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第10章:「安心を着るということ」

春の陽気がやわらかく包み込むキャンパス。

あの合宿以来、真希と佳奈は自然と寄り添うように過ごすようになっていた。


かつての真希にとっての弥生のように、

今は真希が佳奈の支えになっていた。

1. 「3日続けて…」 佳奈の涙

ある放課後。

いつものベンチで並んで座っていた佳奈が、急に視線を落としながら言った。


「…私、家がちょっと厳しくて…」


声は小さく震えていた。


「3日続けて…おねしょすると、決まってお尻…叩かれるんです。子どものころからずっと。今でも、20歳になっても、変わらなくて…」


佳奈の頬に、ぽろりと涙が落ちた。


「こんなこと、人に言うの恥ずかしくて…情けなくて……」


真希は、驚きと怒りを抑えながらも、そっと佳奈の手を握った。


「それは…つらかったね。でも、それは佳奈が悪いわけじゃない。身体のことなのに、罰を与えられるのは間違ってる。」


そして、少しだけ口元に笑みを浮かべた。


「ねえ、覚えてる? 私が言った、“オムツ”のこと」


佳奈が、目をこすりながらうなずく。


「弥生先輩がね、言ってくれたの。

“オムツは恥ずかしいものじゃない。不安から自分を守るためのもの。安心を身につけることは、前を向くための準備なんだよ”って」


真希は、佳奈の涙をそっとぬぐいながら言った。


「オムツをするって、“失敗の証”じゃない。“自信を取り戻す手段”なの。だから、自分を責めないで。大丈夫、私は全部、わかってるから」


2. 夜のメッセージ

それからというもの、佳奈は毎朝、真希にメッセージを送るようになった。


「また濡れてた…」

「お仕置き、された日…つらかった。でも、真希先輩に話すと少し楽になる」

「今日はギリギリセーフ!笑」


真希も毎朝、温かい返信を返した。


「えらいよ、ちゃんと起きてるだけで十分」

「頑張ってること、私が一番知ってる」

「次はふたりで“セーフの日”作ろうね」


孤独じゃない。

それだけで、佳奈の表情は少しずつ変わっていった。


3. 弥生の“あの日”

その頃――。

弥生は新しい部署で、責任もストレスもさらに増していた。


帰宅後も余裕がなく、オムツの交換も忘れたまま寝落ちしてしまう日もある。


そしてある朝。

目覚めた瞬間、背中にまで伝う“ぬるさ”に愕然とした。


「……うそ……なんで……」


毛布をめくると、布団には大きな夜の地図がくっきりと広がっていた。


それは、真希と一緒に旅行をした時以来の“事故”だった。


「…あぁ……もう……なんで……!」


どこにもぶつけられない悔しさ、情けなさ、悲しさ――。

弥生は、声を殺すこともできず、布団の中で泣き崩れた。


4. 訪問

その夜、真希の部屋のチャイムが鳴った。


「弥生先輩…?」


玄関には、目を真っ赤にした弥生が立っていた。スーツのまま、かばんを握りしめて。


「……来ちゃった」


真希は何も言わず、ただ抱きしめた。

濡れていないはずのシャツの肩が、少しずつ涙で湿っていった。


「大丈夫だよ」

「どんな弥生先輩でも、私にとっては“誇り”だから」


弥生、真希、そして佳奈――

3人の心は、違う場所で、違う痛みを抱えながらも、同じ悩みで結びついていた。


そしてそれは、“失敗を責めない関係”という、かけがえのない絆へと変わっていく。


安心を身につけることは、強さの始まり。


その想いが、今、次の光を照らし始めていた――

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