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焼きたての香りに誘われる心麦

仕事を終えて外に出ると、

火曜の夕方の空気は少しだけ冷たくて、

街の明かりがゆっくり灯り始めていた。



「……パン、食べたいな」



ふと浮かんだその気持ちに、

体が自然とパン屋のほうへ向かっていた。


店の前に近づくと、

ガラス越しに見える温かい光と、

焼きたての香りがふわっと漂ってくる。



扉を開けた瞬間、

バターと小麦の甘い匂いが一気に押し寄せて、

今日の疲れがすっと溶けていく。



店内は、

夕方でもまだ焼きたてのパンが並んでいて、

どれも“連れて帰って”と言っているみたいだった。




まず目に入ったのは、

具だくさんのしょっぱい系。


大きめのフォカッチャに、

オリーブとベーコンと玉ねぎが

ぎっしり埋め込まれている。


表面のオリーブオイルが

照明を受けてきらっと光っていた。



「これ絶対おいしいやつ」



トングでつまむと、

ずっしり重くて、

具の多さが手に伝わってくる。




次に、

甘い系の棚へ。


そこにあったのは、

カスタードといちごがたっぷり入ったデニッシュ。



層になった生地がサクッと光っていて、

真ん中のカスタードがとろりと揺れている。

いちごの赤が鮮やかで、

見ているだけで気持ちが明るくなる。



「これも連れて帰ろう」



トレーにのせると、

甘い香りがふわっと広がった。




レジで会計を済ませて、

紙袋を受け取ると、

手のひらにほんのり温かさが伝わる。



帰り道、

紙袋の中から混ざり合った香りが漂ってきて、

歩くスピードが自然とゆっくりになった。



「今日はこれで十分だな」



家に帰って袋を開けるのが楽しみで、

火曜の夜が少しだけ特別に感じられた。

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