野菜を刻む音が、心をほどく。
仕事から帰ってきたとき、
玄関に入った瞬間の空気が少し冷たくて、
その静けさに、ふっと肩の力が抜けた。
今日はもう決めていた。
野菜スープを作ることにする、と。
台所に立つと、
まな板の上に並べた野菜が、
なんだかそれだけで安心させてくれる。
にんじん、玉ねぎ、じゃがいも。
どれも特別じゃないけれど、
“いつもの食材”って、それだけで心が落ち着く。
包丁を入れると、
トントン、と軽い音が響く。
にんじんの硬さが手に伝わって、
コロコロとしたサイコロ状が何処か愛おしい。
玉ねぎは、
切り始めると甘い香りがふわっと広がって、
涙が出るほどじゃないけれど、
目の奥が少しだけ熱くなる。
じゃがいもは、
皮をむくときのザラッとした感触が好きだ。
水にさらすと、
白い断面がきれいに透き通っていく。
鍋にバターを落とすと、
じゅわっと音がして、
溶けたバターが野菜を包み込む。
木べらで混ぜると、
表面がつやっとして、
甘い香りがゆっくり立ち上がる。
そこに水を注いで、
コトコトと煮込む。
沸騰する音が、
まるで「おかえり」と言ってくれているみたいで、
胸の奥がじんわり温かくなる。
味見をすると、
まだ少し硬いじゃがいもが、
ほろっと崩れかけていて、
スープに溶け出した甘さが舌に広がる。
「……うん、もう少し」
弱火にして、
ゆっくり、ゆっくり煮込む。
やがて、
野菜が全部やわらかくなって、
スプーンですくうとほろりと崩れるくらいになった。
ひと口食べると、
じゃがいものほくほく、
にんじんの甘さ、
玉ねぎのとろりとした食感が、
全部ひとつにまとまって、
体の奥まで染みていく。
「はぁ……生き返る」
思わず声が漏れた。
パンの軽やかな甘さも好きだけど、
こういう“じんわり温かい味”は、
心の深いところをそっと撫でてくれる。
今日もいろいろあったけれど、
このスープがあれば大丈夫。
台所の湯気が、
私の一日をゆっくりほどいていく。




