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にゃんと令和の厄災譚

作者: 泊波佳壱
掲載日:2026/01/25

 この事件の最初の騒ぎ、それは救急病院からはじまった。


 問題のその日、深夜零時を過ぎて急に、大勢の患者が一斉に搬送されてきた。

 肩や腕、足の骨の骨折や脱臼、みな寝間着姿や寝室から起き出して軽く何か羽織ったという姿で搬送されてきている。みな就寝中の事故か事件と考えられる。


「あ痛たたたた。看護師さん、もっと優しく・・・」


「あの子は悪くない、なんでそうなったかは知らないけど・・・」


「え、お宅も? いったいどうして? うちの仔に、何か変なもの食べさせたかな?」


 院内に飛び交う様々な声、骨折など重症なのでみな痛がっているものの、加害者を非難したり事件性を訴える者はいない様子だ。

 ただ何かにやられたからそうなっているのは間違いない。

 なのにこの時点の多くの患者の傾向として、なんで骨折したのか、誰に? なにに? そのあたりを話したがらない患者ばかり。


 搬送されてくる人たちの住所は全くバラバラで、大きな災害といったエリア被害ではない様子だ。

 いったい何が起こっているのか。


 日本の救急搬送制度は、無償で迅速、高品質と突出して世界に誇れる仕組みで・・・と考えている暇もなく、自家用車やタクシーなども含めて、次々と到着する患者で救急医療設備は完全にパンク状態。




 SNSに「ネコ巨大化」の記事が上がり始める。


 ネット上にほぼ同時多発的に、「我が家のお猫様が突然大きくなった」といった内容のコンテンツがあがりはじめ、我も我もと巨大化した飼い猫自慢みたいな様子を呈しはじめる。


 特にアクセスを伸ばしたのが、飼い猫と遊んでいる動画を撮っていたら、突然にその猫がその場で瞬間的に大きくなっていて、まるでトリック映像? と騒がれている。


 目を離したすきに突然大きくなっていたといった記事も多く、「日がかわった瞬間に」大きくなった様子。




 ネコを飼っていない人の多くは、癒し動画などと言っている余裕を失い、この「ネコ巨大化」関連の突然にあふれかえる動画に驚き、見入っている。


 実際に猫を飼っている家では、それどころではない。


 何処のお猫様も等しく、成猫ならば、みな全長二メートル程度の大きさになって、家の中を所狭しと駆けまわったり、(本人から見れば)小さくなった部屋を、不思議そうに何度も眺めまわして不安そうにしていたり、行動は様々。


 等しく巨大化したのが零時過ぎだったようで、飼い主の寝床で一緒に寝ていた個体の何割かによって飼い主が大けがを負うことになった様子。




 子供のいる家庭では、多くの場合怖がって泣き出したりトイレにこもってしまう例も多くみられる。


 試みにいままでどおり玩具で遊ぼうとした飼い主が、振り上げた猫の前足で打撲、またしまい忘れた爪で大怪我が発生。


 餌を欲しがるいつもの甘噛みでも、足に大けがを負う人も続出、あまえてすり寄ってきただけで、転倒する人も続出。


 街のいたるところで悲鳴やうめき声など、大変な事態になっている。




 未明から、各局のテレビでも緊急事態を報道する特別ニュースが流れ始める。


 どうやら日本国内、全国どこのエリアもこの異常が発生している様子、巨大化していない猫が見つからず、全ての猫が生まれたてでも一メートル程度の様子。




 家が壊れ、壁や床を突き破って猫屋敷からあふれ出る猫たちや、通りを暴走族よりも巨大な一大勢力となって駆け抜ける野良猫の一団がテレビに映し出されたりしている。




 夜が明けるころには、内閣府の危機管理センターが動き、猫巨大化緊急対策本部が設置され、環境省・農林水産省・警察署・防衛省・各地方自治体が連携し広域対応チームも編成された。


 野良猫や家から飛び出した飼い猫が、道路交通や都市機能に与える被害を目の当たりにして、自衛隊の出動が要請されたが、発動指示間際になって、環境省や地方の保健所・動物愛護センターなどから

「動物愛護管理法に『愛護動物』として指定されていて、第四十四条に『虐待・殺傷は犯罪となる』旨から、穏便に大切に保護をする対応を求む」といった要望も入る。


 多くのけが人が出て、日常の活動が困難になっている状況があり、さらには保健所や動物病院など全国すべてをあたっても、巨大化した猫を保護する檻などは見当たらない。


 さらには通常サイズの猫ではなく二メートルの動物に『愛護動物』としての保護が適用できるはずもないとして、猟友会等はすぐにも出動の動きを整えている。




 日が明けても学校も職場も通常の稼働はできず、皆どうしたらいいのかとさらに騒ぎになる。


 猫巨大化緊急対策本部は、感染症の時を踏まえた「緊急事態宣言」を発動するか、「災害対策基本法」を適用するかで悩むことになる。


 「災害対策基本法」では、避難指示はできても、「家から出るな」という命令は基本行われない、ただ「緊急事態宣言」の対象とはならない、つまり国会を開催して新しく法整備をしなければ、新たな的確な指示は不可能。


