第6章:「最後の春、私たちの選択」
1. 弥生、勝ち取った未来とその代償
弥生は、長く続いた就職活動の末、第一志望だった大手旅行会社からの内定を手にした。面接官の前で堂々と語った自分、何度も準備したプレゼン、手が震えるほど不安だった最終面接――それらすべてを乗り越えたことに、胸を張っていいはずだった。
でも、笑顔の裏で、身体は正直だった。
「内定出た翌日、朝から3回も下着を替えることになってさ……笑えないよね」
そうこぼした弥生の声には、喜びと同じくらいの疲労と悔しさが滲んでいた。プレッシャーが抜けたはずなのに、昼間の事故はむしろ増え、時には量も多く、制服の下まで染み出しそうになることもあった。
2. 真希の心の揺れ
一方、真希もあの秋の事故を境に、どこか心に棘を抱えたままだった。
「起きてるのに、どうして気づけなかったのか」
「今は大丈夫って思えない自分が情けない」
講義中に下腹部にじわりとした感覚を感じて、トイレに立ったときにはすでに手遅れ。気づけば、濡れる量が少しずつ増えている日が多くなっていた。下着だけでなく、タイツやスカートにも染みる“寸前”で止まった日が何度もあった。
3. 最後の3ヶ月、決意
年が明け、カレンダーは1月を迎えた。春になれば弥生は社会人、真希も3年生に進級し、別々の時間を生きるようになる。
「あと3ヶ月だね。真希と同じキャンパスにいられるの」
「うん……最後くらい、もう一度ちゃんと立て直したいよね」
言葉にせずとも、互いの中にあった同じ思い。
「今のままじゃ、また“あの事故”が起きる」
「安心して、普通に過ごせる昼間を取り戻したい」
そうしてふたりは静かに決めた。
――昼間にも、オムツを使おう。
それは敗北の選択ではなかった。
不安に支配されないための、一歩だった。
4. 自分の心を守るために
翌日、ふたりは一緒にドラッグストアへ足を運び、吸収量の高い薄型の大人用パッドとパンツ型オムツをいくつか手に取った。服の下に自然に履けるもの。少しの安心が、体のこわばりを解きほぐしてくれる。
「これでいいんだと思う」
「うん、だって私たち、自分をちゃんと守ろうとしてる」
初めて昼間に履いたときのことを、真希は日記にこう書いた。
『最初はドキドキしてた。でも、午後の講義で1回トイレを逃しても、慌てずにすんだ。
オムツが“事故”を、ただの“失敗”に変えてくれた。
そしてその小さな失敗は、ちゃんと自分で処理できた。
私は、ちゃんと今を生きてる。』
5. 春に向かって
昼間のオムツは、完璧を求める道具ではなく、「また前を向く」ための杖のようなものだった。
春が近づくにつれて、二人の心も少しずつほぐれていく。安心を得たことによって、トイレへの間隔が自然になり、ふと気づけば“オムツが濡れていない日”も出てきた。
「真希、今日、乾いてた」
「私も……ちょっとだけだけど、自信戻ってきたかも」
最後のキャンパスの春。
ふたりは“自分の弱さ”を抱えたまま、“自分の足で”立っていた。