「留年したら同期だな」
テストが近づいた。机に参考書を広げることは、さながら津波に耐えんと防波堤を築くようだった。俺たちは予感していた。余震のように続く授業の難易度、それは大震災を引き起こす前触れだった。テストの点数をどれだけ落とさずにいられるか。俺たちはそればかり考えていた。
いつもなら休憩時間はガヤガヤとうるさいはずなのに、ピリついた空気が走っている。まだ受験までは遠いからと、油断していたら足を掬われる。津波のようにテストを感じるのは、友人がその波に攫われたからだ。
友人は防波堤を築くことを怠り、赤点の海へと攫われていった。そしてついに留年したのだ。補修をサボって俺と遊んでいたからだろう。友人は攫われたまま、昨年と同じ学年で海遊している。俺はそれを避けないといけない。
「来週の月曜日から、テストが始まります。この土日はしっかり対策するように」
先生の号令がかかると、俺たちは帰宅した。帰路の斜陽が、沈む自分の気持ちのようだった。夕日が俺に放射されると、アスファルトに影が写る。それは俺本人よりも大きい影だった。まるで、攫ってくれと言わんばかりに、地べたに寝転ぶ影だった。
「まあ、お前が留年したら同期だな」
そう笑った友人を覚えている。留年させようとしているのか? と思った。それから、俺はうっすらと友人が嫌いになった。あんな奴にはならないと、嫌悪感をエネルギーに勉強した。
俺は今まで勉強してきたし、友人のようにはならない。目の前に伸びる影は、さながら友人だった。攫われてしまった友人が、遺影のように俺を呼んでいる。俺とお前は同じだろう? と言いたげに、同じ動きをしている。
不安になりながら、家に戻っても勉強した。テキストを広げて、もう何度か復習したところを再読した。何度か復習したはずなのに、まだ確認しきれていない箇所を見つけた。ゾワっと冷や汗が湧く。
やばい。俺はそこの問題を解いて、他の条件になっても、解けるようにならないといけなかった。ペンの影が動く。手を振っているような影の動きだった。
『おーい。おーい』
友人の声で再生される。ペンが動いて、影も動いているだけだ。ペンの影が手を振る動きに見えるなんて、今は無駄だ。あんな奴と一緒になってたまるか。
『おーい。おーい』
しかし、脳みそは不便なもので、強制的に友人の声から思い出が想起した。遊びに行こうと待ち合わせたのに、俺が迷ってしまった時だった。友人は大きな声で呼んでくれた。とてもありがたいと思った。
問題を解きながら、俺はその思い出を想起した。そして、俺は当たり前だけど、友人とまた遊びたいと思った。当たり前だけど、俺は友人と遊ぶのが好きだった。ペンが動くたびに影も手を振った。俺を留年させてやろうとしている? そんな奴だったか?
友人は必死になっている俺を茶かそうとしてくれただけだろう。留年したら同期だな、と言えば俺の気も軽くなると、そう思ってくれたんだろう。
俺は友人に謝ろうと思った。自分が勉強するために、わざと友人を嫌っていたきらいがあること。お前とは違うと嫌悪感を湧かせて、友人を自分の道具にしてしまったこと。自分の中の蟠りと焦りが消えると、問題が解ける。月曜日に謝ると決まったから、もうテストはついでである。なんだ、勉強よりも友人の方が俺は好きなんだ。優先順位が低いテストに、そこまで緊張する必要はない。




