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二十五、ラダと毒?


 平穏な日々は、突如として奪われるものだ。

 ラダとライラがイルの元で修行するようになってしばらく、城で騒ぎが起きた。王さまが倒れたのだ。


「父上!」

「王さま!」


 当然、ラダもライラも城に駆けつけ、ハルト皇子もシド皇子も、ラダに白い目を向けていた。

 王さまは食事の後に急に倒れられたのだと聞く。王さまには、重篤なゼラチンのアレルギーがあることは、この場の誰もが知ることだった。

「ラダ。オマエが父上にゼラチンを食べさせたのか?」

「な……兄上。俺は……」


 イルとの修行は今日は休みで、だからラダは、城で料理屋ノアの試作をしていた。それが悪かった。間の悪いことに、王さまがアレルギーに倒れ、真っ先にラダが疑われたのだ。

 ベッドに横たわる王さまは息苦しそうで、体に発疹もある。

 爪の間が黒く染まっており、すすのようなにおいがした。

 ライラは首をひねる。ラダの母を殺した犯人が、今度は王さまを狙ったのだろうか。

 今日は王さまは、朝には趣味の絵を書き、昼前から上書を読み始め、遅めの昼ごはんを食べたのだという。


「ラダ、オマエ、厨房にいたらしいじゃないか。盛ったな?」


 シド皇子に詰問される。ラダは言い返さない。兄弟の軋轢は大きなものとなり、ラダたちの血すら引き裂く。

 ハルト皇子も、ラダを憎々しげに見ていた。


「ラダくん、王さまの部屋を見たいのですが」


 ライラはなんとしても、ラダを守りたかった。それに、当てがないわけではないのだ。これがゼラチンのアレルギーだとしたら、部屋にアレがあるはずだ。


「ライラ?」

「信じてください。料理に関することなら、私には多少の知識があります」


 しかして、ラダとライラは、ハルト皇子とシド皇子を連れ立って、王さまの部屋へと向かうのだった。


 王さまの部屋に入ると、あのすすのようなにおいが濃くただよっていた。ライラは、王さまが描いた絵を確認し、侍女にたずねる。大きな絵画だ。水墨画と呼ばれるそれは、部屋の壁一面もある大作だった。これを描くには、相当量の墨が必要だっただろう。


「今日、王さまはこの絵を描く時、絵の具を体に被ったのでは?」

「は、はい……輸入品の良い黒墨が手に入ったのですが、誤って墨入れを倒し、体に。すぐに湯浴みなされたのですが、湯浴みのあとも、絵を描かれていました」


 王さまの爪が黒かったのは、この黒墨のせいだ。西洋のインクや絵の具とは違う、すすけたにおい。


「これは、墨汁です。墨をすって、黒いインクを作るのですが」


 西洋のインクと違って、墨は固形だ。絵の具でも半固形程度である。この墨を固めるのに、にかわが使われるのだ。膠とは、動物の皮を煮詰めたもの。そしてゼラチンは、動物の肉や皮を煮詰めて作る。つまり、墨でゼラチンのアレルギーが起こるのだ。


「さようなことがあるのか」

「はい。しかし、墨など、どうやって手に入れたのでしょうか」


 少しできすぎな気もする。ゼラチンアレルギーの王さまに、わざわざ墨を贈るなんて。


「王さまに贈り物をする人間は多い」

「はい。だから、気がかりなんです」


 結びつけたくはないが、ラダの母を殺した犯人と、関係があるのではと思ってしまう。ラダが結婚した途端に、父である王さまが狙われるなんて、偶然だろうか。


「ラダくん、この件は」

「ライラ。これ以上首を突っ込むな」

「し、しかし。ラダくんの母君のことと……あっ」


 ルイスにあれだけ口止めされていたのに、ライラは自分の口の軽さに腹が立つ。しかし、ラダは顔色ひとつ変えずに、


「ソナタまで失うつもりはない」

「ラダくん?」

「これは単なる偶然だ。ソナタはなにも考えるな」


 それでも、ラダが今日、城にいるタイミングで王さまが倒れたのが偶然なのか、ライラには知る必要があった。昔のラダに戻ってほしい。ライラと共に時間を過ごした、幼き日のように。

 そのためには、どうしてもラダの母の事件を解明する必要があるのだ。

 ライラは王さまが意識を取り戻すまで、献身的に介抱した。その傍には、ラダもシド皇子もハルト皇子もいて、この三人が仲違いしている現実を、ライラは受け入れたくなかった。

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