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魔法使いと飛び蹴りと桜の季節(1)

一応短編のつもりです

 とある世界、轟音と閃光、鮮血と絶叫が続く荒野である長い戦いが終わりを告げようとしていた。

 荒野の上に漂っていた暗雲さえも割ってみせた剣の一撃。


「バカな……この私が……ッ! まさかこんな人間共なぞに……ま……け……」


 そう言いながらその争いの元凶であった人類の宿敵、魔王は消えていく。

 その終わりと共に剣を鞘に仕舞い、「勇者」とそう呼ばれていた少女は呟く。


「……これで、やっと……」


 長き戦いの終わり、人々は歓喜に溢れ、世界に平穏が訪れた。

 そして、少女は───



◇◇◇



 周りの生徒たちの喧騒が耳に入ってくる。

 俺は教室の右斜め後ろの端っこの席から、窓から風に揺られ一つずつ散っていく桜の花びらをボーッと眺めていた。


「よ! 高校でも同クラだな雨夜」


「中川か」


 苗字を呼ばれ振り向く、「雨夜(あまや) (まもる)」それが俺の名前。

 目の前では軽薄そうな態度の男が笑いながら俺の隣の席に座る。


「相変わらず黄昏てんなぁ」


 この男は中川、俺の昔からの知り合い。


「眠いんだよ……これで小中高同じか、いい加減顔見るのも飽きてきた頃だな」


「こっちの台詞だっつーの、あぁそういえば磯野も同クラだぜ」


「へぇ」


 そいつは俺たち二人と小学校からの知り合い、中学校は別だったが高校でも再び顔を合わせることになりそうだ。

 そんなことを話していると、教室に入ってくる男が一人……噂をすれば。


「あ、磯野」


「お、磯野」


「おーお前ら寂しかったぜー」


 ケラケラと笑いながら件の男、磯野は前の席に鞄を置くと俺たちの席の間に座り込んで話してくる。

 そうして三人で話してる間に教室にもドンドン人が入ってくる。


「ふわぁ」


 また、欠伸(あくび)をする。


「寝不足かぁ? 何やってたんだ」


 磯野が聞いてきた。


「……あー何となく映画見てたら最後まで」


「入学式の前日にかよ」


「千が本当の名前を打ち明けるシーンで号泣しちゃってな」


「ジ〇リかよ」「あんま見たことないなそこで号泣してる奴」


 本当は勿論違う。寝不足の理由は別にある。

 それは俺の家族の家系が代々携わってきた職業に起因する。

 俺は実は魔法使いなのだ。

 魔法はこの世界に存在し、それを扱う魔法使いたちは裏でひっそりと生きている。

 日本有数の霊地であるここ、糸波市の土地を代々守護してきた魔法使いの家系に属する俺。

 普段は学生をしつつ海外をあちこちうろうろしている両親や姉妹に代わりこの土地を守護しながら日々魔法の探求に勤しんでるのだが……。

 一週間前、事件が起きた。

 原因不明の強大な魔力の反応がこの土地の上空で確認された。

 その正体を確かめるべく日夜奔走したが、その手掛かり一つも掴めずに今に至る。

 俺は人生とはいかに安全に事なかれで無駄な労力を使わずに生きるか、即ち省エネで生きるかにあると思う。

 ならば、それを乱す原因になるような輩は早めに対処しておくべきだし、それへの努力は惜しむべきではないのだが。


「はぁ……」


「お疲れだなぁ」


「どんだけ泣いたんだニギハヤミ〇ハクヌシで……お?」


 教室の手前の方で何かがあったようだ。

 学校初日だというのに既に制服を軽く崩したいかにもな、古っぽい言葉で言えばイケイケという言葉が似合う女子のグループが教室の手前のドアの方に注目している。


「久しぶりー!」


 そこには快活という言葉がこれでもかという程似合いそうな明るい雰囲気を纏った明るい髪色の長髪の美少女と言っても差し付かえないようなそんな女子がいた。

 彼女を女子のグループは「久しぶりー!「会えてよかったぁー」と感動の再開を果たしたかの様に感嘆と共に迎えている。


「賑やかだな」


「なんかあったんかね」


 俺の言葉に中川が続く。ふと磯野を見ると目じりを押さえ、涙をこらえながら喜びに打ち震えていた。


「何、キモ」


「怖……」


 引く俺たち。


「くっ……勇奈(ゆな)さん……またあの笑顔が見れるとは……」


「……何? どうしたわけ?」


 引き気味に中川が磯野に尋ねる。


「あぁ……お前らはグスッ知らないか、彼女は『御伽(おとぎ) 勇奈(ゆな)』。俺と同じ西中の子だったんだけどさぁ……卒業した後すぐ、春休みのある日、あの子交通事故に遭ったんだよ」


