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第8章:「それぞれの場所、それぞれの歩み」

あの旅館での2泊3日――

昼も夜も、まるでリズムが狂ったように、ふたりは何度も何度もオムツを濡らした。朝、布団のシーツにはお互いの“失敗”がにじんでいて、笑おうとしてもほんの少し目に涙が浮かぶ日もあった。


それでも、ふたりは確かにあの日、もう一度立ち上がる覚悟を決めたのだった。

1. 変わらない現実、変わった日常

それから2週間後。

桜が咲きはじめる春の朝、ふたりの新しい生活が始まった。


真希は大学3年生。

弥生は新社会人として、満員電車に揺られてスーツで通勤を始めた。


――でも、真希は変わらなかった。

昼夜ともにオムツが手放せず、毎日どこかのタイミングで確実に濡れている。大学の講義中、集中しているつもりでも、気づけばオムツの中は温かく濡れている。夜も変わらず、朝にはシーツを確認して、洗濯するのが習慣になっていた。


「やっぱり私は、まだ“そのまま”なんだな」

「でも…諦めるってことじゃない。ただ、ちゃんと受け止めるだけ」


2. 離れた日々と弥生の葛藤

一方、弥生は新たな職場に必死だった。

慣れない言葉づかい、ミスの許されない緊張感、先輩たちとの距離感――そのすべてが、心も身体も張り詰めさせていた。


夜は帰宅後、どっと疲れてそのまま眠り込む日も多い。朝目覚めると、下着ではなくオムツがずっしりと濡れている。

昼も、気が張っているつもりなのに、ふとした瞬間に出てしまう。新人研修中の午後、トイレに行けなかったあと、オムツの中が広く濡れていたときは、さすがに落ち込んだ。


「こんなに頑張ってるのに、どうして止まってくれないの」

「社会人になっても、私は変われないのかな…」


でも、そのたびに思い出すのは、真希の顔だった。


3. 繋がる言葉

ある夜、弥生は仕事から帰った後、何気なく真希にメッセージを送った。


弥生:「今日の午後、また濡らしちゃった。職場のイスだったらって思うと、ちょっと震えた」

真希:「わかるよ。私も、今日ゼミ中に気づいたらびっしょりで…立ち上がるの怖かった」

弥生:「ふたりとも、まだまだだね」

真希:「ううん。だからこそ、これからだよ」


それだけのやりとりが、胸をあたためる。


離れても、同じ苦しさを知ってくれている人がいる。

“変われてない”ことも、ちゃんと知ってくれている。


そして、それでも「前を向こう」と言ってくれる。


4. 絆という灯

土曜の午後、真希は大学のベンチでスマホを見ながら、小さく笑った。


「弥生先輩、今日も頑張ってるんだろうな」

「私も、ちゃんと歩かなくちゃ」


そして弥生は、混雑した職場の給湯室で水を飲みながら、心の中で呟く。


「真希も、今頃ちゃんと頑張ってるんだよね」

「じゃあ私も、まだ終わらせない。負けない」


オムツの中が濡れていても、失敗の記憶が残っていても。

それを言葉にできる相手がいる限り、人は前に進める。


ふたりの絆は、距離や状況に負けない。

変わらない“失敗”があっても、変わらない“信頼”がそこにある。


そして春の光の中――

真希と弥生は、それぞれの場所で、また一歩踏み出した。


「今日も濡れてしまった」ではなく、

「それでも歩いている」と胸を張れる、そんな明日へ。

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