第14章:決意の春、つながる未来
春の陽射しが柔らかく街を包み始めたころ、佳奈は、ある変化に気づいていた。
夜、オムツをつけて寝ることに、もう不安や恥ずかしさを感じなくなっていたのだ。
「これがあれば安心して眠れる。それってすごく大事なことだよね」
時々、布団が汚れていない朝があると心から嬉しかったが、たとえ汚れていた日も、もう昔のように涙は流れなかった。お尻が赤くなる日も時折あったけれど、それでも彼女の表情は明るかった。
真希と出会い、「自分で選ぶ強さ」を知った。それは、佳奈にとってかけがえのない変化だった。
真希は、大学生活の集大成ともいえる就職活動を終え、ついに第一志望だった旅行会社から内定をもらった。
配属先は、なんと弥生と同じ「旅行企画部」。
「真希が来るの?それ、本当に!?」
弥生はスマートフォン越しに、驚きと喜びを隠しきれなかった。
真希は笑ってうなずいた。
「来年から、よろしくお願いします、先輩」
就活の間、真希はオムツ卒業という目標をいったん置き、目の前の課題に全力で向き合った。
昼も夜も汚す日は変わらなかった。でも、そんな自分を責めることはなかった。
「今の私ができる精一杯をやろう」――それが、彼女の支えになっていた。
弥生は相変わらずの多忙ぶりだった。連日の仕事、休日出勤、出張先での深夜帰宅。
身体は疲れ切り、気を抜けば夜はすぐに濡れてしまう。時に昼も失敗してしまい、そんな日は鏡の前で自分にがっかりすることもあった。
だけど、真希の内定の知らせは、心の中に灯をともした。
「また、一緒に過ごせるんだね」
それは、弥生にとって未来への希望だった。
どれだけ汚してしまっても、どんなに落ち込んでも、支えてくれる誰かがいてくれる。それだけで、また頑張ろうと思えた。
3人の時間は、進み続けていた。
オムツを卒業する日はまだ遠いかもしれない。
でも、心には確かな“安心”と“つながり”が根を張っていた。
そしてまた、新しい春がやってくる。
未来を信じて、3人はそれぞれの一歩を踏み出していく。