「……」


「それで大きな怪我とかは無かったそうなんだけど、何故か原因不明で意識が戻らなくて医者もお手上げだったらしいんだが……でも最近奇跡か目覚めたらしくて……うぅ本当に良かった……」


 磯野は口を手で覆いながら咽び泣いている。

 俺は気になったことを磯野に聞く。


「というかなんでそこまで知ってんだ、仲が良かったのか?」


「全然……話したこともなかった……クラスLI〇Eとかと……皆でご両親に連絡とってお見舞いに行ったときにご両親が教えてくれた……」


「まぁセーフか、にしても大変だったんだなぁ」


 中川が手前の光景を眺めている。


「にしてもあんな元気そうに動けんだな」


「確かに」


 御伽というらしい彼女は背の低い女子と一緒に抱き着き合いながらくるくる回ってる。


「おぅ……大きな怪我は無かったらしいし目覚めたのも一週間前だからな……念のため療養してたらしいし大丈夫なんだろ……ほんとによかった……」


「一週間前……」


 それは魔力の大きな反応があった日の……。


「どうした? 雨夜」


「いや、何でもない」


 流石に考え過ぎだろう。結びつけるものがない。

 考えを改め何となく俺は周りを見渡す、すると。


「あ、吉野」


「お、吉野じゃん」


 後方の二つ飛ばしの席、俺と中川の同じ中学校の出身でよくつるんでいた吉野が席に座っていた。


「……ん? あぁ、お前らか……また一緒だな……」


 だが様子が少しおかしい、目の下にクマができ何かをぶつぶつと呟いている。


「……誰? 同中?」


 まだ微妙に泣いている磯野の疑問に中川が答える。


「おう、よくつるんでたんだよ……百人切られの吉野つってその名の通り中学時代に百人の女子に告白してフラれた伝説があってな……あんな奴じゃなかったんだけど」


「……ほーん、ぐすっ」


 そう、本当はもっとウザイくらいに明るいやつなのだ。

 けれど、今はどうやら様子が変だ。


「また、フラれたのかー?」


「あぁ、まぁ……」


 中川の呼びかけにもどうもイマイチの反応。


「変な奴……」


 俺は吉野を観察する。魔法で操られてる感じではなさそうだが一応、様子は見ておこう。


「おーい、お前らーもう始業式始まるぞー体育館集合なー、制服はちゃんと着てースマホは切っとけよー」


 吉野を不審に俺たちが思っていると廊下から教師らしき女性が俺たちに体育館に促してきた。

 その声を合図にクラスの生徒たちは腰を上げ動き始めた。

 教室から生徒たちが続々と出ていく。

 俺は重い腰を上げる。


「俺たちも行くか」


「だな」


「おう……」


 そして、教室を出る前に未だにブツブツと言っている吉野にも一応呼びかけておく。


「おい、吉野、始業式。体育館だってよ」


「あ、あぁ……」


 吉野はフラフラと立ち上がり教室から出ていく。

 大丈夫なんだろうかアイツ。

 そう考えているとふと視線を感じた。

 教室の手前のドアの、先程の女子のグループの方。

 件の御伽と呼ばれた彼女が一瞬こちらを見ていた気がした。

 気のせいだろうか、御伽さんはそのまま女子グループは教室から出ていく。


「何、ボッーとしてんだよ行こうぜ雨夜」


「あ、おう」


「ふぐっ……駄目だ涙が……」


 俺は中川と未だに泣いている磯野と共にもう誰もいない教室を後にした。

不定期で更新です。

感想とかいろいろ待ってます。

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