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二十四、ラダの修行?

 そもそもラダは、師匠であるイルに修行の終わりを告げられていない。途中で逃げ出したのだ。九歳のときだ。ラダは二人目の婚約者――マリ王女との婚約が決まり、修行に意味を見いだせなくなった。呪いをひた隠すために、イルから距離を置いたのだ。修行を続ければ、いずれマリ王女にラダの呪いがバレる。しかし、マリ王女と結婚するつもりはラダにはなかった。なぜならラダには心に決めた人がいた。

 ライラはお風呂で今日の疲れを洗い流す。夕食はライラが作って、でもラダは食べてくれなかった。


「お風呂お先でした」

「ああ」


 お風呂を上がり、濡れた髪を拭きながらリビングに戻る。ラダは何食わぬ顔でソファに座り、剣の手入れをしていた。昼間の怒りようはなんだったのかというくらい、拍子抜けした。イルはお酒を買いに出かけたらしい。

 そもそも、年ごろの女の子の風呂上がりを目にしても、なにも感じないのだろうか。


「ラダくん……は」

「なんだ」

「女性には興味がない、のかなぁ」


 聞こえないようにつぶやいたつもりが、しっかり聞こえていたようで、ラダがあきれたようにため息をついた。


「俺だって、好いた女性くらいはいる」

「ええ、だれだれ。誰ですか?」


 女性、と称するからには、大人の女性なのだろう。ライラではなく。


「……オマエには関係のない話だ」

「ケチですね。別に話しても減るものじゃないでしょうに」

「……昔、な。俺に優しくしてくれた女の子がいた。笑うと目がなくなって可愛かったが」

「へえ、笑顔が素敵な」

「ああ。その女性に――約束を」


 約束? ライラが首をかしげる。


「ほら、オマエはところどころ雑だな」


 ラダは立ち上がって、ライラが手に持っていたタオルを受け取る。そのまま、ライラの後ろに回り込んで、ライラの髪の毛をポスポスとタオルで挟む。


「や、ラダくん」

「オマエの髪は、美しいな」

「……それ、供子に言うみたいですよね」

「実際に子供だろう?」

「お、同い年でしょう!」


 むきになった。自分だって、ラダと同じ十八歳の大人だ。ラダと結婚を約束した、女性だ。そう思ってしまうのは、先ほどラダが『女性』の話をしたからだろうか。


「わかっている。オマエを子ども扱いしているつもりはない」

「じゃあ、これはなんですか」


 ポンポンと、髪をタオルドライしながら、時折頭を撫でている。


「すまん。小動物のようで、つい」

「小動物? 私が?」

「ああ。食事をすればリスのようで、ダンスをすれば生まれたての小鹿、風呂上りは子犬のようだ」

「ほらもう、やっぱり子ども扱い!」


 ぷりぷりしながら振り返る、と、間近にラダの顔があり、ライラは思いきり後ろに退き、ソファから落ちそうになる。


「わ、」

「っと、オマエはほんとうにそそっかしい」


 ラダはライラを抱き留めた。慣れた手つきで。ラダは困ったように笑ってライラを見下ろしている。

 しかし、自分の失態に気づいたのか「すまぬ」また、謝って、ライラから離れた。


「今日はもう、寝ろ」

「そう、ですね」

「あとの護衛は師匠に任せるゆえ。くつろぐがよい」


 そう言って、ラダはキッチンへと歩いて行った。


 翌朝は、ラダがご飯を作ってくれた。

 肉とジャガイモをしょうゆで煮込む料理は、ライラだけでなく師匠のイルのお気に入りでもあった。


「これは酒に合うからなあ」

「イルさんは飲みすぎなんです」

「いやいや、ライラにはかなわんな」


 言いながらも、朝からまたワインを一瓶あけた。お酒っておいしいのかな。ライラが酒を見つめていると、


「飲むか?」


 イルが酒を勧めてくる。

 ライラはぱっと顔を明るくして、自分のグラスをイルのほうに傾けた。しかし、その手をラダが制止する。


「オマエ、ホットワインの件を忘れたのか?」

「え。えー、そんなお堅いことを」

「そもそもオマエは未成年。酒はまだ早い」

「うっ、それを言われると言い返す言葉がないです」


 ライラが渋々グラスを引っ込める。ラダのあきれたような顔。


「そう言わずに。ラダ、ソナタも飲め」

「俺はいいです。ライラと同い年ですよ?」


 ラダはライラの目を気にして、お酒を飲まなかった。けれどきっと、外交の場ではもう、お酒も飲んでいるのだろう。お酒の扱いに慣れているし、ライラのように下戸でもないのだろう。


 ラダとイルは、今日はふたりでドラゴンになっての修行に出かけるから、ライラはひとり、家に残された。現状、ラダの呪いの解き方がまだ完全にはわかっていない。


「白きドラゴン、聖なる純潔の乙女と出会い――呪いが解け、幸せになる。その鍵が、聖女と乙女のキス」


 どうして自分じゃないのだろう。ライラがその運命の乙女であったのならば、きっとこの契約結婚も意味のあるものになったのに。

 考え事をすると悪いことばかりになってしまう。ライラはベッドに横になり天井を仰いだ。家に誰もいないと思うと、なぜだか気が抜けて、眠気に襲われてしまう。


「眠っちゃ、ダメ、なのに」


 うとうと、うとうと。瞼がくっついて、そのままライラの意識が真っ暗になった。それと同じころ、ライラの部屋のドアが開いた。


「ねてるのか?」


 泥の匂いがふっとにおう。かなり近くにラダがいるらしく、なのに睡魔に負けてライラは起き上がれない。


「ふ、可愛い寝顔だな」

 ふに、と頬を撫ぜられる。ライラは身じろぐ。

「ライラ」

「ラダくん……あせくさい……」

「すまぬ。ライラ」


 ライラの前髪をいじって、ラダが笑う。穏やかな笑みだ。ラダの本来の笑みのようにも思う。気の抜けた、柔らかな笑み。

 ライラは思わずラダの手を握って、頬に摺り寄せた。


「わたし、ラダくんの手、好きです」


 大きくて、あたたかい。ライラよりも体温の高い手が。

 ラダがライラの頬をまた、撫ぜる。


「俺も、オマエのことが――」


 眠気に襲われて、ラダの言葉は届かなかった。ラダがライラに優しくしてくれる理由を、ライラは知らない。知らないけれど、いつか教えてくれたらな、と思った。



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