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脆い人間どもと自称省エネ系と潜む影(1)

「御伽さん……」


「ごめんってばー!」


 スポーツテストも終わり、下校の時間となった。

 俺はこっそり御伽さんに近づき、屋上に呼び出した。

 理由は勿論彼女がスポーツテストでぶっちぎりの結果を叩きあげた件について。

 俺は頭を思わず抱えていた。


「学年内では君の話で持ち切りだぞ。やれ吉田〇保里の生霊が守護霊にいるだの、二人目の宿〇の器だの……」


「照れるねぇ」


「今の情報に照れる要素は無かったと思うが……」


「……いやー、あはは、うっかりうっかり、人って案外脆弱なの忘れてたよ」


 あはは、とどこか気まずそうに目を背ける。


「魔王みたいな台詞を……まぁいいんだ。次からは気を付けよう、本当に。もし力が有り余るようだったら俺に相談してくれ」


 やってしまったものはしょうがない、ここからどうやっていくかだ。

 とはいえ、暫くは噂になりそうだ。もっと別の何か事件を起こしてそちらに集中させようか……。


「ありがとー、頼りになるねぇ。そういえば、大丈夫だった? あの跳び蹴りした人、すっかり君のインパクトで忘れちゃってたケド」


「あぁ、使い魔で確認したし、今日もピンピンしていた」


「よかったー、負の感情に憑りつかれっぱなしはつらいしきついからね。楽にできて良かったよー」


「そう言う言葉だとあんまり良くない意味に感じるが……」


「それにしてもそんなに皆、魔法使いってあちこち見てるモノなの?」


「いや、そういう訳ではないが念のためだ。現実世界でも大事になるような、もしくは怪しい情報がある場合はそれを嗅ぎつけて魔法使いたちの……そうだな公式の組織の様なものがあってそういったものたちが調査にやってくる」


「ほうほう」


「魔法という概念をもつ魔法使いにとっても君と異世界という概念は未知で革新的で不透明で途轍もない劇物だ。普通、異世界などというものは魔法的にもあり得ないものであるが故に。もし、君が異世界という存在ごとバレてしまってはただでは済まないだろう」


「解剖とか……!?」


 顔が青くなる御伽さん。


「まぁ、それで済めばいいが……一応ここは雨夜家の領地だ、勝手な真似はさせない。できるだけカモフラージュはするが、いずれにせよ目立つような行為はオススメしない、避けてくれ」


「わ、分かった、ほんとに気を付けるよ」


 冷や汗をかきながら御伽さんはコクコクと頷く。


「うん、分かってくれればいいんだ」


「……」


 まったく、日々何も起きない平穏なそんな日常を望む俺に何故、よりによってこんな少女が来てしまったのか。

 ……まぁ例によって起きたことはしょうがないとしよう。やるべきことは変わらない。俺は、雨夜家を継ぐ者としてこの土地とこの土地の住む人々を守る。

 それが俺にとっての使命で誓いだからだ。

 それに、御伽勇奈、彼女も望むべくして巻き込まれた訳ではない被害者なのだから。

 決して美少女だからとかそんな理由ではなくて───


「……あのさ」


「! オホン、どうかしただろうか」


「雨夜くんはさ、どうもしないの? 私を」


 夕焼けが近づいてきた。暮れなずむ空の中、彼女の姿がより一層夕日に照らされ輝いて見える。


「!? そ、それは……」


 いや、と頭を振り思考を正常に保つ。落ち着け、話の流れからして文脈的には……。


「あぁ……魔法使いが異世界からやってきた君を放って置かないなら、何故、魔法使いの俺は君に何もしないのかということについてか」


「ん」


 御伽さんはうなずく。

 成程、確かに、言われてみれば彼女という可能性を魔法使いとしてみすみす放って置くわけにはいかないだろう。しかし───


「そう、だな……。それはきっと俺にとって魔法使いというのはこの街を守る手段の一つだからだと思う」


「手段?」


「あぁ、ここは雨夜家の魔法使いが長く治めてきた土地で、今は俺が責任を持って預かってる。昔、小さい頃、思ったんだ。魔法という力で何かを成せるのなら、この家族や友人がいる街を守るために使いたいと。だから俺は頑張って魔法使いになった。それは今も変わらない、俺にとっては御伽さんも例外じゃないんだよ」


