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三、ラダと契約結婚?

 ラダの護衛兵が、市民をなだめてライラに向き直る。


「ラダ皇子さまの秘密の件で、城に来ていただきます」

「わ、わた……誰にも言わないし……」

「丁重にもてなすよう、言われてますので」


 しかしてライラは、この国をおさめる王の住む、大きな城へと連れられた。

 

 城の一角、庭の方に、先程のドラゴン姿のラダが見えて、ライラは思わずそこに走りよった。しかし、そのドラゴンがラダだという確証はない。ないはずなのに、ライラには彼がラダだとわかる。


「ら、ラダくん、大丈夫? 私のせいでこんな姿に……どうやったら戻るの? ああ、神様……私はどうなっても構いません。ラダくんを元の姿に戻してください」


 城に来るまで考えたが、どう考えても原因はライラで、もしかするとライラがラダになんらかの病気を移してしまったのではと思い至った。ラダの青い目がライラの方をギョロリと見た。皮膚は硬く、息をするだけで地面が揺れた。


『これは、時間が来れば治る』

「ラダくん? しゃべれるの?」

『わかるのか? ドラゴンの言葉が』

「え。待って、ラダくん?」


 そ、とラダの肌に触れる。ドラゴンの硬い皮膚は冷たかった。ライラが触った瞬間、風の悪戯で砂埃が舞い上がった。そのまま、ライラの体が前のめりに傾く。ラダの皮膚にライラの唇が触れて、慌てて離れた。それと同時、またぼふ、と音がして、ラダの体積が減って人間の形を成す。


「ラダくん!」

「や、来るな!」


 人の形を成したラダが、そこに佇んでいた。ライラはラダに抱きつこうとしたが、ラダに距離を取られた。喜びのあまり気づかなかったが、ラダは服をまとっていなかった。慌てて背中を向けると、護衛兵がラダの服を持って走っていった。


「もう大丈夫だ」


 護衛兵はラダがドラゴンになることを知っている、となれば、やはりこれは、ライラがラダのなんらかのトリガーを引いてしまった、ということだろうか。振り向くと、会った時と変わらぬ姿のラダがいた。今度こそラダを抱きしめようも、ラダはライラと距離をとった。


「ごめんなさい……触れたらまた、ドラゴンになりますよね」

「……オマエはなにか勘違いしているようだが……まあ、確かにオマエのせいではある」


 ラダがライラに近づいて、ライラが動けないように両手を縛るように掴んでくる。このままライラは不敬罪で捕まるのだろうか。ラダは皇子で、ドラゴンで初恋の人だ。

 ラダの手が、震えていた。


「王家の人間は代々、あるトリガーによりドラゴンになる呪いを持って生まれてくる。俺の場合は頭に触れられることが条件だ」

「の、呪い?」

「そうだ。だから俺は、友も作れず、人に気を許すことなく、呪いのことをひた隠しに生きてきた」


 ラダはそれを呪いと言うが、この国の寓話によれば、白きドラゴンには国を救う伝説が残されていた。白きドラゴンがある限り、国は安泰だという、そんな話。寓話なんてただの言い伝えに過ぎず、ラダは呪いのせいでひとりぼっちで生きてきた。


「ラダくん、私」

「それで、だ。オマエには、ふたつの選択肢がある」


 ラダが護衛兵から小瓶を受け取る。きらりと紫色の液体が揺れている。ラダはそれをかざしながら、


「ひとつは、この薬を飲み、すべてを忘れること」

「すべて、って、どこまで忘れるのですか?」

「少なくとも、今日一日のことは、忘れるだろうな」

「そんな……」


 つまり、ラダと再会したところから忘れてしまうことになる。ライラが首を横にふると、ラダはふっと息を吐きながら、


「仕方ない。秘密を共有する手段はひとつ」


 ごくり、唾を飲み込んだ。ライラの選択は決して間違っていない。秘密だって守り通す覚悟はある。

 秋の風がライラたちの間を吹き抜けた。城の中にある大きな庭は、王族達がドラゴンになった際の避難所なのだろう。


「俺の妻となれ」

「……つま、妻?」

「ああ。オマエが秘密を他言せぬよう、俺の目の届く範囲にいてもらう。むろん、そこに愛などない」


 呆気にとられ、ライラはなにも言えなかった。ライラは確かに、ラダと結婚することを夢見てきた。けれどこんな、契約結婚なんて。夢が絶望に変わる。いや、絶望ではない、これはチャンスだ。契約結婚から始めたって、真実の愛は手に入るはずだ。


「ラダくんは、それでいいの?」

「どうせ俺には、政略結婚しかないからな。ならば、少しでも顔見知りのオマエなら、多少は苦しみも和らぐだろ」


 本当は、泣きたかった。ラダを殴ってやりたかった。それでもライラは、ラダを忘れたくなかった。今、その薬を飲んだら、ラダは一生ライラから離れていくような気がして、ライラは涙を飲み込んで、笑って見せた。秋の太陽は夏の激しさを少しだけ残し、ラダの白銀の髪の毛を美しく透かす。


「妻になります。ラダくんは忘れただろうけど、私はずっと、あの日の約束のために生きてきたんだよ」

「交渉成立だな」


 なんの約束だ、とは聞いてくれなかった。興味もないのだろう。ライラの気持ちなんて関係なく、ラダはただ、この秘密を守るために、ライラを妻に迎えることに決めたようだった。

 ラダとライラの、契約結婚が始まる。

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