第4話 才能
「・・・よし、準備できたね!うん!男前になったじゃないか!」
「・・母親に言われてもうれしくはないな・・」
今日は王国、騎士団に所属する大切な日、身だしなみは普段から母に言われ整えていたが今日はいつも以上にシャキッとさせられる、田舎もんだから恥にならないようにとこれでもかとぐらいキッチリさせられた
「着替え終わったわ!どうかしら!ゼロン!都会用に買っておいた服なのよ!」
隣の部屋で着替えていたミーンが元気な姿で俺に問う
その恰好はフリルがついているスカートにこの時期にはまだ似合わない白のノースリーブシャツだった
緑髪のポニーテールとよく合う姿だ
「似合っているが、俺達は鍛錬をするんだぞ?その恰好は流石に・・それに騎士団のほうには制服みたいなのあるだろ?」
「それぐらいわかっているわ、でもちょっとは外を歩くでしょ?そのちょっとでもオシャレはしておくべきよ!田舎者だって笑われないようにね!」
ミーンは元気いっぱいの女性だ、だがこれほどまでにテンションが高い彼女を見たのは生まれて初めてだ
「ミーンちゃんよく似合っているよ!これなら都会の女たちに負けないね!アッハッハッハ!」
「フフ!ありがとおば様!」
幼馴染の元気な声、母の陽気な声、場所は違えどここには確かな平穏が存在している
ここ数日の間に色々あり怒りや悲しみの感情がわきあふれ平和とは程遠い日々だったが、
今ここにはあの時の平穏な日常が戻ってきたようで俺はうれしかった
「失礼、迎えに来たが・・・うむ、準備はできているな」
クーヘンが来た、ミーンのほうを見て少し悩んだ表情をしていたがそれを咎めたりはしなかった
騎士団長を務めている以上規律に厳しく頭の固い奴かと思っていたが意外と柔軟な思考の持ち主らしい
「とりあえず王様にご挨拶に行くぞ、そのあとは鍛錬場で一日中鍛錬だ!剣の持ち方から戦い方から魔法の基礎までみっちり教え込むからな!騎士団では規律が第一だ!努力を怠らず日々精進し国のため民のため己を鼓舞し誠実に正しく振舞う!」
前言撤回だ、やはり頭は固そうだ。
規律にはとことん厳しそうなタイプだ。
「そうだ・・・母さんは今日の馬車で村に帰ることにするから、あんた達は今日から二人っきりでここで過ごすんだよ!」
「え?い、いきなりすぎやしないか母さん・・」
「村の人たちにもちゃんとこのことを伝えないとね!母さんの息子は騎士団で立派に成長してから帰ってくるって!ミーンちゃんのお父さんとお母さんにもよろしく言っておくからね!
息子を頼んだよ!」
「ハ・・・ハイ!任せてください!恥をかかせないようにします!」
「うん!頼んだよ!・・・立派に務めを果たしてくるんだよ!・・・でも辛くなったら戻ってきなさい、
自分を追い詰めて馬鹿な真似だけはするんじゃないよ?」
「・・・ああ、母さん」
自分の母親じゃない、そう聞いた時はこれからどう接していけばいいのか俺はわからなかった
けど母さんのこの笑顔といつもと変わらない態度を見てわかった
本当の母親じゃない、けどこの人は間違いなく俺の母さんだ
18年間迷惑かけたり世話してもらったりした分、ちゃんと恩返ししないとな
「では、行くぞ、王様のもとに」
「ハイ!行ってきます!おばさま!」
「・・・行ってきます・・母さん・・」
「・・・ああ!いってらっしゃい!二人とも!」
これから暫くは会えない、これが別れの挨拶になるだろう。
けれども俺はこれでいいと思っている、また会うことができるのだからこれ以上の言葉はいらない
俺は胸張って城に向かった
「そなたがあのモリンスの息子か」
「え、ええ・・・ハイ」
目も奪われるよな華々しい玉座にひげを生やしたふくよかな老人が座っている、この国の王だ。
威厳ある服装とは違い柔らかい目をしており顔つきものほほんとしている
態度こそ威厳たっぷりの様子だが人の好さが隠しきれていない気さくな雰囲気を感じた
「わしは詳しい事情は知らぬが、元騎士団所属の息子となれば歓迎せぬわけにはいかぬまい
困ったことがあったらワシに相談するのだぞ!民に寄り添うのが王としての務めだからな!