「……そっか、私結構強いけど?」


 御伽さんは軽く力こぶを作るようなポーズを見せる。

 それを見て俺は少し笑いながら答える。


「それでも、俺は魔法使いだから」


「強情だねぇ……でも、うん、守るためか、素敵だね。かっこいいと思うよ、そういうの私」


 はにかむ御伽さん。

 その笑顔がどうも俺には眩しくて直視できなかった。

 だから少し目をそらしながらお礼を言う。


「どうも……」


「あはは、照れてる」


「照れてない」


 少しムキになって言葉を返してしまった。余計に恥ずかしくなってくる。


「強情だなぁ……」


 俺は照れ隠しついでに咳払いをする。そして集中する。

 心を冷静に、感情を落ちかせる。話そうと思っていたことへ話題を繋げるために。


「だから、だ」


「? うん」


「この件は俺に預けてほしい」


「……というと」


「俺がこの街の異変を、影をこの街から消してみせる。御伽さんはここじゃただの学生だ、これから普通に生きればいい。解決するのは魔法使いの役目だ」


 言葉を受け、御伽さんは何を思ったのか、屋上の落ちないように設置されたフェンスの方へ向かい、フェンスに身体を預け、屋上から一望できる街の景色を眺める。


「ただの学生、か。……私ね、元の世界に帰って青春するのがずっと夢だったの」


「……」


「異世界に来る前、元いたこの世界じゃ結構どうでもいいやーって感じで毎日生きてたんだけど、でも、ある日異世界に転移して、元の世界の人生はあそこで終わりで、もうみんなと会えないんだって、あの場所に私はもういなくて、あの私の未来の先がどこにもないんだって思うととっても悲しかった」


 それはきっと一人の少女が直面するには耐えがたい現実。


「それでもってもう一度あの世界に、場所に戻りたいんだって思って、私、勇者としていろいろ沢山頑張ったんだ。そりゃ異世界でも楽しいことも嬉しいこともたくさんあったけど。でも、怖いことも悲しいこともたくさんあって、くじけそうになっても、それでも、帰りたかったから必死で足掻いて。そうやって、魔王を倒して戻ってきた時、私すっごく嬉しくて。一晩中泣いちゃったなー、まぁ、一晩中は流石に盛ったかもだけど」


 けれど、彼女は届きそうもないような遠い星に手を伸ばし、足掻きながらここまで戻ってきた。ならば、もういいだろう。

 彼女はフェンスから身体を離し、こちらに身体を向ける。長い髪が強い風に乗って横になびき、星のように煌めく。


「でも、そっか、……私、もう勇者じゃなくてもいいんだ。普通に生きていいんだね。青春し放題だ」


 そして、これからは俺の役目だ。


「うん、だから───」


「でも、それはそれ。これはこれ! もう、勇者じゃないかもしれないけど、私が蒔いた種だから私が解決します!!! 雨夜くんは手を出さないでいいから!」


 ……。

 円満に終わりそうな、そんなハッピーエンド的な雰囲気がたちまちどこかに消え失せる。


「……いや、うん、気持ちは分かるけれど、もう大丈夫なんだ。影退治は俺に任せてくれ、今までの情報で何となく対策は分かったから心配はいらない」


「ううん、雨夜くんこそ、大丈夫、私がパパッーと解決して見せるから」


 彼女は空中に手をわしゃわしゃと動かした後、グーサインで親指を自分に向ける。


「いやいや、俺こそパパッーと解決して見せるとも、安心して御伽さんは見ててくれ」


 俺も同じくグーサインで返す。

 風が止み、二人の間に静寂が流れる。


「「……」」


 俺は説得を続ける。


「君が言っただろう? もう勇者じゃなくていいんだと、大丈夫、ゆっくり休んで青春を謳歌してくれここからは俺が……」


「いやいや、私がケリをつけるんだってば。任せて任せて。っていうかさ雨夜君、一週間前からずっと魔力の正体を探してたとかって言ってたし。まだ疲れ抜けてないんじゃないんかな? ほら目の下にクマ」


「いや全然、一週間の調査くらいなんてことはないさ、よくある事だよ。トラブルを避けるために徹底的に調査し危険を排除する、それが安全に苦労なく人生の中でいかにエネルギーを使わずに乗り切れるかのコツだからね」


 お互いに譲らず、ピリピリとしていく空気。


「それならなおさら私に任せた方が……」


「いやいや、俺は省エネに生きるがモットーでね。こういうのは慣れてるし自分で確かめることも大事なんだ」


「いや、君、むっちゃ動いてるし事件に首っつこんでるし省エネとは全然違うと思うけど……」


 白熱する話し合いの中で叩き込まれた率直な意見。

 え、いや、そんなことは……。


「そういうのなんだっけ、どっちかっていうと……アニメ好きな友達が言ってたんだよね……やれやれ系? みたいな、ツンデレみたいなやつだって」


「違うが!?」


「まぁとにかく私がやります!」


「強情な……」


「雨夜君だって……」


 まったく譲らない御伽さん、かといってこちらが譲るわけにもいかない。

 むむっとにらみ合いが続く。そんな中。

 ブワッ、

 とどこか近くで噴き出した魔力を俺は感じ取る。

 目の前の御伽さんもそれを感じ取ったらしく、魔力の流れてきた方向を見ている。


「これは……」


「! うん、間違いない。影だよ」


「……分かった、ここは一時休戦だ。協力して対処を……」


「お先に行くね!」


 一足先にダッと駆け出した御伽さん、屋上の扉へ向かっていく。


「あっ、ずるっ、俺も向かう!」


 彼女はどこか向こう見ずで猪突猛進気味にみえて不安だ、急いで追いつかなければ。

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