 ただ、今、全国のほぼすべての国民が危機に瀕している状態に対しすぐさま何らかの手を打たなければならない。


 このように関係者は、会議を繰り返しても話が堂々巡りで新たな対応の手が打てずに時間が過ぎていく。




 各地の行政施設やテレビ局などに、大勢の人が集まり始める。

「急いでなんとか駆除するとか隔離するとか、とにかく助けてくれ」といった呼び声を挙げる多くの人たち。ここでは以降この人たちを「人間優先派」と呼称。


 「愛すべき猫たちを守れ」と呼び声を挙げる幾つかの動物愛護団体や議員連盟など。ここではこの人たちを「ネコ優先派」と呼称。




 人々が多く集まった場所の幾つかでは、この「人間優先派」と「ネコ優先派」が対立し、小競り合いが発生。


 さらに困ったことに、豊島区役所前では、小競り合いの群衆に対して、雑司が谷霊園からあふれ出した野良猫の群れが突入し死傷者が発生している。


 どこかの地方都市では、役所の前に猫の群れが陣取り、「人間優先派」「ネコ優先派」ともに遠巻きに見るしかできない状況。


 台東区では、野良猫の集団により日暮里駅が破壊され、また都内全域で様々なトラブルにより、電車が全面停止となる。


 全国各地のいたるところで、猫によるけが人の発生などの通報が相次ぐが、大阪市西成区や静岡県熱海市では、子供が野良猫に襲われて特に悲惨な痛ましい事故が発生する。


 かと思えば、品川区・大井ふ頭中央海浜公園では、愛護団体から「たくさんの猫が川に落ちておぼれている、大至急救助をよこしてくれ」との通報、広島県尾道市では、猫が坂を転げて怪我をしていると、同様に「ネコ優先派」からの救助要請が多数。


全国各地で未曽有の大混乱となる。




 SNSでは「原因は?」「なぜ急に全猫が巨大化?」と犯人捜しのような騒ぎも起き始め、「原因は私が我が家の猫にまたたびの粉を一リットルも与えたせいだ」と言う人物や、

「自分が野良猫に石を投げたら大きくなった」など 私が原因だという人も何人も現れたが、その多くは勘違いやSNSのアクセス数欲しさの発言と無視された。


 そんな中、ひとりの女性の行動が真の原因らしいと、周りの人たちに守られながら、その女性当の本人が、緊急対策本部につれられてくる。


 その女性いわく

「うちの仔は、身体が弱くてなかなか大きく育たないので、都内某所の〇〇神社にお参りに行って、塚の頂上から境内に向かって、『ネコさん達を大きくして下さい』と心を込めてお祈りしました。」


「なぜ、うちの仔を? ではなく達?」


「うちの仔ばかりの事を願っては不公平かと」


「そしたら、その瞬間に腕の中に抱いていたうちの仔が急に大きくなって、しっかりお礼を言って帰ったんです」


「その時間は?」


「ちょうど夜の十二時頃でした」




 対策本部としては、信じる理由がない、ただ絶対に違うと否定する確かな根拠もない、などと議論が出たが、それならばとにかく「元してもらうように祈ってもらおう」ということになった。


 すぐさま、自衛隊の小隊が緊急出動し、その女性を間違いなく急いで問題の神社に送り届け、改めてお祈りをささげてもらうことになる。




 塚の頂上まで登った女性が神に祈る

「ネコさん達を小さくして下さい」




その瞬間、全国各地の猫たちは、瞬時に全長十センチほどの大きさになった。


 女性のそばに居合わせた隊員や職員たちは、ネット等で猫の変化を知り、安堵の声を挙げようとしたが、それもつかのま

「今度はあまりに小さくなった」「ネコがネズミに追われている」「うちの仔がトイレに流された」などの情報が流れ、皆一応に青ざめた。


「なぜ、元に戻してと言わなかったの?」


「神様も仕事、雑っ」など、皆口々に騒ぎ始める。




「すぐに『元に戻して』とお願いして!」


 と、強く駆け寄る職員の声に、改めて女性は神に祈りをささげたが、二度も願いを聞き届けて疲れたのか、その後はもう、何の変化も訪れることは無かった。





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