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プロローグ

 この世に生まれて十七年、生きるのが無理になった。


 理由は数えきれないほどある。


 炎上してアイドルとしての生活が疲れたとか、CD折られた画像見たとか、DMに罵詈雑言が来るとか、私がライブ配信に出るとコメントが荒れるから出してもらえないとか、ずっと目指してたCМ出演が消えたとか。


 炎上に終わりが見えないし、これからも炎上したことを引きずって生きていかなきゃいけないとか。


 私の置かれた状況すべてが、アイドルとして致命傷だった。


 しかしながら万単位で自殺者が絶えないこの国では、大変残念なことに自殺防止の策が講じられている。


 駅ではホームドアが設置されているし、踏切では緊急停止ボタンがある。


 ある程度の階数を超えた建物は窓が開かないところがほとんどだ。飛び降りに適している崖や橋はボランティアの見張りがいるし、学校の屋上なんて業者すら立ち入らず、扉にはべっとりほこりが溜まっていた。


 睡眠薬だって、そうやすやすと大量にもらえないし、不審な言動を見せればすぐカウンセリングが入る。


 楽に死ぬことすら許されないのだ。この世界は。


 包丁で胸を一突きは痛いし、絶対奥まで刺せる気がしない。リストカットで死ねるわけないなんてネットには書かれているし、首つりは方法より先に失敗したときのリスクが滔々と語られる。


 死にづらい。ただでさえ生きづらいのに、死ぬことすらうまくできない。


 そうして色々死ぬ手段を模索して、最終的に行き着いたのは虚無だった。


 もうどうでもいいや、痛くても。とりあえず死のう。


 平日昼間の情報バラエティ番組を見て、ぼんやりと思った。土砂降りの雨が、窓を叩くように降り注いでいる。


 もう二週間以上窓を閉じたきりなのに、雨の匂いが強くて不快だ。


 テレビの液晶画面には、ファンが起こした殺人未遂事件についてコメントする俳優が映って、次はその残虐性から先日死刑が執行された死刑囚の話題へと変わっていった。


 この世界の全てを恨んでいるような、鬼気迫る顔写真とともに、司会者が痛ましい顔で事件について語ったあと、次の話題も明るくない話題ですと声を落とす。


 司会者が背にしていたフリップが一気に変わり、私の顔とともに『大炎上中! 果崎(はてさき)あかり! アイドルの水面下での戦い! 同期を引きずり落とした黒幕の手口』と出たところで、私はテレビを消した。


 ぷつりと音がして、画面が一気に真っ黒になる。


 液晶にリモコンを投げつけようとして、なんとなく出来ずにリモコンをベッドに放り、私は部屋を後にした。


 はじめは飛び降りにしようかと思ったけど、だめだった。


 マンションの非常口を上って、照り付けるどころか焼き付けるほど熱い日差しに四苦八苦しながら手すりに足をかけ、柵をよじ登ったところまでは良かった。


 けれど、低めに設定された天井に頭を打ちつけながら見た景色は存外低く、この世界に死ぬのに都合のいい場所なんてないんじゃないかと絶望した。


 よく狂気にふれた人間を殴って正気に戻すシーンがあるけれど、アスファルトの天井にぶつけたところで私の頭はよくならない。もちろん心もだ。


 マンションは大通りに面していて、目の前の通りはデリバリーや配達員が行き交い最悪巻き込む。さらに写真に撮られ、自分の死体がネットに出回るところを想像して、取りやめとなった。


 結局、自分の部屋しかない。


 息を吐いて、私は刃物を手に取った。かまってちゃんの自傷行為なんて言われる方法だけれど、脈を狙えば大丈夫なはず。私は最も具合がよさそうなところを狙って刃物をあてた。


 目を閉じて、最後に出たライブの写真を使いながら「若手アイドル  自殺」とテロップ付きで流れるところを想像しようとして、やめた。どうでもいい。


 だって私を見てくれる人間なんていない。


 私が死んでも、気にする人間なんていない。


 もういない。


 無価値だから。


 最後の力を振り絞るという表現があるけれど、まさしく今、私はそれをする。刃を当てただけで、ひりついた痛みを感じた。このまま強く引けばいいはず。私は思い切り力を込めて、刃物を掴む腕を動かした。



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