ヌッハッハッハッハッハ!」
陽気な声が城中に響き渡る、王国の人々が笑顔で明るいのはこの王様が国を引っ張っていっているからなのだろう。
「いやしかし、騎士団も最近は人手不足続き!そのなか二人も騎士団に所属してくれるとは!
お主たちの活躍と成長を大いに期待しておるぞ!」
「ハイ!王様!立派な騎士として務めを果たします!」
ミーンはすっかりその気だ、まだ剣すらも持っていないというのに
「ではそろそろ行こう・・・失礼します、王様」
俺達は玉座をあとにした
クーヘンに連れられ進んだ先は、広い道場だった。
周りを見ると藁でできたマネキンに武器が立てかけられているラック、包帯や絆創膏といった医療用具が数多くそろえられていた
あたりを観察していると奥のほうに人の姿が確認できた、女性のようだがその可憐な顔つきとは裏腹に重厚感のある鎧に人一人分ぐらいの大きさがある大剣を持っている
「ん?おお、クーヘンではないか・・・ではそちらの二人が昨日話していた子供たちか」
「ああ、ゼロンとミーンだ・・二人とも、この女性はフォーリアスといい騎士団の副団長を務めている」
「ふ、副団長!えっと、初めましてミーンです!きょ、今日からお世話になっております・・・?」
慌てた様子であいさつをするミーンを見て、フォーリアスはくすっと笑った
「そう緊張することはない、立場上厳しいことを言うかもしれないが我々は同じ騎士団の仲間なのだからな、これから共に戦場に出ることもあるかもしれない、これからよろしく頼む」
フォーリアスは鎧を脱ぎ少し汚れている華奢な手を差し出してきた
俺達も手を差し出し握手を交わした
「これから訓練か?邪魔でなければ私も見てもいいか?」
「そうだな、副団長にはこの子たちの剣の腕がどれぐらいのものか審査してもらおう、二人ともあそこのラックから好きな武器を持ってくるんだ、さっそく訓練を開始する」
「いきなり実践訓練か?剣の持ち方とか俺達は何も知らないんだぞ」
「まずはどれほどのものか見定めさせてもらう、好きな武器を選んでくるんだ」
そういわれ俺達は武器ラックの前に立った、物語でよく見るようなオーソドックスな剣を始めとして、見ただけで重そうな鉄の剣、先端が少しボロボロの槍に血痕が付いているハンマーと多種多様な武器がそろえられていた
「どうする?私達武器なんて触ったことがないし何を選べばいいのか・・・」
「俺はこの剣にする、そもそも俺達は何も知らないんだからオーソドックスなのが一番だろう」
「そっか、じゃあ私も剣にしよう」
「二人とも決まったようだな、ではまずミーン!構えろ!」
「え!?い、いきなり私ですか!?」
「そうだ!ボヤボヤするな!実戦では敵は待ってくれないぞ!」
「ハ・・ハイ!え・・えっと・・!」
クーヘンの威圧的な態度と強い口調に圧倒されながらもミーンは武器を構えた、だがしかし足は震えており構え方もおかしく戦う人間の姿をしていない
「え・・・ええいい!やーーーーー!」
ミーンががむしゃらに剣を振り下ろしたがクーヘンは軽く避けミーンを小突き剣を奪った
「わかってはいたが一番最初の基礎知識から教える必要がありそうだな、今のままではスライムを倒すことすらままならん」
「うう・・モンスターと戦ったことなんてないですからしょうがないですよ・・・!」
言い訳とも取れるような言葉を残し膝から崩れ落ちた
「ミーン、そこに座っていては訓練の邪魔になる、こちらに来なさい」
フォーリアスはミーンのほうに駆け寄り腕を引っ張っていった
