みんなを幸せにするクロワッサン
今日も今日とて仕事帰り、
どうしてもクロワッサンが食べたくて、
いつものパン屋に寄り道した。
店に入った瞬間、
バターが溶ける甘い香りがふわっと広がって、
それだけで疲れが半分くらい飛んでいく。
「クロワッサン、あと一つだけですよ〜」
店員さんの声に、
反射的に足が速くなる。
ショーケースの奥に、
黄金色に輝くクロワッサンが一つ。
表面はパリッとしていて、
層がきれいに重なっているのが見える。
「これください!」
そう言った瞬間——
店の奥から、
小さな子どもが勢いよく走ってきた。
「クロワッサンー!!」
えっ、まさかのライバル!?
店員さんと目が合う。
子どもと私も目が合う。
一瞬の静寂。
そして——
「どうぞ……!」
私は思わず譲ってしまった。
子どもはぱぁっと顔を輝かせて、
「ありがとう!」と元気に言ってくれた。
その声があまりにまっすぐで、
なんだか胸が温かくなる。
でも、クロワッサン……
あのパリパリ……
あのバターの香り……
食べたかった……。
落ち込んでいると、
店員さんがそっと声をかけてくれた。
「ちょうど今、追加で焼いてるんです。
よかったら、焼きたてをお渡ししますね」
えっ。
待つこと数分。
奥から出てきたクロワッサンは、
表面がパリッと音を立てそうなくらい香ばしくて、じゅわじゅわとバターが音を立てている。
持つと軽くて、
湯気がふわっと立ち上がる。
ひと口かじると——
サクッ。
層がほどけるように崩れて、
バターの香りが一気に広がる。
中はしっとりしていて、
噛むたびにじゅわっと旨みが染み出す。
「……幸せすぎる」
譲ってよかった。
むしろ、譲ったからこそ味わえた“焼きたて”だ。
小さなハプニングが、
ちょっとだけいい日を連れてきてくれる。
そんなことを思いながら、
私はクロワッサンを大事に抱えて帰った。




