十九、ラダと氷?
客人用の部屋が一部屋しかなく、その上ライラたちが夫婦だとノフには嘘をついたから、ライラとラダは一つの部屋に泊まることになっている。
ラダは部屋の床に毛布を敷いて、底に寝転がり目を瞑った。
「ラダくん、聞いて」
「聞かん。明日の早朝にここを発つ。もう寝ろ」
「寝るって言ったって……ラダくん、せめてベッドに寝て」
「できん」
ラダは強情で、だったらライラは。
「ライラ?」
「ラダくんが床で寝るなら、私も床で寝ます」
ラダから少し離れた床に横になる。ほら、冷えて体が痛い。ライラが小刻みに震えていると、ラダが起き上がる気配がした。そしてそのままライラの体が抱き上げられて、ベッドの上に降ろされた。
「ラダくん」
いまだ、床に寝ようとライラに背を向けたラダの服の袖をつかむ。ラダは振り返らない。ライラはもう一度、
「ラダくん、一緒に寝よう」
一瞬だった。ラダは振り向きざまにライラを押し倒して、ライラの上に覆いかぶさった。ラダのせいで天井が見えなくなる。ラダの顔が、暗くてよく見えない。
「オマエは、誰彼かまわず一緒に寝るのか?」
「……ラダくん、だから、譲れないの」
「……はぁ」
ライラの上からラダがのき、次にはベッドが軋む音。ライラはラダと距離を置いて、ベッドにもぐりこむ。ライラは毛布をラダとふたりでかけて、きゅっと目を瞑った。ラダの息使いが向こうに聞こえる。
「ラダくん」
「……」
「もう寝ちゃったか」
ライラは天井をぼうっと見た。この北の地は寒く、四季がほぼない。しかし、オスロほどではないから、年中雪に包まれているわけでもない。だが、一年中寒いから、きっとこの場所なら。
「でも、氷を運搬する間に溶けちゃうし」
眠れなくなる。考え事をするとどうにも眠れなくなる性分で、ライラはラダを起こさないようにベッドを起き上がり、部屋を後にした。
リビングには、ワインを飲むノフの姿があった。
「なんだい、眠れないかい?」
「あ、はい」
「飲むかい?」
「いえ、未成年なので……」
ライラはダイニングテーブルの椅子に座る。向かいのノフに、なんとなく聞いてみる。
「夏にかき氷を出したいんですが、冬ならともかく、夏に氷って保存できないですよね」
「なんだい、藪から棒に。確かに、安定して氷を手に入れるには、氷魔法では弱すぎるね。オスロから運んでも保存する場所がない。今の人間の魔法力は王族でも極わずかだから、氷を作り出せまい」
ワインを一気にあおって、ノフが笑った。
「地下室を作ればいいんだよ。そこに氷を保存すれはば、溶けることなく保てるだろう」
「地下室?」
「穴を掘って、地下室を作るんだ。地下室の下と上には、藁を敷き詰めて保温するんだ。氷室っていってね。先人の知恵さ。まあ、オスロに行けば、氷なんて手に入るが。しかしあそこは氷を独占する国だから手に入るまい」
ワインをグラスについで、ノフが顔を赤くしながら上機嫌に語り出す。
「オスロの氷は、それは見事さ」
「見事?」
「ああ。彫刻の技術が磨かれていてね。我が国にも、なにかと行事の際は見事な彫刻を贈られているんだ。まるで刃物かガラスのように鋭いものさえ」
「そうか、そっか。そうか!」
がたた、と立ち上がって、ライラはその場に跳ね上がった。これで、あとは氷を薄く削る機械が出来上がれば、このメニューを実現できるだろう。その技術は、羽国のものと、オスロのものを組み合わせればいい。ライラは早くラダに話したいのを我慢して、
「じゃあ、おやすみなさい」
「ああ、よく寝な?」
今一度、あてがわれた部屋に入っていく。真っ暗な部屋にラダの寝息が聞こえる。明日の帰りの馬車で、これからのプランを練ろう。氷室を作れば、このメニューは一年中提供可能になる。今はちょうど冬だ。今のうちに氷を王都の氷室に保存すれば、きっとこのメニューは、革新を起こす。
そしてもうひとつ。氷を使えば、ラダの母の殺人の証拠を隠滅できる。つまり、ラダの母は鋭利な氷で殴られて死した。その部屋は、真夏にも関わらず暖炉が燻っていた。それは、凶器の氷を溶かすために、暖炉に火をつけ氷を投げ入れたからだ。ハルト皇子の母の部屋から見つかった凶器は、不自然だった。殴る際に柄を持っていたのなら、そこに血が付着するはずがない。




