第3章:「手放せないけれど、見えた小さな光」
春の陽気がやわらかく降り注ぐ新学期――。キャンパスライフにも慣れ、友人たちとの会話やゼミ活動に笑顔を見せる真希。しかし、夜になるとまだあのオムツが手放せない現実が彼女を待っていた。
1. 夜ごとのルーティン
ベッドに入る前、真希はいつもの手順を丁寧にこなす。
トイレでしっかり排尿
寝る前ストレッチ&深呼吸
オムツを装着
枕元にアラームと記録ノートをセット
「面倒だけど、このルーティンが私を守ってくれるんだ」と、自分に言い聞かせながら。オムツの装着感はまだ慣れないものの、不安で眠れない夜が減っているのは確かだった。
2. 少しずつの進歩
ある日の朝――。ベッドから起き上がり、オムツを外すと、わずかに湿り気が少ないことに気づく。かつては毎回しっかり濡れていたのに、最近は「完全に乾かずとも、半分ほどの濡れ具合」で済む日が増えてきた。
記録ノートより
5月5日:完全に濡れていた
5月12日:半分程度の湿り
5月18日:半分以下になった
自分の記録を見返すと、数字は小さくとも確かな前進を示していた。
3. 友人との共有
そんなある日、弥生先輩と久しぶりにオンラインで話す機会があった。先輩も同じく「オムツ手放し宣言」はまだ先だが、二人で進捗を報告し合うのが習慣になっている。
「真希ちゃん、聞いた? 私もこの前、朝まで完全に乾いてた日があったの!」
「すごい! 私はまだ完全にはないけど、湿りが少なくなってきたよ」
互いの“最小単位の勝利”を喜びあい、励まし合えることが、何よりの支えとなっている。
4. 小さな自信の芽生え
進歩を感じた夜――真希はオムツの上からそっと手を触れ、心の中でつぶやいた。
「私、確実に変わってる。次は完全に乾く朝へ向けて、もう一歩だけ頑張ろう」
ベッドの脇に置いたノートに新たな目標を書き込み、心がほのかに温かくなるのを感じながら目を閉じた。
5. 明日に続く灯り
夜尿症の克服にはまだ時間がかかる。完治への道のりは平坦ではないけれど、真希には確かな“小さな進歩”と、“支え合う仲間”がいる。
窓の外には、初夏の虫の声が聞こえ始めた。夜の静寂の中で、真希は願う――
――いつか、オムツに頼らず、すっきりとした朝を迎えられますように。
新しい夜に向けて、希望の灯りを胸に、彼女はもう一度深呼吸をした。