第7章:「シーツの地図、笑顔の明日へ」
3月。
長く厳しかった冬がようやく緩み、早春の光が差し込む頃。
真希と弥生の、ふたりだけの最後のキャンパスライフも、終わりの足音が近づいていた。
1. 小さな自信
年明けから昼間にもオムツを使うようになって、ふたりの日常は少しだけ落ち着いた。トイレのタイミングを逃しても慌てずにいられる安心感。何より、以前よりも“自分を責めない”で済むようになったのは、大きな進歩だった。
「今日、昼間は濡れてなかった」
「私も。…けど、夜はやっぱりダメだった」
「うん、でも……焦らなくていいよね」
そんな会話が、自然に交わせるようになった。
ただ、まだ昼も夜も完全には手放せない。
ふと気づけば、オムツはしっかり濡れている日もあった。時には「ここまで出てたのか…」と驚くほど、たっぷりの夜も。
それでもふたりは、確かに進んでいた。
2. 卒業前のふたり旅
「卒業前に、どこか行こうよ」
「……いいね。最後の思い出、ふたりで作りたい」
そうして、選んだのは静かな温泉街。どこか懐かしくて、落ち着ける場所。
旅行カバンの中には、替えのオムツとパッド、そして大きめのパジャマ。宿に着いたふたりは、どこか照れながらも笑い合った。
「ここでもやっちゃいそうだね」
「うん。でも、もう怖くない。…隠さなくていいもん」
夜――。
旅館の布団に入り、おしゃべりしながら眠りに落ちたふたり。
そして翌朝。
「あ……」
「わ、私も……」
布団に広がる濃い地図の跡。
それは、世界地図のように複雑で広く、でもどこか優しい模様にも思えた。
「世界地図だね、これは」
「うん、ふたりの旅の記録」
笑って言い合えることが、どんな治療よりも心を軽くしてくれた。
3. 絆と再出発
シーツを片付けながら、ふたりは並んでパッドを替えた。
まだ完治していない。でも、ふたりは“受け入れる力”を身につけていた。
「きっとこれからも、失敗はあると思う」
「うん。でも、私たち、ちゃんとまた立ち上がれるよね」
「だって、隣に誰かがいてくれるから」
卒業式が近づく頃、弥生は新生活の準備で忙しくなっていた。真希もまた、次の目標――自分のやりたいこと、進む道――に向かって歩きはじめていた。
4. 未来へ
最後のキャンパスの日。ふたりは並んで歩きながら、春の風を感じていた。
「また一緒に旅行しようね。次は、もう少し乾いた旅になるかも」
「うん。もしまた濡れても、気にせず笑っていたい」
まだオムツは必要。
でも、心は少しずつ自由になっていた。
それは、ただの「完治」ではない――
どんな自分も、大切にできる強さを手に入れた証。
ふたりはもう、一人じゃない。
笑って過ごせる未来へ――
真希と弥生は、肩を並べてまた、歩き出した。