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プロローグ「秘密を分かち合う夜」

桜ヶ丘高校を卒業して半月。真希は念願の都内の大学に進学し、新生活に胸を躍らせていた。キャンパスは広く、教室の窓から見える緑がまぶしい。友達もできて、サークルにも顔を出し、大学生活は順調――のはずだった。


1. 夜ごとの不安

けれども、夜になると高校時代と変わらぬ不安が真希を襲う。ワンルームの下宿で、一人でベッドに横たわるたび、心臓が早鐘を打つ。電気を消し、アラームをセットし、覚悟を決めてまぶたを閉じる。真希はまだ、夜尿症の悩みから逃れられずにいた。


ある朝、いつものように乾きを確かめたあと、シーツをはずして洗濯機を回す。隣の部屋の音が気になりつつも、そっと扉を閉めるしかない。一人暮らしの自由と引き換えに、支えてくれる誰かがすぐ隣にはいない寂しさを痛感していた。


2. 新しい出会い

そんなある日、講義のあと図書館でノートをまとめていると、近くの席に上級生らしき女性が座った。長い黒髪を後ろで束ね、手元の教科書に熱心にペンを走らせている。


「こんにちは。レポート、意外と大変ですよね」

ふと声をかけられ、真希は驚いて顔を上げた。ゆるやかな笑顔の先輩は、この春から文学部でゼミリーダーを務める弥生さんだった。


「はい…まだ大学のペースに慣れなくて」

「わかります。でも、一緒にやれば早いですよ。私たちのゼミ、よかったら顔出してみませんか?」


弥生先輩は親切に資料を差し出し、真希をサークル勧誘に誘ってくれた。その明るい雰囲気に引かれ、真希は遠慮なく「お願いします」と頷いた。


3. 夜の告白

ゼミが始まってから数週間。毎週のように弥生先輩にレポートを添削してもらい、真希は大学生活への自信を深めていった。けれども、夜尿症のことは誰にも話せずにいた。


ある晩、いつものようにアラームで目を覚ました真希は、洗面所で顔を洗いながらため息をついた。


――私、いつまでこんなことで苦しまなきゃいけないんだろう。


翌日のゼミ後、弥生先輩が真希を呼び止めた。


「真希さん、ちょっと相談があるの」

心配そうな先輩の表情に、真希は胸が高鳴った。


「実は…私も、小さい頃から夜尿症で悩んでいて。大学進学したあとも、たまにシーツを濡らしてしまって…誰にも言えなくて辛かったんです」


真希は言葉を失い、ただ弥生先輩の顔を見る。先輩の目には、共に悩んだ経験者としての優しさがあふれていた。


「ごめんね、急にこんな話をして。でも、真希さんが夜遅くまで図書館でレポートをしているのを見て、無理してないかなって思って…。私たち、似た経験があるから、もしよかったら支え合えたらと思って」


4. 分かち合う静かな夜

その夜、真希は下宿の居間で弥生先輩と電話をしていた。二人で治療の進め方や、静かな夜にできるリラックス法を話し合う。


寝る前の軽いストレッチ


カフェインと水分摂取のタイミング


深夜に目覚めたときの呼吸法


「一人でがんばりすぎないで。私は真希さんのこと、いつでも話を聞くからね」

「ありがとう、弥生さん…私も、先輩の話を聞けてすごく楽になったよ」


電話を切ったあと、真希はそっと笑った。夜の不安はまだ完全に消えたわけではないけれど、同じ悩みを分かち合える “味方” ができたことで、胸の奥の重荷がずいぶん軽くなった気がした。


5. 明日への一歩

翌朝。真希は洗濯機の中で静かに回るシーツを見つめながら、ふと独り言をつぶやいた。


「明日はきっと…もっといい日になる」


大学という新しいステージで、真希はこれからも夜尿症という自分の一部と向き合いながら、支え合う仲間とともに歩んでいく――そんな未来を心に描いて、今日もまたベッドに入るのだった。

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