第1話 運命
「ねえあれって・・・」
「王国のシンボル・・・?あの男王国からきたのか?」
「こんな田舎に王国の兵士が来るなんて、いったいなんだ?」
静かで穏やかな村は一転して不穏な空気が漂い始めてきた、皆不安そうな顔をしている
俺とて例外ではない
心臓の鼓動が早くなる
冷たい汗が流れてくる
鎧の男は俺のほうをじっと見つめて動かない
「あ、あの・・・!お、王国からきた兵士さんですよね!彼に何か・・?」
静寂を破ったのはミーンだった、鎧の男に問いかけた
「いやすまない、別に何か悪さをしようというわけじゃないんだ、見ての通り私は王国の兵士・・・ここではなんだから少し話せる場所がないだろうか?伝えたいことがあるのだが」
鎧の男は真剣な眼差しでこちらを見ている、俺でもわかった、重要なことがあるのだと
「・・・俺の家に・・・母親はいますが、俺の部屋なら・・」
「お母様がいらっしゃるのか・・・いや、お母様にも話を聞いてもらいたい、同席してもらおう」
何を言ってやがる・・同席してもらうだと?明らかに話のスケールが大きくなる予感がした
ちょっとやそっとのことじゃない・・・俺の何かが狂わされる
そう感じてしまうほどの緊張感が俺を襲った
「お嬢さん、キミはおうちに戻りなさい、私達は話があるから」
「よ、よくはわかりませんが私も同席させてください!お願いします!」
「いや・・大切な話なのだ、だから
「大切な話なら猶更です!彼とはその・・・幼馴染だから、話をちゃんと・・・」
ミーンも気づいているようだ、何かが起こるということを、いつもの元気な表情と違い焦っているような・・そしてどこか悲しげな眼をしてこちらをじっと見つめている
「・・・わかった、行こう、家まで案内してくれるかい?」
俺は何も言わず頷き、鎧の男を連れ家に向かった
今の時間、本来ならば母が台所で陽気な鼻歌を歌いながら調理をしているハズだ
だが今はそれとは真逆、静寂が包んでいる
静寂とは静かでとても平和なものだと思っていた・・・・だが今の静寂は平和とは真逆の状況だった
「まずは私の自己紹介を、王国の騎士団長クーヘンだ」
騎士団長・・・?ただの王国の兵士なんかじゃない、騎士団長ともなれば王国の中でも相当偉い奴だろう、そんなのがなんでここに・・
俺の中でさらに緊張が走った、それと同時に母が口を開いた
「あ、あの・・・そんな騎士団長様がなぜここに・・・?」
「今日この日、ここに来ることは決まっていた・・・18年ほど前からな」
「18年・・・?そ、そんな前からなにを・・」
クーへンは下を向き、一呼吸してから俺のほうを向いた
「間違いではないだろう、キミはゼロン・・そうだろう?」
俺達はお互いの名前を知らないハズだ、だがクーヘンは俺の名前を出した
「・・そ、そう・・・ですが、なぜ俺の名前を・・」
「詳しい事情は話すと長くなる、それは明日に改めて話すつもりだ・・・今日私がここにきた理由は君を迎えに来た」
「む、迎え・・?いったい何の・・」
「約束を果たすためにな・・・キミももう18歳だ、一人前の大人になっただろう?
キミにはこれから強くなってもらわなければならない、明日の朝迎えに来る・・・
王国で2年間過ごし強くなってくれ」
クーヘンは視線を逸らすことなくこちらを見てそう言った
俺は何を言われているのかわからなかった、だが確実に分かったのは冗談でも何でもない
本当のことだ、俺に強くなってもらうとはどういうことだ?
聞きたいことが色々あるのに言葉が出せない、緊張をしているのか、それとも急なことで混乱をしているのか俺自身もわからない
母とミーンのほうを見ても俺と同じような表情をしている、二人もまだ事情を詳しく呑み込めていないみたいだ
「・・・私が伝えたかったことは以上だ、キミのことをちゃんとこの目で見ることができてよかった
明日の朝には迎えに来るから今日のうちに準備をしておいてくれ」
クーヘンは立ち上がり家を出ようとした
「ま、待ってください!彼がなんで王国で2年間を・・つ、強くなったらそのあとどうなるんですか!
説明をしてください!まだわからないことだらけです!」
「先ほども伝えたが、話すと長い、明日改めて伝える」
クーヘンはそう答えたが、俺は納得が行かず立ち上がった
「いきなりきて明日には王国で暮らすとか・・わけのわからないことを言われて納得できるとでも!?
ちゃんと説明をしてくれ!何もわからないまま俺は王国に行くつもりはない!」
自分でも驚くほどの声量だった、それはもう怒鳴り声のような声の荒げ方だ
俺がこんな声を出すのは初めてなのか、ミーンも母も驚いた表情でこちらをみている
「身勝手なのは十分承知している、だが私もこれからやるべきことがあり時間がないのだ
明日には必ず話す、だから今は何も聞かないでくれ」
そういい残しクーヘンは家を出た
わけのわからぬまま俺達はただ立ち尽くしていた
「強くなるだとか王国で2年間過ごすとか・・・わけがわからねえ、なんなんだ・・・」
俺がそうつぶやくと、この静寂をかき消すかのように母が大きな声で話し出した
「確かにわからないことだらけだ!けど騎士団長様が直々に来るほどの内容だ!明日からしばらく会えなくなるかもしれないからね!今日はいつも以上に真心を込めてご飯作らないとね!」
母はそう言うと台所に行き調理を始めた、しかしいつもの陽気な鼻歌は聞こえない
元気そうに振舞っているがやはり不安に思っているのだろう、だが何が起きているのかわからないこの状況でも元気なフリをしていられる母を見て俺は少し安心した
「何で王国に行かないといけないんだろうね・・・強くなるってなんなんだろうね」
下をうつ向きながらミーンはぼそりを呟いた
俺はそれに対し何も言うことができなかった
お互い顔も合わせないまま時間が流れ、ふとテーブルのほうを見るとシチューが完成していた
「さっ、お母さん特製だよ!王国の料理にも負けないほどの愛情が込められているからね!
今日はいつも以上にちゃんと味わって食べるんだよ!」
いつもと変わらない味のシチュー、だが野菜だけは少し杜撰な切られ方をしていた




