我々は魔女である
我々がいる世界は断層の一つである。
無数にある巨大な可能性の重なり合いによって生まれた奇跡。その一端で存在しているに過ぎない。
見えぬだけで、上へと向かうだけで別の世界が顔を出す。
破滅を齎す龍もいるだろう。
未来を眺める大鷲もいるだろう。
病を伝染させる呪蛇もいるだろう。
聖なる白き光を纏う牡鹿もいるだろう。
認識できないだけで、数えきれないほどの未知がある。
我々は魔女である。
世界の扉を司る者達である。いわば管理人である。
迷子者を正しく導き、あるべき場所へと戻すことが執務である。
害を及ぼす個人、および集団を罰することが執務である。
別世界への渡航、あるいわ永住の手助けをすることが執務である。
もう一度だけ言う。我々は魔女である。
姿形は様々である。画一的な姿ではない。皆が思い思いの格好をしている。
性格は穏やかで、残忍で、慈愛に溢れ、躊躇しない。
均衡を守るために神にも悪魔にもなれる。それが魔女である。
今宵も来訪者が魔女の元へと現れる。
胸の内に願いを秘めたゴブリンか。
果てなき欲望の末に邪神へと変貌した神官か。
罰を恐れて逃亡する罪人か。
座して待とう。仮に厄災が訪れようと、我々は逃げない。
背筋を伸ばそう。身の丈ほどの大口を前にしても我々は怯まない。
言葉を聞こう。耳奥を震わせる咆哮に吹き飛ばされても、我々は臆さない。
されど世界と魔女に牙を向く者は許さない。
世界を壊すことは禁忌である。
魔女を殺すことは禁忌である。
紅の流星を飲み込むことは禁忌である。
大地の至宝を破壊することは禁忌である。
空の天秤を傾けるのは禁忌である。
数多の禁忌を我々は許さない。
考えることすら許さない。行動することは尚、許さない。
禁忌を犯した者の元へは、我々が出向くであろう。
罪人に罰を与えるために。
姿形は様々である。
ある者は鳳に、ある者は巨人に、ある者は狼に、ある者はその者の近くに。
魔女はすぐ傍にいる――我々は魔女である。