし、ずっと昔に諦めたし、やりたいこと? 普通に働いて、三十前には素敵な人と結婚して……。車が私を追い越して、スカートが揺れる。

 友達に、進路もう決めた? と、LINEしたあの頃が懐かしい。あの時、全然まだだよ~と返してきた彼女はとっくに決め終わって、夏休みのオープンキャンパスに参加するため、予約し終わっているんだとか。例えるならば、流行りの靴だと思って履いていったら、友達に懐かしいね、と言われるような。

 そういえば、彼女は模試の成績がどんどん良くなっているらしい。目標があると違うというのはどうやら本当のようで、以前は部活にのめりこむ彼女からテスト前に、教えて~、と懇願されるような立場だったのに、いつの間にか教えてもらうことが最近は多くなっているように感じる。


 急がなきゃ、急がなきゃ、と思うほどに思考は霧散して、一向に纏まら無いこのもどかしさが辛い。



 どっぷりと思考に浸る私の耳に突然、少し前に流行ったK-POPの曲が聞こえる。キョロキョロとあたりを見渡し、仄かに震えるスカートに、あ、私のスマホからだ、と気が付く。そういえば、この曲が流行っていた時に電話の着信音にしていたなあ、と思い出す。電話番号の欄には学校、の二文字が踊る。咄嗟に指は赤丸へ伸び、いや、と電源を切る。黒い鏡に浮かぶ顔に嘆息して、そしてまた歩む。



 涼風一陣、それだけを残して真っ青な車が私の横を去ってゆく。辺りは見知らぬ街並みに……確か、そこのコンビニは、友人が推しているキャラのコラボグッズを探し歩いているときに一度来た気がする。結局どこもかしこも売り切れで、全部無駄足だったね、と二人、疲れのわりに軽い足取りで夕日の中を帰った記憶は一年前のはずなのにはるか昔のように思われる。遠くに見える山々は聳えて、歩道を走る自転車が横を通り過ぎて、私だけが歩道を歩いている。


 ゆうこせんせーおなかすいた、という舌足らずな少女の明るい声が耳を刺す。見渡しても見当たら無い幼稚園。きっとどこか遠くにあるのだろう、よっぽどお腹が空いたんだな。

「幼稚園か」

ぐぅ。お腹がなっても一人。私、おなかすいた。次のコンビニで何か買おう、そう思い、出したスマホは私の顔を映すばかりで時刻すら教えることは無い。左手を持ち上げて、入学祝でもらった時計を見ればまさに正午を告げていた。半日無駄にした事実が目のまえに立ちはだかる。刹那、強風。前面に受ける。ロックな音楽を爆音で流す黒い車が風など気にせず私を追い抜いてゆく。

揺れるスカートを抑えて、仄かな雨の匂い。ふと見上げた先には私を追いかけていたはずの曇天が広がっていた。


 一向に見つから無いコンビニ。気づけば歩道も無くなって、引かれた白一線に不安を覚える。遠くに見えていたはずの山々はその姿を大きくし、私の無意味な歩みの証明をする。それでも、目指すべきコンビニは見え無い。気が付けば凪、途端吹き付ける風が目を乾かす。揺れたスカートを強く抑えて、瞬いて目を擦る。



 あっさりとした入店音に少し驚く。普段は音楽が流れるから、違うコンビニであることを自覚する。店内の時計はとうに14時を回っていて、コンビニの遠さに辟易する。

 いつもの場所でいつものおにぎりを手に取ろうとするも当然そこには無く、仕方無く別のおにぎりを手に取る。電子決済を、とスマホを取り出し電源をつける。着信履歴と、友人からのメッセージ通知が豪雨のようにスマホを埋め尽くす。ちょうどもう一件の通知が来る。


今日の5限の授業やばかった~w 今度来たら教えてあげる! 早く治して勉強頑張ろ 


思わず消したスマホの画面にまるでずぶ濡れになったような顔が浮かんでいた。



「合計……になります、お会計、何になさいますか? 」


「PayPayで」


明るい声が店内に響く。あざーしたーという間延びした店員の声を背に私はコンビニを出る。


右ポケットにしまったスマホが震える。K-POPが響く。短い退店音。


ぱら、ぱらと降り出した雨は瞬く間にここから帰ることすら、儘なら無いような豪雨、そして轟音。

もう聞こえ無いK-POPとスカートを揺らす右ポケット。


見上げれば果ての無い暗闇。そして見下ろすようなあの山々。


「もう進めないな」


吹き付けた風は私を濡らし、重くなったスカートはもう揺れ無い。



















素敵な世界になりますように

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