「では次ゼロン・・・まあお前も剣については何も知らないだろう、だが全力でかかってくるんだぞ!」
「あ、ああ・・!よし!」
俺は構えた、当然俺も素人なのだから剣の持ち方なんて何も知らない
とりあえず剣を構えた
「では、こい!」
「ああ!うおおおりゃぁぁぁぁぁーーーーー!!」
思いっきり剣を振りかざしたが案の定交わされた、だが俺には見えた
右のほうに交わし俺のことを小突こうとしているクーヘンが
俺はとっさに一歩下がりクーヘンの攻撃をかわした
「なに・・・!?」
クーヘンは動揺した、俺はその隙を見逃さず剣を素早く奴の懐に潜り込ませた
カキン
鎧にわずかではあるが剣があたった音がした、俺もよくわからなかったが確実にわかったことがある
騎士団長に一泡吹かせるぐらいの実力は見せられたということだ
「クーヘン、剣の模擬試合ならばお前は一本取られたことになる、小手調べだったとはいえまさか懐を取られるとはな」
「ううむ・・・ゼロン、今まで武器を持った経験は?戦いの経験は?本で見たりや隠れて練習とかをしていたとかではないのか?」
クーヘンは矢継ぎ早に言葉を畳み掛けてきたが今まで戦いとは無縁の生活をしてきた俺は武器を持ったことなんて一度もない、ましてやモンスターなど村周りで見たこともない
皆驚いた表情をしているが俺自身が一番驚いている
平穏が好きだった自分に戦いの才能があったなんて
「あ、あの~、ゼロンってひょっとしてすごかったりしますか?」
「私も小手調べとはいえ油断をしていたわけじゃない、だが懐に剣を・・・もしかしたら剣の才能があるのかもしれないな、2年どころか1年もしないうちに一人で旅に出ることができるかもしれない」
「そうなったらお前も騎士団長の座を引退してゼロンに任せなければな、フフ」
「うむ、もし本気で私を負かすようなことがあればその時は引退だな、騎士団は任せるぞゼロン」
「い、いや!俺は団長になるつもりはない!勝手に話をすすめないでくれ」
すっかりその気になっているみたいだがやめてほしい、これでガッカリさせる程度の成長ではこれからの
騎士団生活にプレッシャーがかかる
和気あいあいとしている会話の中、ミーンがふと二人に聞いた
「そういえば、モンスターがいるって言っていましたがどのあたりにいるんですか?
私達の村周りにはモンスターなんて一匹も見かけませんでしたが」
「どのあたりといわれても・・・森の中や草原、街中に入り込んでくるモンスターもいるぞ。
この王国の傍にモンスターの住処があるぐらいだ、我がフォーリアス隊は週1のペースで近くのモンスターの住処を破壊しに行く」
「そんな身近に・・・けどそしたらなんで俺達の村周りにはモンスターが一匹もいないんだ?」
「私も詳しくは知らないが、昔はあの辺りにもモンスターはいたらしい、けどある日を境に一匹もいなくなってしまったようだ・・・」
「ある日を境にか・・・少し気になるな」
俺達が見たことがないとすればこの18年間村の近くにモンスターは現れていないということになる、モンスターは人々からすれば身近な存在らしいが俺達には一切縁のない話だった
あの村には何か秘密でもあるのだろうか。
「さて!おしゃべりはこの辺りだ!ゼロンはともかくミーンはまだまだ基礎もわからぬ状態だ!
ゼロンは私と共に実戦経験のための鍛錬を!ミーンはフォーリアスから基礎を教えてもらえ!」
「む?私も教えるのか?聞いていないぞ?」
「効率よくいこうと思ってな・・・今日はまだまだ時間がある!気を引き締めるんだぞ!」
クーヘンは武器を構えこちらを見ている、その表情はどこか大人げなかった




